<SX−96のリペア>2004年

SX−100に続いて「SX−96」が米国から到着しました
本機は1955〜1956年に製造され、基本的な回路は1stIF:1650Kc、2ndIF:50.5Kcのダブルスーパーです
SX−100に付いている「Tノッチ、100Kcマーカ、ANTトリマ」はありません
デザイン上の大きな違いはポインタ板が四角のガラス板で出来ており、裏側に扇形のダイアル窓が白抜きで黒色塗装されています


リペア終了後です


<初期状態>
開梱すると厳重な二重梱包の本機が出てきました
ケース上部に多少引っ掻きキズがありますが、内部はまずまずの状態です
ポインタ板の塗装に剥がれや浮きが目立ちますが、外装パーツは比較的きれいです

  


<電源回路のチェック>
動作確認のため電源回路のチェックから始めます
テスターでACプラグの抵抗測定をしますが、電源SWをON/OFFしても数オームのままで抵抗値が変わりません
(トランスが正常な場合、ON:数オーム、OFF:無限大です)
このまま電源を入れるのは危険なのでシャーシを引っ張り出して調べると、レスポンスSWに連動している筈の電源SWが無く、配線を直結してテープ巻きしています
これでは抵抗値が変わらない訳です

  
黒と黄色の線が電源SWへの配線ですが、直結されていました


<電源投入>
+B側のチェックに異状はありませんので、電源を投入することにしました
今回ばかりはスライダックの電圧を少しずつ上げ、異状が無いのを確認しながら時間をかけて120Vにしました
ドキドキしながらしばらく様子を見ましたが、とりあえず発煙等は無くOKみたいです

<真空管のチェック>
真空管を外してチェックすると、一度は交換したらしく「ハリクラブランド」はありません
SX−100の取外し品も含めた中で、程度の良さそうな中古管を挿しておきました
最後に新品に差し替えます

<動作試験>
SPを繋いで電源を入れると微かなハム音が聞こえてきますが、ANTを繋いで中波帯を聞いても何も聞こえません
これは下部から順番にチェックしていく必要があると真剣に始めました

1)シャーシ裏の全体チェック
シャーシ裏の全体を見回すとオリジナルではないものが、幾つか目につきます
6BJ7のピンにダイオードが付いていたり、出力トランスの前にはチョークと電解コンが付いています
又、VR150のブリーダ抵抗はオリジナルの3000Ωのほかに400オームの大きなものが不細工に付いています
色々考えてやったのでしょうが、すべて元に戻しました


右がチョークで、左が不細工な抵抗と電解コンです

2)AF回路のチェック
SPから微かなハム音が出ていますし、VRを回すとガリ音が出ることもあるのでAF部は生きているようです
Phone端子から1Kcを入れると、きれいに聞こえてきました

3)2ndIFのチェック
今回は検波回路にオシロをあてながら、2ndMIXのグリッドに50.5Kcを入れましたが動作OKです
又、BFOも発振しています


オシロをあてながら慎重にやっています

4)1stIFのチェック
1stMIXのグリッドから1650Kcを入れるとここも動作OKです

5)局発のチェック
DMC230Sを吸収型周波数計にして局発をあたると、どうも発振していないようです
どのバンドでも発振を確認できません
6C4の電圧をテスターでチェックしているとき、グリッドにテスター棒をあてるとなにか手応えがあります
その状態でDMC230Sを近づけると、局発の発振が確認できました
回路図を眺めながらこれかなと、グリッドカップリング「100PF」の両端に測定コードを絡めると発振が続きます
どうやらグリッドカップリングの容量抜けのようです

  
測定コードでカップリングしています          シルバードマイカに交換しました


<局発回路の不具合>
グリッドカップリングをシルバードマイカに交換すると、良好に動作しました
下部から順番にチェックしていったので、ここまでたどり着くのに丸1日費やしました
RF部のチェックは簡単にやりましたが、本格的な調整は後の楽しみです
この段階でとりあえず全バンド受信できるようになりました


<分解清掃>
今回はまったく受信できない問題があり、分解清掃にたどり着くのに時間を要しました
やれやれと思いながらのんびりクリーニングです

  
分解したシャーシです                  ポインタ板に塗装の剥がれが見られます


<レスポンスSWのレストア>
電源SWが直結では使い物になりません
スタンバイSWでも流用してON/OFFしようかと、安易な方法を考えましたがどうも気に入りません
レスポンスSWをよく眺めると後面に3mm程の出っ張りがあり、ON/OFF時の間隔が6mmはあります
これを使って何とかならないか?とジックリ思案したところ、レバー付のマイクロSWを思い出しました
マイクロSWをあてがいながら写真のように加工して取付けたところ、うまい具合に動いてくれました

  
アルミ板に取付けたマイクロSWです         レスポンスSWの出っ張りに連動させました


<ポインター板のレストア>
ポインター板のダイアル窓は塗装が大分傷んでいるので、思いきってレストアすることにしました
バリバリの塗装を綺麗に剥して再塗装し、ポインターの赤線はカッティングシートを細く切って貼りつけました
綺麗な仕上がりに満足しています!


綺麗にレストアしたポインター板です


<各部の調整>
2ndIFから1stIFまできちんと再調整をしてから、トラッキング調整を始めました
大きくズレていたトラッキングも、数回繰り返すとピッタリ収まりました


<本機の使用感>
SX−100でも書いていますが、50.5KcIFの切れはシャープで気持良い使い心地です
1956年当時のハリクラが、本機の切れの良いIFシステムにTノッチ等のアクセサリーを追加したグレードアップ機「SX−100」を早々に発売したのも納得できます
このIFシステムは後に発売される「SX−101」や1971年まで販売された「SX−122」でも使われていました
1966年「初歩のラジオ・ジュニアJARLハム教室」の「海外有名ハム用機器の紹介」にあるSX−101Aのコメントの意味が、この歳になって良く判りました
ダイアル照明に照らされたハーフムーンを眺めながら、水割りなどを飲んでいると実に癒される気分になります
ちょっと危ない世界に近づいているのでしょうか?


1966年当時はこのコメントの意味が理解できませんでした


ダイアル照明に浮び上がるハーフムーンです


<AF部の不具合修理>2015年
最近になって、AF部の動作が不調になってきました
スピーカーから出てくる音が大きく割れているのと、VRを回してもスムーズに音量が変化しません
久しぶりにラックから取出して修理を始めました

先ずは、AF段の6SC7周りをチェックしましたが異常ありません
次に、PA段の6K6周りをチャックをすると、グリッド電圧が+18Vと異常値を示しています
グリッド・カップリング・コンデンサ不良と考え交換しました
結果、グリッド電圧は0Vになり正常値に戻りました
動作試験をすると綺麗な音がスピーカーから聞こえてきました
これで一段落です

製造後60年近くを経過したオイル・コンデンサですので、絶縁抵抗が低下してAF部のプレート電圧がリークしたものと考えられます
自分同様ご老体ですので、今後も経過観察が必要ですね(笑)

  


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