平成17年4月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 
平成17年(ネ)第127号慰謝料請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成16年(ワ)第15143号)
口頭弁論終結日 平成17年3月1日
 
 
 
 
 

判            決
 
 

千葉県○○市○○***番地

控     訴     人     ○   ○   ○   ○

東京都新宿区○○*丁目*番*号○○マンション***号

被   控   訴   人     △   △   △   △
 
 
 
 
 

主            文
 
 
 

 1  本件控訴を棄却する。

 2  控訴費用は控訴人の負担とする。
 
 
 
 
 

事 実 及 び 理 由
 
 

第1 控訴の趣旨
 

 1  原判決を取り消す。

 2  被控訴人は、控訴人に対し30万円及び内金10万円に対する平成16年4月8日から、内金10万
   円に対する同年5月27日から、内金10万円に対する同年7月15日から、各支払い済みまで年5分
   の割合による金員を支払え。
 
 

第2 事案の概要
 

    本件は、被控訴人の管理運営する電子掲示板において投稿を行なっていた控訴人が、被控訴人から同
   掲示板への接続を3回拒否されたり、既に行った投稿を削除されたりしたことが被控訴人の違法な行為
   に当たると主張して、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料30万円及び
   これに対する各不法行為の日から支払い済みまで民法所定の年5分の遅滞損害金の支払を求める事案で
   ある。
    原審は、被控訴人による控訴人の投稿の削除及び被控訴人の管理運営する電子掲示板への接続拒否は
   不法行為に当たらないとして、控訴人の請求を棄却した。
    本件事案の概要は、以下のとおりに付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」
   欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

  (当審における控訴人の主張)

 1  裁判所法27条2項は、判事補が同時に2人以上合議体に加わることができないと定めているが、裁
   判長裁判官として中西判事のほかに、右陪席裁判官として作原判事補、左陪席裁判官として横地判事補
   が合議体の構成員になった原審は、2人の判事補が合議体を構成するという違法な状態で判決を言い渡
   したものであるから、原判決には絶対的取消事由が存在する。

 2  原判決が認定した被控訴人によって削除されたN関連記事の内容は、従前の控訴人及び「N」
   の投稿内容に照らして著しくそごが生じており、被控訴人の憶測又は虚偽の主張に誘導された誤った認
   定である。控訴人は、Nの投稿に対し、自己の私見を穏当な方法で述べたものであり、攻撃的ない
   し侮辱的な表現でないことは、普通の注意と読み方で控訴人の投稿記事の体裁をみれば明らかである。

 3  原判決は、N関連記事の控訴人の投稿について、攻撃的ないし侮辱的であるとし、他人を著しく
   不快にさせる表現に当たると認定したが、控訴人の投稿記事のうち、どの語句が他者を不快にさせる表
   現であるかが全く示されておらず、原判決に評価の相当性を見いだすことは困難である。
    また、「不必要に攻撃的な表現」、又は「他人を著しく不快にさせる表現」の基準は、一般人の観念に
   おいても定立し難いことは明らかであって、本件規約では、「第三者が投稿した記事を管理人は無断で
   全文削除、一部改ざんを行うことはできない」と明文をもって定めていることからすると、電子掲示板
   の管理者がその当否を判断するについては明確な基準を設けるか、当該表現をした者に対して当該発言
   の趣旨を聴取した上で、当該文言が正当な表現であるか、それとも削除するのが相当であるかが判断さ
   れるべきである。しかるに、被控訴人は、上記の経過を経て控訴人の投稿の削除及び接続拒否を判断し
   たものではないから、被控訴人の本件削除及び接続拒否は違法である。

 4  原判決は、事前の通告及び控訴人の不服の存否の確認を要さずしてN関連記事の削除をできると
   したが、投稿した者の異議を受け付けるまでもなく削除の措置をとることが許されるほどに控訴人の投
   稿記事の内容が一義的明白に違法性を有するものではなかったし、N関連記事および「M」が
提供したトピックについてのスレッドに関するもの(以下「みな関連記事」という。)の控訴人の投稿記事の
内容及び投稿態様は、公序良俗に反するものとは認められず、控訴人には著作人格権が認められるので、
被控訴人による本件削除は、控訴人に認められる著作権法上の公表権、氏名表示権、
   同一性保持権を侵害する違法なものというべきである。
    また、原判決は、関連記事の投稿内容の削除については、本件規約の記事削除規定に依拠しない
   で、管理者が記事を削除する措置を講じることを認めるもので、憲法14条、同法21条2項の趣旨に
   反して私的自治の範囲を過大かつ不当に認めるものであり、違法であることは明らかである。
    掲示板の運営にかなりの支障が出るおそれがあるとの管理者の観念により永続的に接続を拒否する措
   置を講じることが許される本件規約に定める「サイト運営上好ましくない第三者」とは、社会通念上
他の参加者が同サイトを利用する意欲を喪失させることが疑いを差し挟む余地のないほどの推
   認できる状況を現に惹起させた事実があり、かつ以後も接続を行う可能性のある者をいうと解されるが、
   控訴人は、本件掲示板の開設目的である道路及び道路交通に関する事項に対する見解を述べているにす
   ぎないのであり、「サイト運営上好ましくない第三者」に当たるとは到底いえず、被控訴人が控訴人に
   対して本件接続拒否を行ったのは、憲法14条、同法21条2項の趣旨に違反する違法な行為である。

 5  本件利用規約に「他人を著しく不快を思わせる」場合に記事の削除及び本件掲示板への接続を拒否で
   きると定めていたとしても、控訴人について何らの権利侵害ないしは違法な利益侵害が顕在化したとは
   認められない以上、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
   (以下「プロバイダ責任制限法」という。)3条2項1号には該当せず、かつ、同項2号の所定の記事
   の削除に係る意見聴取を行った事実はないから、被控訴人は、プロバイダ責任制限法に基づき損害賠償
   責任は免れない。
 
 

第3 当裁判所の判断
 

 1  控訴人は、裁判所法27条2項は、判事補が同時に2人以上合議体に加わることができないと定めて
   いるのに、原審は、2人の判事補が合議体の構成員となって判決を言い渡したものであるから、原判決
   は取り消されるべきであると主張するが、判事補の職権の特例等に関する法律1条1項は、「判事補で裁
   判所法(昭和22年法律第59号)第42条第1項各号に掲げる職の一又は二以上にあってその年数を
   通算して5年以上になる者のうち、最高裁判所の指名する者は、当面の間、判事補としての職権の制限
   を受けないものとし、」と定めており、原審の構成員であった作原判事補は、判事補の職に任じられて
   から原判決言渡しまで9年8ヶ月を経過する判事補であり、最高裁判所の指名を受けた者であることが
   認められる(いわゆる特例判事補である。弁論の全趣旨)から、2名の判事補が原審の構成員となって
   いることは、裁判所法27条2項に何ら違反するものではなく、控訴人の主張は失当である。

 2  当裁判所も、被控訴人が行った本件削除及び各接続拒否が控訴人に対する不法行為に当たるというこ
   とができず、控訴人の被控訴人に対する慰謝料請求は認められないと判断するが、その理由は、原判決
   の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する
  
 3  なお、当審における控訴人の主張にかんがみ付言する。

 (1) 控訴人は、原判決が認定した被控訴人によって削除されたN関連記事の内容が被控訴人の憶測又
   は虚偽の主張に誘導された誤ったものであると主張するが、原審において、控訴人が被控訴人によって
   削除された投稿記事の文言の詳細については記憶がないと述べたのに対し、被控訴人は控訴人の言い回
   しを明確に記憶していると述べていることなどから照らして、原判決の上記認定が誤りとは認められない。
控訴人は、従前の控訴人及び「N」の投稿内容に照らして原審認定に係るN関連記事の内容が
著しくそごしていることや、控訴人の投稿記事の体裁からすると、控訴人が自己の私見を穏当な方法で
述べたものであり、控訴人の投稿内容が攻撃的ないし侮辱的な表現で
   はないことは明らかであると主張するが、従前の控訴人及びNの投稿態様や控訴人の投稿記事
   の体裁からすると、控訴人主張を認めることはできないし、控訴人の投稿内容に対する「N」や「75」
   の投稿内容から考えると、控訴人の投稿内容が攻撃的ないし侮辱的な表現を含んでいたことが推認され
   るから、控訴人の上記主張は失当である。
 (2) 控訴人は、原判決が、N関連記事の控訴人の投稿について、どの語句が他者を不快にさせる表現
   であるかを示さないで、攻撃的ないし侮辱的であるとし判断したのは相当性を欠くと主張するが、原判
   決は、控訴人の投稿全体の内容、表現の仕方、論調等から上記のとおり判断したものは明らかであり、
   原判決が、他者を不快にさせる語句を具体的に示さなかった点に違法があるこということはできない。
    さらに、控訴人は、電子掲示板の管理者が「不必要に攻撃的な表現」、又は「他人を著しく不快にさ
   せる表現」を判断するについての明確な基準を設けることなく、また、控訴人から当該発言の趣旨を聴
   取しないで、本件削除及び各接続拒否をしたのは違法であると主張するが、電子掲示板の管理人等には
   同掲示板の設定・運営についての包括的な管理権が存在し、その管理権の一環として、掲示板の運営等
   についての規約等のルールを設ける権限が認められ、そのルールの中で設定した管理人等の権限に基づ
   き、電子掲示板への記載内容等を削除したり、電子掲示板に特定の人間が参加することを拒否すること
   が許されると解され、本件規約の内容が表現の自由の趣旨や関連諸法令の規定に照らして公序良俗に違
   反するとは認められないことは、原判決の判示するとおりであるから、被控訴人が電子掲示板の管理者として、
「不必要な攻撃的な表現」、又は「他人を著ししく不快にさせる表現」について明確な基準を設けず、
また、本件削除及び各接続拒否を行う前に、控訴人から当該発言の趣旨を聴取せずに、本件規約に従って
本件削除及び各接続拒否を行ったことを違法 と認めることはできない。
 (3) 控訴人は、控訴人の投稿記事の内容が一義的明白に違法性を有するものではなかったし、控訴人の、N
   関連記事及びみな関連記事の控訴人の投稿記事の内容及び投稿態様は、公序良俗に反するものではなく、
   控訴人には著作人格権が認められるので、事前の通告及び控訴人の不服の存否の確認を
   行わずにした被控訴人による本件削除は、著作権法上の公表権、氏名表示権、同一性保持権を侵害する
   違法なものであると主張するが、上記(2)のとおり、本件規約の内容が表現の自由の趣旨や関連諸法令
   の規定に照らして公序良俗に違反するとは認められないから、事前の通告及び控訴人の不服の存否の確
   認を行わずに、本件規約に従って行った被控訴人による本件削除は違法とは認められない。また、本件
   削除によって控訴人の著作人格権侵害となるものでもないから、控訴人の上記主張は失当である。
    控訴人は、原判決が、関連記事の投稿内容の削除については、本件規約の記事削除規定に依拠し
   ないで管理者が記事を削除する措置を講じることを認めたのは、憲法14条、同法21条2項の趣旨に
   反する違法であると主張する。原判決は、関連記事の投稿内容の削除が控訴人に対する損害賠償責
   任を負うほどの権利侵害行為と評価できないと判断したのであって、その判断は妥当であり、憲法14
   条、同法21条2項の趣旨に反する違法がいるとはいえない。
    控訴人は、本件掲示板の開設目的である道路及び道路交通に関する事項に対する見解を述べているの
   にすぎない控訴人を「サイト運営上好ましくない第三者」に当たるとはいえず、被控訴人が控訴人に対
   して本件接続拒否を行ったのは、憲法14条、同法21条2項の趣旨に違反する違法な行為であると主
   張するが、上記のとおり、控訴人の投稿内容には他者に対し不必要に攻撃的な表現が用いられ、他人を
   著しく不快に思わせる内容を含んでおり、また、控訴人から被控訴人を被告とする損害賠償請求訴訟で
   ある本件訴訟を提起されたことを考えると、被控訴人が控訴人を「サイト運営上好ましくない第三者」
   に当たると判断して、本件各接続拒否を行ったことは、やむを得ない措置というべきであり、控訴人に
   対する不法行為に当たるとは認められないし、被控訴人の上記措置が憲法14条、同法21条2項に反
   する違法があるとも認められない。
 (4) 控訴人は、控訴人について何らの権利侵害ないし違法な利益侵害が顕在化したとは認められない以上、
   プロバイダ責任制限法3条2項1号に該当する事実は存在せず、かつ、同項2号所定の記事削除に係る
   意見聴取を行った事実はないから、被控訴人は、プロバイダ責任制限法に基づき、損害賠償責任を免れ
   ないと主張するが、上記のとおり、被控訴人は、本件規約に基づきて本件削除を行ったものであるとこ
   ろ、本件規約は公序良俗に反する違法なものであるとはいえず、そして、本件削除は、本件規約に基づ
   いて控訴人の投稿内容には他者に対し不必要に攻撃的な表現が用いられており、他人を著しく不快と思
   わせる内容が含まれていることを理由に行ったものであるから、本件削除が違法であるとは認められず、
   被控訴人がプロバイダ責任制限法に基づき損害賠償責任を免れないとの控訴人の主張は失当である。

 4  以上によれば、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
 
 
 
 

東京高等裁判所第2民事部

  裁判長裁判官   太  田   幸  夫

     裁判官   前  田   順  司

裁判官鯉沼聡は、異動のため署名押印できない。

  裁判長裁判官   太  田   幸  夫