巻機山 Mt. Makihatayama 南魚沼市
| 巻機山(標高1,967m)は、新潟県南魚沼市と群馬県みなかみ町の県境、上越国境を代表する山々の一つである。一般に巻機山と呼ばれるのは、巻機山本峰を中心に、牛ヶ岳(1,962m)、前巻機(ニセ巻機・1,932m)、割引岳(1,931m)の四峰からなる広大な山塊全体を指す。どっしりとした山容は遠方からもよく目立ち、越後を代表する名峰として古くから人々に親しまれてきた。深田久弥の『日本百名山』にも選ばれ、全国から多くの登山者が訪れている。 巻機山は古くから信仰の山として知られ、特に機織りの神・巻機権現を祀る霊山として南魚沼地方の人々の信仰を集めてきた。山名の由来には諸説あるが、『越後風土記』や江戸時代の地誌には、「山中で美女が機を織る姿を見たことから巻機山と名付けられた」「雲が山腹を帯のように巻く姿から『巻幡山』と呼ばれた」などの記述が見られる。また、この地方では機を織ることを「機を巻く」と表現したことから、「機を巻く姫が住む山」という伝説が山名の由来になったとも考えられている。 巻機姫にまつわる伝説は現在も山中各地に残されている。藍甕の滝は姫が機織りに用いる糸を藍で染めた場所、吹上の滝は飛沫を利用して糸を湿らせ、美しい布を織った場所と伝えられる。また、御機屋跡や機屋姫の池なども伝説ゆかりの地として知られ、神秘的な自然景観と相まって、山全体に独特の霊気を漂わせている。 巻機山は日本有数の豪雪地帯に位置し、冬季には山頂付近で積雪が10mを超えることもある。この膨大な雪が山の自然環境を育み、豊かな水資源や湿原、高山植物群落を形成している。山頂周辺には大小の池塘が点在し、初夏には雪解け水をたたえた湿原が広がる。その景観は「天空の楽園」とも称され、訪れる登山者を魅了してやまない。 植生は標高によって大きく変化する。山麓にはブナを主体とした原生林が広がり、中腹ではオオシラビソやダケカンバが見られる。森林限界を越えると広大な草原状の稜線となり、ハクサンコザクラ、チングルマ、イワイチョウ、ニッコウキスゲ、ミヤマリンドウ、ワタスゲなど数多くの高山植物が短い夏を彩る。秋には一面が黄金色や紅色に染まり、越後屈指の紅葉の名所としても知られている。 地質は基盤を花崗岩や石英閃緑岩が構成し、その上部を新第三紀の堆積岩が覆う複雑な構造を持つ。この地質と豪雪による浸食作用が、広大な湿原や滑らかな山容、深く切れ込んだ沢地形を生み出した。 登山コースは数多く存在するが、最も一般的なのは南魚沼市清水から井戸尾根を登るコースである。整備された登山道で比較的歩きやすく、多くの登山者が利用する。ほかにも割引岳を経由する尾根道、割引沢やヌクビ沢を詰める沢登りルート、古峰山から大窪沢の頭を経て割引岳へ至る縦走路、神字入から黒岩峰を経由するコース、さらに五十沢側から牛ヶ岳を経て山頂へ向かうルートなど、多彩な登山が楽しめる。 しかし、登山口から山頂までの標高差は約1,500mにも及び、行程も長い。特に日帰りでは体力と時間に余裕を持った計画が必要である。登山口周辺には清水地区の民宿や宿泊施設が点在しており、前日に宿泊して早朝から登山を開始するのが一般的である。 割引沢流域は巻機山を代表する景勝地である。空へ向かって吹き上がるように見える吹上の滝、深い藍色の滝壺を持つ藍甕の滝をはじめ、奇岩や大小の滝が連続する美しい渓谷が続く。春から初夏にかけてはシャクナゲやニッコウキスゲ、ハクサンコザクラなどが咲き競い、残雪と新緑が織り成す景観は格別である。一方で沢筋は複雑に入り組み、雪渓が夏まで残る年も少なくないため、ルートファインディングには十分な経験と装備が求められる。 また、山域には希少なアマツバメが繁殖する岩壁や洞窟があり、一部は保護区域に指定されている。豊かな自然環境を未来へ受け継ぐためにも、登山者には登山道を外れないことや、高山植物の採取を行わないことなど、自然保護への配慮が求められる。 巻機山本峰の山頂は広く緩やかで、一般的な山頂らしい鋭いピークは見られない。しかし、その穏やかな山頂からは谷川連峰、越後三山、苗場山、平ヶ岳、至仏山、武尊山など上越国境の名峰群が一望でき、晴天時には遠く北アルプスを望むこともある。豪雪が育んだ豊かな自然、古くから伝わる信仰と伝説、そして雄大な展望を兼ね備えた巻機山は、越後を代表する名山であり、日本屈指の魅力を持つ山岳として多くの人々を惹きつけ続けている。(案内図) 巻機山の機織姫の伝承
昔、大木六村に弥右衛門という狩りの好きな庄屋が住んでいた。ある日狩りに出て道に迷い、どんどん山奥へ入ってしまった。そのうち日が暮れ途方にくれていると、近くに人家の灯が見えた。近づいて中をのぞいて見ると、美しい女が一人で機を巻いて(織って)いた。戸を開けて一夜の宿を頼むと、女は「ここは人の来るところではない。家まで送ってあげるから背中へお乗りなさい。だが途中で絶対に目を開けてはいけません」といって、弥右衛門を背負って駆け出した。どうやら空中を飛んでいるらしいので、急に下界がみたくなり、そっと目を開けて見た。 しかし真っ暗で何も見えなかった。そのうち家の前に降ろされた。そのときはもう盲人になっていた。 女は機織りの神だといわれ、今でも大木六集落の木六神社(※地図 ※ストリートビュー)に、巻機山の天織姫命が祀られている。そして美人の女が機を巻いた(織った)山だというので、この山を巻機山と呼ぶようになったという。 巻機山登山の安全を祈願するため、訪れて見るのも良い。
🔶井戸尾根コースこのコースは空観路とも呼ばれ、田村空観師により昭和14年(1939)から開削が行われた道である。登山口の桜坂駐車場(一合目)から歩き始めてすぐに沢コースとの分岐に出る。道標に従い右へ進む。林の中へ登山道が続いている。緩やかに登ると尾根への取り付き地点、三合目に到着する。雑木林の緩登が終わる頃四合目となる。ここからは通称「井戸ノ壁」といわれる急坂で、道はツヅラ折れに高度を上げ、登山口から1時間30分ほどで五合目の『焼松』(1128m)に到着する。 焼松までの尾根道は、ブナ、ミズナラなどの二次林でウグイス、ヒガラ、コルリ、キビタキ、カケス、シジュウカラ、クロジ、ホトトギス、ウソ、ミソサザイなど野鳥の歌声が良く聞こえる。 小広場になっていて絶好の休憩ポイントである。米子沢の上で、正面にその源流から前巻機を仰ぎ、背後に大源太山や七ツ小屋山が一望できる。 ブナ林の緩やかな尾根筋をグングン上がっていく。緩傾斜の茂みの中は根曲竹で覆われている。六合目の展望台に出る。視界の先は天狗岩とヌクビ沢、天狗岩からから続く尾根の高みには三角錐の山頂を持つ割引岳が望まれる。ここから檜穴ノ段と呼ばれる急な尾根道を登り、ブナ林に変わって灌木が現れると傾斜も緩み、急にのんびりした草地の七合目『物見平』(1554m)に到着する。目の前に大きな前巻機(ニセ巻機)が立ちはだかる。 ここから八合目までは傾斜も急になりチシマザサの中の足元を見ながらの登りとなる。つらい登りで頑張りどころである。 八合目からは表土が流出したガレ地になっていて、前巻機(ニセ巻機)に登る斜面は階段状に登山道が整備されている。道を外れないように歩きたい。 道を登り切れば九合目の『前巻機(ニセ巻機)』(1861m)である。ニセ巻機というのは、積雪期にここを巻機山の頂上と間違える人が多いことから名前がついたという。 目の前の景色は今までとは一変し、開放的な景色とようやく見えた巻機山山頂部の山容に息をのむ。 前巻機(ニセ巻機)から山頂にかけては草原と風衝低木となり見晴らしが良くなる。ウグイス、ヒンズイ、メボソムシクイの声が聞こえてくる。またここから木道を鞍部へ下ると大きな池の『機姫の池』と『巻機山避難小屋』がある。小屋は平成16年(2004)に改築されたもので、小屋前の広場はテント場で、その先を下ると米子沢源頭の水場がある。 山頂へは小屋の前から機姫の池を通って稜線に出て、階段状の道を一登りで巻機山頂標のある『御機屋』に着く。 最高点はダケシバとコザサの稜線を牛ヶ岳方面へ10分ほど東進したところにある。割引岳へは最高点と反対、西へ進む。雪解け時にはハクサンコザクラをはじめとする雪田植物が咲き競う。 藍甕の滝織物姫が糸を藍に染めたという伝説が名前の由来だ。落差は数メートルと大きくはないが、花崗岩の岩肌を削ってできた釜(滝壺)が非常に深く、吸い込まれそうなほど真青で神秘的な水を湛えているのが特徴である。沢登りルートの序盤に位置する見所だが、周囲の岩肌は滑らかな「花崗岩」で構成されている滑りやすく、高巻く際にも注意が必要だ。
吹上の滝割引沢(われめきさわ)の上流部に懸かる名瀑で、織物姫が滝の飛沫を利用して糸をしなやかにしたという伝説が残る。周囲を険しい岩壁に囲まれたV字谷に位置し、水流が狭い岩の隙間から勢いよく噴き出すように流れ落ちるため、風圧と水圧によって水飛沫が空に向かって巻き上がる(吹き上げる)ように見えるのが名前の由来である。 沢登りルートの中盤に現れる壮大な景観のポイントだが、滝の周辺は非常に滑りやすく、高巻きや高巻いた後の沢への下降点では滑落に細心の注意が必要となる。
☆ 裏巻機山の紅葉 ☆五十沢キャンプ場(⇒)の奥に進むと、巻機山に登る裏巻機コースに続く。五十沢川上流の6キロは、深くと切れ込んだV字型の裏巻機渓谷で、モミジ、ナナカマド、カエデ、ブナの木々が色付き紅葉が特にすばらしい。途中には迫力満点の魚止めの滝や不動の滝などがあり、巨岩と滝周辺の紅葉のコントラストが楽しめる。《紅葉の見ごろ》 10月中旬から11月上旬
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巻機山
清水登山口
巻機山避難小屋