ザクッ。そんな音をたてて俺は地に降り立った。
船の影から出ると強い日差しに灼かれる。瞬間熱いと感じたが直にそうでもないと気付く。
思った程じゃない。
音を立てて歩きながら何とはなしに空を見上げた。あまりに青く、青すぎて黒っぽくすら見える空。
なんでこんなに違ってるんだろうかと、ばさばさと髪をあおる風を心地よく思いながら考える。
故郷。俺の生まれた地。そんな昔の頃のことなんかほとんど覚えていない。だが、もっと違った空を見ていた気がする。
やはりこいつのせいか。
足下の砂をすくい上げてみる。
そう、砂。辺り一面、見渡す限り砂。所々に建物が頭を覗かせているのだけが昔街だった名残。
それまで俺が知っていた砂は砂場とか言う所にある、もっと細かくてさらさらしたもの位だった。
手の中の砂。ざらざらとした目の粗い粒。革のグローブ越しにもじんわりと熱が伝わってくる。
俺はそれを不思議な気分で見つめた。
多くのものを奪い去った。どこからか浸食してきて、一つの地域を飲み込んでしまった。
俺が生き延びたのなんて多くの偶然の積み重ねだ。
鬱蒼と茂るねじれた植物とその間で蠢くもとは人だった気味の悪い生き物。常に暗く、澱んだ空気と絶望に覆われた世界。それが代わりに与えられた全てだった。
キュッ。
砂を握る。外観に似合わない意外な音。
それなのに。なぜだろう、俺は建物の名残よりもむしろこちらの方に懐かしさを感じる…。
複雑な心境。
握る手に力が入る。
そうしたら砂はキシキシと音を立て、なぜか俺をなおさら妙な気分にした。
どれだけそうしていたのだろう。
長くも短くも思える時間の後、ふと呼ばれた気がして振り返る。
船の方から少年が駆け寄って来る所だった。
「何やってるのさ!」
その小柄な身を伸ばして、俺の手を覗き込む。
「……砂…が…どうかしたの……?」
「いや……」
不思議そうに尋ねるその姿に年相応の物を感じて目を細めながらも、俺は曖昧に返答を返した。
砂に懐かしさを覚えていたなんて言えたものではない。
「ふ〜ん? あ、そうそう! 兄ちゃん達から伝言だよ。もういつでも飛べるって!」
「ああ、わかった。」
まだ何かを期待してこちらを見上げている顔に、一言付け加える。
「ご苦労さん。ありがとな。」
「うん! それじゃオレ、先戻ってるから早く来てね!」
とたん嬉しそうに笑って、すぐにまた走り出す。
その姿を見送りながら俺は小さく笑った。
あいつ明るくなった。
もう1度、手の中の砂に視線を落とす。
お前が何なのか、どこから来たのか知らない。でも……。
砂が零れる。零れた砂は地に着く事なく、吹き続ける風に運ばれていった。
今の俺は1人じゃない。
それに。なにより俺にはやる事がある。
行こう。
俺は自分の場所…白さを際立たせている船へ向かって歩き出した。