平成16年12月15日判決言渡し 同日原本領収 裁判官書記官
平成16年(ワ)第15143号 慰謝料請求事件
口頭弁論終結の日 平成16年10月6日
判 決
千葉県○○市○○***番地
原 告 ○ ○ ○ ○
東京都新宿区○○*丁目*番*号○○マンション***号
被 告 △ △ △ △
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、30万円及びうち10万円に対する平成16年4月8日から、うち10万円に対す
る同年5月27日から、うち10万円に対する同年7月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2 事案の概要
本件は、被告の管理運営する電子掲示板において投稿を行っていた原告が、被告から同掲示板への接続を
拒否(3回)されたり、既に行った投稿を削除されたことが不法行為にあたると主張して、損害賠償及び遅
延損害金(始期は各不法行為の日)の支払を求めている事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)
(1) 原告は、被告が管理運営していたインターネット上の電子掲示板(以下「本件掲示板」という。)
に数多くの投稿を行ってきた者である。
(2) 被告は、ハンドル名「N」が提供した話題(トピック)についての一連の発言(スレッド)のうち
原告の投稿記事3ないし4篇を削除し、ハンドル名「M」が提供した話題(トピック)についての
一連の発言(スレッド)のうち原告の投稿記事1篇を削除した(以下これらの削除を併せて「本件削除」という。)
(3) 平成16年4月8日午後9時50分ころ、被告は、以後の原告からの接続を拒否する措置を執った。
(以下「第1接続拒否措置」という。)
(4) 原告は、平成16年7月13日に投稿を行ったところ、被告は、同月15日から、原告の接続拒否措置
を採った。(以下「本件第3接続拒否措置」という)。
(5) 被告が本件掲示板運営のために設けている規約(以下「本件規約」という。)には、要旨以下のような
定めがある。
ア 第三者が投稿した記事を管理者は無断で全文削除、一部の改ざんを行うことはできない。ただ
し、後記イに示す事柄であると認めた場合は除く。
イ 第三者が投稿した記事が?ないし?に示す投稿であったと管理者が判断した場合に限り管理者は
第三者の投稿記事を無断で全文削除、一部の改ざんを実施することができる。
? 他人を著しく不快を思わせる発言であった場合
? 法律その他の条例等の公共の規約に反する内容であった場合
? 一方的な宣伝目的のみの投稿であった場合
? 第三者が不意に二重投稿を行ったその2番目以降の記事
? Webサーバへの著しい負荷を与える行為が発覚した場合
? 第三者の発言記事に明らかな誤記であると管理者が認めた場合はその箇所
? 個人のプライバシー(註・規約では「プライバシ」)をはじめとする実名の表記で当事者への
許可なしである場合
? 半角カタカナ等による文字表示不具合記事
? 投稿者が記事の全文削除を管理者へ依頼した場合
? 第三者が投稿記事に対し管理者への要望、通知などを明記した場合はその箇所。但し、管理者
が要望に対し妥当であると判断し当該措置を行った後の場合のみとする。
ウ 管理者がサイト運営上好ましくない第三者と判断した者に対し、IPアドレスによるアクセス拒
否を行うことができる。
エ 管理者は前記????に該当すると判断した場合、該当投稿記事の削除又は改ざんの強制措置と
同時にアクセス拒否も遅滞なく行われなければならない。
2 争点
(1) 削除された記事の内容
(2) 平成16年5月25日から同年6月7日まで、被告が、原告からの接続拒否措置(以下「本件第2
接続拒否措置」という。)を採ったか
(3) 本件削除及び各接続拒否措置が正当なものか否か
(原告の主張の要旨)
ア 本件削除は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(以下「プロバイダ責任制限法」という。)3条2項に定める免責条項の要件には該当しないにも
かかわらず行われたものであるから、被告は損害賠償の責任を免れない。
イ 投稿内容が他者の名誉を毀損したり、プライバシーを侵害するようなものでない限り、他からの
削除の要請もないのに、管理者が勝手に投稿内容を削除したりすることはできない。
ウ 削除された記事の内容は、本件規約の要件(前提となる事実(5)イ?)にも該当しない。
エ 本件削除及び本件第1接続拒否措置は、原告に事前に断りもなく行われたものであり、しかも原告
に対する差別的な取扱いである。
オ 本件第2接続拒否措置の前に、原告は本件掲示板に投稿を行ってはおらず、接続拒否を受ける理由
がない。
カ 本件第3接続拒否措置は、道路交通法の施行に関する記事を投稿しただけであり、また、管理人に
対する通知の部分をもって、接続拒否をする理由にはならない。
(被告の主張の要旨)
ア 電子掲示板の性質上、他人を不快にさせる投稿などが予想されることから、管理者権限で投稿を削
除できるなどの規定を設けている。
イ 原告の投稿の表現は本件規約(前提となる事実(5)イ?)に該当すると判断した。
ウ 本件削除及び各接続拒否措置は、原告のみを特定差別して取り扱うものではない。
エ 第3接続拒否措置については、原告は、自らの投稿を頻繁に編集したり、原告が本件第1接続拒否
措置についての審理が確定しない状態にありながら同じような投稿を繰り返
したことから、悪質な投稿者と判断して行ったものである。
(4) 原告の損害
(原告の主張)
精神的損害 本件削除及び第1接続拒否措置につき10万円、本件第2及び第3接続拒否措置につき
各10万円
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(削除された記事の内容)
(1) 被告は、削除した原告投稿の記事のうち「N」が提供したトピックについてのスレッドに関する
もの(以下「N関連情報」という。)の内容について、いったん削除された内容のものを詳細に復
元することまではできないものの、記憶に基づいて再現したとして、以下のとおり主張する。表記上
やや不明瞭な点あるいは明らかな誤記もあるが、主張どおりに引用する。)
ア 投稿1 投稿者「N」
「先日、私は駐車違反で反則切符を発行されるとき免許効力失効状態であったことが見つかりまし
た。本来なら無免許になるところでしたが、結果は不起訴処分になりました。その理由としては駐車
禁止した行為自体警察官が現行犯として確認したわけでなく、私が運転していた証拠がないことを主
張したためだと思います。」
イ 投稿2 投稿者原告(投稿1に対する返信)
「また、おかしいこと書いてるね。貴殿は無免許であることや自動車を自ら運転して駐車させたこと
を任意に供述して交通事件告知書の供述欄に署名したんでしょ?反則行為処理手続に基づく同告知書
の作成が適法に処理されることから自白と同等の証拠と解される点からしても貴殿の考えである事柄
は通るわけがありません。あくまでも捜査機関において違反開始時が確定できないことによる嫌疑不
十分と判断する同人の趣旨は、罪体立証における法解釈は明らかに間違っており、そのような判断に
より不起訴になる考えそのものが間違っています。この掲示板は不起訴になるための手段を伝える場
所ではないゆえ、貴殿がこのような間違った解釈で主張されても他の方が投稿記事を読まれたときに
勘違いされる原因を作ることにもなり困ったものだ」
ウ 投稿3 投稿者「N」(投稿2に対する原因)
「以前も自分が書いた内容に対して批判していたよな。前回のこともしかりこれまであなたが発言を
見ていきてずっと感じてきたことだけど、相変わらず難しい法律用語を並べて、偉そうに他人を批判
し自分が明らかに正当性があるようにいつも書いているけど、それはあなたが自己中心的に考えた理
論でしょ?脳内国家主義は困るね。所詮司法試験
落第生の考える事だろうけどさ。もっとやさしい書き方とかあるんじゃないの?難しい法律用語はい
いからもっと誰でもわかり易い表現で説明してくれないかな?」
エ 投稿4 投稿者原告(投稿者3に対する返信)
「脳内国家主義とか言われてもねぇ。当方は常に法律解釈に基づき述べていて間違っていることは間
違っているし客観的で論理的に述べているだけだけどなにか問題でも?司法試験落第生と言われても
そんなこと貴殿が普段当方がどんな仕事をしているかといった個人的所要も知る由がないのによくそ
んなこと言えるね。最もこんな間違った法解釈しかできないのですからしょうがないけど。以前も貴
殿に対して間違いを指摘したときも当方に解釈をいろいろ難癖つけられたけど、なにか当方に恨みで
も?」
オ 投稿5 投稿者「75」(投稿4に対する返信)
「原告が投稿されるといつも言い争いが始まりますね。なぜそうなるか、ご自身でお
わかりになっていますか?投稿される文面として法律的解釈としては一目を置くところがあり常に感
心させられます。しかしあなたの投稿内容には感情的で一方的に批判をする文章があってその結果い
つもの展開になる。そうは思いませんか?批判するのもいいですが、もっと言い方を工夫されてはい
かがでしょうか?」
カ 投稿6 投稿者原告(投稿5に対する返信)
「これ以上無意味なやり取りは終了させたいのですが、最後に当方からの意見を言わせていただきま
す。当方は間違ったことはちゃんと指摘し正当な解釈をしたまでです。ところで75さんは貴殿を批
判する前に自分もこれまでどんなことをしてきたか考えたほうがよいのでは?あなたがこれまで書い
てきた記事も十分品位に書ける文言だと思いますが。他人の指摘をする前に我が
行動を見直すべきだと思います。」
(2) 被告は、投稿1及び投稿2に関して、被告自身の道交法に対する知識を超える難問論議であり、内容
的にも理解が不能であるから、具体的質問内容と返信内容の正確性についてはあまり自信がない旨述
べるものの、投稿2の原告の言い回しについては、これを読んだ他の者とのやり取りもあり、他人を
批判する際の文言表現は、この程度の内容、表現であったことは間違いない旨主張する。
上記各表現は、かなり具体的かつ詳細なものであるし、原告が行った他の投稿にも、前記投稿2、
4及び6に見られるようなやや攻撃的・侮辱的な表現が散見されることからすると、被告の上記各再
現は大筋で信用できるものと考えられる。
これに対して、原告は、前記投稿2、4及び6に見られるような表現は用いていないと主張する
が、投稿内容の大筋及び経緯についての主張は、被告の再現と一致している(弁論の全趣旨)し、自
ら行った投稿内容・表現について具体的な記憶はないとしていることからすると、上記主張は採用で
きない。
よって、被告により削除された記事の内容、表現は、概ね前記の被告の主張アないしカのとおりで
あったものと推認できる。
(3) 本件削除により削除された原告投稿の記事のうち「M」が提供したトピックについてのスレッド
に関するもの(以下「M関連記事」という。)の内容は、「元来の所有者が不明で自動車検査証の
有効期間が途過しておりナンバープレートを違法に付け替えたと思われる自動車を知人が購入して無
免許で運転した結果、事故を起こした。この場合は無免許運転による道路交通法違反及び業務上過失
傷害罪、窃盗罪の各自刑法犯に該当すると思われるが、刑事上の処分はどうなるのか
」「窃盗がなく
なれば、逮捕がなくなりますか」などの各記事を受けて、原告が「本件事案においては、知人が盗品
と知っていた場合には窃盗(刑法235条)ではなく盗品有償譲受け(刑法256条2項)に該当し
ます。」という要旨(詳細の表現は不明である)である。(弁論の全趣旨)
2 争点(2)(被告が本件第2接続拒否を採ったか否か)について
証拠(甲1の13の1、1の13の2)及び弁論の全趣旨によれば、被告が、原告に対して、本件
第2接続拒否を採ったことが認められ、これに反する証拠はない。
3 争点(3)(本件削除及び各接続拒否措置が正当なものか否か)について
(1) 電子掲示板は、もともと特定人が、特定の目的のために設けたいわば私的なスペースというべきもの
であるから、同掲示板の作成者あるいは管理人(以下「管理人等」という。)には
同掲示板の設定・運営についての包括的管理権が存在する。そしてその管理権の一環として、掲示
板の運営等についての規約等のルールを設ける権限も当然に認められ、そのルールの中で設定した管
理人の権限に基づき、電子掲示板への記載内容等を削除したり、電子掲示板に特定の人間が参加する
ことを拒否することが許される。
逆にいえば、電子掲示板を閲覧・投稿等を行う参加者は、あくまで掲示板の管理者等の作り出した
私的スペースに参加するものである以上、参加者は規約に服する旨の明示の意思表示を行ったか否か
にかかわらず、管理者等が設けたルールに従わなければならない。
もっとも、管理者等の定める規約といえども法令等に反するような規定は認められないし、電子掲
示板に投稿を行ったり、あるいは投稿を閲覧することになる参加者は、その設定された規約等の範囲
内においては、自由に投稿を行ったり、議論に参加したり、投稿内容を閲覧することができるものと
期待し、かつその前提で電子掲示板に参加するものであることを考えると、管理者等の定める規約が
表現の自由の趣旨や関係諸法令の規定に照らして公序良俗に反するといえるような場合又は規約に基
づく管理人の権限行使が著しく不当であると認められるような場合には、規約の定めや規約に基づく
権限行使が他人の権利を侵害したものとして不法行為となる。
なお、プロバイダ責任制限法3条2項は、情報発信を防止した場合に発信者について生じた損害に
ついての賠償責任の免責について規定しているが、同条項は、管理者等が規約を設定し、その規約に
基づいて削除等を行うことを禁止する趣旨ではないから、削除等の措置が、同条項の免責要件には該
当しない場合であっても、規約に基づいて行われたときには、不法行為による損害賠償責任を負うと
は限らない。
(2) 本件削除及び本件第1接続拒否措置について検討する。
被告は、原告の投稿が前提となる事実(5)イ?に該当するために削除したとしている。N関連記事
の内容は、他者に対して不必要に攻撃的な表現が用いられており、他人を著しく不快を思わせる
発言に当たるといえるし、本件規約の内容が公序良俗に違反するとか、権限行使が
著しく不当であるような事情も認められないから、N記事の削除及び本件第1接続拒否措置(前
提となる事実(5)エに基づくと認められる。)は正当であって、不法行為には当たらない。
本件証拠上からは、M関連記事の内容が、前提となる事実(5)イに該当するものであるとは認めら
れないが、M関連記事の削除が、NEZ関連記事の削除及び本件第1接続拒否措置とほぼ同時に行
われていること(甲1の4、弁論の全趣旨)、NEZ関連記事の内容及びその削除にいたるまでの各
投稿の経緯などからすれば、被告が関連記事を削除したことが、原告に対して損害賠償責任を負
うほどの権利侵害行為と評価することはできない。
(3) 本件第2接続拒否及び本件第3接続拒否措置
本件削除及び本件第1接続拒否措置によって当事者間に紛争が生じたこと(甲3の1ないし3の弁
論の全趣旨)、さらにこの紛争が訴訟にまで発展し、その後に本件第2接続拒否及び第3接続拒否措
置(原告の投稿後に行われた)が行われたことなどから考えると、ここで原告からの接続を認めてし
まうと、原告が被告との紛争を掲示板内に持ち込んで感情的な書き込みをしたり、また他者からの投
稿に対して攻撃的又は感情的な表現で返信したりして、他の投稿者が参加しづらい状況を作ってしま
い、掲示板の運営にかなりの支障が出るおそれがあったので、管理人である被告が、管理権に基づい
て、原告を排除しても、やむを得ない措置というべきであって、不法行為とはいえない。(また前提
となる事実(5)ウに該当するということもできる。)
(4) 以上のとおり、本件削除及び本件各接続拒否措置は、不法行為に当たらない。
(5) これに対し、原告は、要旨、前記第2の2(3)のとおりの主張をする。
同(3)ア及びイについては、削除等の適法性についての独自の見解を主張するものであり、これに対
する裁判所の判断は、前記(1)のとおりである。
同ウについては、他人にとって不快となるか否かについての評価の相違に過ぎない。
同エについては、被告が「75」に対して接続拒否措置をとっていないことは認められる(弁論の
全趣旨)が、削除された投稿の中で行われている議論の端緒が原告による不適切な表現(前記1(1)
イ、エ)によるものであることからすれば、原告に対する各措置が不当とは到底許されない。
同オ及びカについては、前記(3)のとおり、被告による各措置はやむを得ない措置として許されると
いえるから、原告の主張は失当である。
4 以上により、その余の点を判断するまでもなく、原告の各請求はいずれも理由がない。
第4 結論
よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法61条を適用して、主文のとおり判断する。
東京地方裁判所民事第39部
裁判長裁判官 中 西 茂
裁判官 作 原 れ い 子
裁判官 横 地 大 輔