Go on a picnic



ここはザールブルグ。年中平和な国である。この国はジグザール王国が治めている。そして城は王室騎士隊によって守られている。
その城の城門を守っている聖騎士、ダグラス・マクレインとこの国のアカデミーに通う学生、エルフィールトラウムが話していた。
「ダグラスっ!ピクニックにいこうっ!」
「はぁっ!?」
エリーが急に言い出したので、ダグラスは素っ頓狂な声を上げた。しかし当のエリーはにこにこと笑っている。冗談ではなさそうだ。
ダグラスは頭を押さえて文句を言う。本当は行きたいのだが。
「おいおい、お前俺が今仕事してるの、見てわかんねぇか?」
「だーかーら!仕事が終わってからだよぉ!そんな無茶なことしたらエンデルク様に叱られちゃうじゃん。」
エンデルク・ヤードは聖騎士のトップで王室騎士隊の隊長を務めている。毎年開催される武闘大会でも優勝を何年もキープしている。
ダグラスはそんなエンデルクを倒す為に聖騎士に入った。今ではエンデルクに次ぐ騎士となって多大な信頼を得ている。
それはともかく、エリーとダグラスの関係だが微妙だ。この街の酒場の踊り子やマスター、冒険者など彼らを知っている人に言わせると
「早くくっつけ!」
だそうだ。ダグラスにはまんざらでもない様だが、エリーは全く鈍感だった。
「どっちにしろ、そんな簡単に休みなんてとってられねぇよっ!今回は諦め・・・。」
「・・・っく・・・・・ひっく・・・。」
ダグラスは唖然とした。エリーが泣いているのである。
「い、行けねぇもんはどうしようもねぇよ!!泣くなって!」
「・・・ダグラスの、意地悪っ!!・・・・うわ〜んっっ!」
恐い顔をして腕組みをして立っている聖騎士の前に大泣きをしている女がいたらどう思うだろうか。そう、ここは城門なのだ。
街の人間がじろじろとダグラスを見ている。中には話をしているおばさん達もいる。
「ちょっと奥さん!あの聖騎士、女の子を泣かしているわよ〜。」
「嫌ねえ。近頃の若い騎士ってのはマナーを知らないのかしら?」
モンスターに恐れもせずばさばさとなぎ倒していくダグラスでもおばさん達の蔑んだ目には勝てなかった。
「・・・・・わかった、行く、行くからもう泣くなエリーっ!!」
「本当っ!?」
エリーは嘘泣きだった。ダグラスは驚きと怒りでもう何も言えなかった。
「ありがと!ダグラス!じゃあ、明日、行こうね?約束だよ〜。」
ぱたぱたと手を振りながらエリーは去っていった。ダグラスは少し嬉しかった。
「(よっしゃ!これでエリーと過ごせるじゃねぇか!隊長には怒られっかもしんねぇけど、良いか。)」
心の中でガッツポーズをするダグラスであった。彼は門番を投げ出し、隊長の所へ向かった。

「隊長っ!明日1日休みをくださいっ!」
いきなりスキップでもしそうな勢いでダグラスが入ってきたのを見てエンデルクは少し面食らった。
「ダ、ダグラス、すごい喜びようだが、そんなに休みたいのか?・・・まぁ理由を言ってみろ。」
「エリーにピクニックに誘われたんです。・・・じゃなくって!!護衛ですっ!」
エンデルクは苦笑をかみ殺した。なんて馬鹿正直なのだろう、ダグラス。
「そうか、護衛か。それならば仕方が無い。行ってくるがいい。」
ダグラスは頭を下げた。顔はにやけたままだが。
「隊長、ありがとうございます!じゃあ、失礼します!」
入ってきた時と同じ勢いで出て行こうとするダグラスにエンデルクは忠告した。
「エルフィールをしっかり守ってやるんだぞ!騎士隊の使命だからな!」
「はいっ!」
ダグラスは勢いよく返事をして走り去っていった。残されたエンデルクが呟いた。
「まったく・・・あの正直さは少し改善した方が良さそうだ。」

そして次の日になった。朝早く、エリーのアトリエから何かの匂いがする。
「やったぁ!」
エリーの嬉しそうな声が工房に響く。調合をしている訳ではない。今日のピクニックの為にお弁当を作っていたのだ。
どうやら成功したようで、おいしそうな匂いがしている。
「さぁて、これをバスケットに入れて〜♪」
会心の出来だったのだろう、エリーは鼻歌を歌っている。バスケットにお弁当を入れ、いつもの杖を持ち、工房を後にした。

「遅ぇな。寝坊でもしたのか・・・?」
ダグラスはいつもの城門前でエリーを待っていた。しかし今はとてもじゃないが、店も開かないような早い時間帯。
しかし彼はずいぶん前から待っているようだ。

それからしばらくたって、お店もちらほらと開き始めた頃、ダグラスの前にエリーが走ってきた。
「ダグラス〜!ごめん!待ってた?」
まるで恋人同士のような会話を交わすエリー。
「かなり待ったぜ。ま、良いか。どこに行くんだ?」
「ごめんね〜。えっと、場所は近くの森だよ。だって、ダグラス長く出ていられないじゃない。」
エリーの優しさに感動しながらも2人は平静を装って(?)出発した。

「やっぱりあっという間だね〜。もう着いちゃった〜。」
2人はモンスターにも出会う事はなく近くの森に着いた。森はいつものように佇んでいる。
「いつ来てもここは落ち着くな。」
ダグラスが言った通り、森は木漏れ日がちらほらとあり、綺麗だった。時期が良かったせいか、葉も青々としていた。
「絶好のピクニック日和だよね〜。あ、ダグラス、おなか空いたでしょ?お弁当持ってきたんだ。」
丁度良い具合にダグラスのお腹が鳴った。エリーはくすくすと笑ってバスケットから取り出した。
「おう、気が利くじゃねぇか。美味そうだな。」
「うん。あ、ダグラス手が汚れてる〜!このまま食べるとお腹壊しちゃうよ!」
ダグラスは森に着いてすぐ寝転がったので、手に土がついていた。エリーはバスケットに手を入れておしぼりを探した。
「あれっ!?おしぼり忘れてきちゃった〜。しょうがないな〜、ダグラス?」
「あ?いいよ俺は。腹壊しても死なねぇって。」
ダグラスはお弁当に手を出そうとしたがエリーがそれを遮った。ダグラスは喉が渇いたのか、飲み物を飲み始めた。
「駄目っ!帰りもし何かあったらどうするの!?・・・・ダグラス、あ〜んして?」
ダグラスは飲んでいた物をぶはっと吐き出した。顔は真っ赤である。
「な、ななな何いってんだよ!?良いって!大丈夫だから!!」
しかし断固としてエリーは譲らなかった。片手にご飯を持ち、ダグラスににじり寄る。
「駄目だったら!あ〜んして!食べなきゃお腹空いていざっていうとき力が出ないんだよ!」
ダグラスは渋々エリーの手でご飯を食べさせてもらった。外で食べるエリーの手料理ははじめてだったがおいしかった。
「・・・美味いじゃねぇか。」
エリーは嬉しそうに笑った。
「ありがとう〜!今日のは会心の出来だったんだ〜。」
エリーの笑顔に葉の間から差し込む光が映ってエリーの笑顔をより引き立てていた。ダグラスはエリーの美しさに見とれた。
そしていつのまにか言ってしまっていた。
「・・・・俺、これからもずっと食べてぇな、お前の手料理。」
ダグラスはそう言ってしばらくたってから自分の言った事に気づき、慌てて口に手を当てた。
「ダ、ダグラス?今・・・。」
「な、何でもねぇっ!・・・・飯、食ったから帰るぞ!!」
エリーはたいして気にしていない様でダグラスの中にはほっとした気持ちと残念な気持ちがあった。

その日の夕方、ダグラスとエリーは行きと同じように全くモンスターに出会わず、ザールブルグに帰ってきた。
いつものようにダグラスはエリーを工房まで送っていった。
「じゃあな。弁当美味かったぜ。また暇があったら付き合ってやるよ。」
ダグラスはまだ心拍数が上がっている自分を落ち着かせながらエリーに別れを言った。後ろを向いて歩き出す。
「ダグラス〜!私、良いよ〜!これからもずっとダグラスに手料理作ってあげても〜!」
「・・・・・ああ〜・・・って!!な!どういう意味だよ!?」
ダグラスは少しの希望を持って振り向いた。エリーの顔は夕日に負けないくらい赤かった。
「どういうって・・・ダ、ダグラスが好きだから!そういう意味!!!!じゃあね〜っ!」
エリーは恥ずかしさからかダグラスから走って工房に入っていった。路地に佇むのは残されたダグラス。
「って・・・まじかよ・・・。よっしゃ〜っ!!!」

「隊長っ!帰って参りましたっ!!」
エンデルクは顔が赤く、いつになくハイテンションなダグラスに引きを感じつつも答えた。
「ああ・・・。な、何か良い事でもあったのか?」
「そ、そそそんなことないっすよっ!エリーに好きだなんて言われたなんてことないですよ!」
2人の間に奇妙な間ができた。しかしダグラスの行く時より更ににやけた顔は直らない。
「・・・明日の勤務もよろしく頼むぞ。」
「はいっっ!」
そしてダグラスが去った後、やはり残されたエンデルクが呟いていた。
「・・・・・・・ダグラスは正直さと頭の矯正も必要だな・・・・・・。」