「はぁぁぁ、本当にランカちゃんは私のライバルになっちゃったわねぇ」
「え!?」
「このシェリル・ノームがあんな大失態をするなんて初めてよ。いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだか」
「当たり前じゃないですか」
「え?」
「アルト君に関してだけはずっと前からライバルですから」
「……そっか、そりゃそうよね。うかつだったわ」
「はい」
「ふふふ」
「えへへへ」
そのままひとしきり笑い合う二人。
「よし。この借りは必ず返すから覚えてらっしゃい」
「はい。首を洗って待ってます」
「デフォールド反応!! 距離一万二千!」
とたんに騒がしくなるマクロスH司令部。
「方位・質量とも事前連絡の通りです」
「さて、では色男の顔を拝むとするか」
「あれ?」
「どうしたのランカちゃん?」
「いえ、宇宙が何か光ったような気がして……フォールドかな?」
「そんなに珍しいものでもないでしょ?」
「ええ、ただもしかしたら……」
「もしかしたら? ……って時間よ」
『それでは、シェリル・ノームさんとランカ・リーさんによるツイン・ライブです!!』
「いくわよ!」
「はい!」
『こちらマクロスF船団SMS所属VF−25搭乗員早乙女アルト中尉。マクロスHへの着艦許可並びに……シェリル・ノームへの誘導を要請する』
「マクロスH管制よりVF−25。事前連絡により着艦許可は出すが、誘導はその限りではない」
『……頼む』
「もし、誘導したら何をしてくれる?」
『……協力してくれた全員にアイツのサインをやる。そうだな一人ずつ個別メッセージつき。それでどうだ?』
「オーケイ、了解だ! 管制より各バルキリー隊! 聞いたな野郎共!? シェリルのサインが欲しい奴はスクランブルして色男をスタジアムまでエスコートしろ!!」
『『『『『『了解!!』』』』』』
『では、48時間に渡って放送し続けてきた本番組もいよいよラストです』
『最後はシェリルさんとランカさん二人のユニットによる新曲、全銀河初公開でお送りします』
『曲は……』
『ちょっと待ったぁーーーーーーーっ!!!』
「「え!?」」
聞きなれた声に宇宙を見上げるシェリルとランカ。
スタジアムの上にマクロスHのバルキリー隊が飛来したかと思うと散開し、その間から見慣れた機体が現れる。
「来た!!」
「嘘っ!?」
『おっとこれはいったいどういうことでしょう!? 突然軍が! ……え、これで予定通り?』
その間にもガウォーク形態となったバルキリーが広いステージの上に降下してくる。
「ちょっ、まさか、嘘でしょ!?」
「嘘じゃありませんよシェリルさん!」
キャノピーが開くと見慣れたシルエットのパイロットが立ち上がりヘルメットを取った。
スクリーンに大写しになったあまりの美形に会場から歓声が上がる。
だが、パイロットはそんなことには構わずにバルキリーを降りるとシェリルとランカの元に歩み寄る。
「アルト君!」
「よぅ、やってるな」
「はい!」
「隊長から伝言だ『しっかりやれ』とさ。まぁほとんど終わった後になって言ってもなんだけどな」
「いえ、まだラストがありますから」
「そうか?」
「はい。あ、アルト君、ちょっとここいいですか?」
「なんだ?」
「じっとしててくださいね」
アルトのパイロットスーツの襟元でなにやらごそごそやっているランカ。
「アルト!!!」
「ひゃっ!」
シェリルの大声に飛び上がるランカ。
「よ、久しぶり」
「久しぶり、じゃないわよ! なに、いきなりこんなところに現れてんのよ! 番組がめちゃくちゃじゃない! 昨日だってあんたのおかげで恥をかいたのに! 納得行く理由があるなら言ってごらんなさい!」
「? お前が言っただろ?」
「何をよ!?」
「お前が好きなら会いに来いって」
「!?」
「だから来た」
「こ……この……」
「だいたいお前もお前だ。人に心配かけるなっていつも……うわっ!」
「馬鹿!!」
シェリルがアルトに飛びつき、アルトはそれを受け止め、二人は固く抱き合った。
「……その、なんだ……悪かったな」
「いいわよもう……来てくれたから」
「そっか」
「でも、なんだか悔しいわね。なんで私がこんなに喜ばないといけないのよ」
「そんなの知るかよ」
「馬鹿、『お前が俺を好きだから』くらい言って見せなさいよ」
「……言えるかそんなの」
「ふーん、この意気地なし」
「ほっとけ」
「しょうがないわね。来てくれた御褒美よ。一度しか言わないからよーく聞きなさいよ」
「なんだ?」
「……貴方が好き」
「えー、コホン」
「「?」」
「そろそろいいですか?」
「「……」」
ジト目のランカに顔を見合わせた後、慌てて離れる二人。
「シェリルさんもアルト君も仲がいいのはいいですけどほどほどにしてくださいね」
「「こ、これは……」」
「仮にも全銀河の人が見てるんですから」
「「え?」」
はた、と気付いてステージの方を見る二人。
何をいまさら、と言った様子で肩をすくめるランカ。
ちなみにさっきアルトのところでごそごそしていたのはマイクを取り付けていたのである。
ランカはスタッフに合図を送り叫んだ。
「はいカット!!」
「みなさん如何でしたか? おどろいてくれたかな? 実は今のはマクロスFとマクロスHの協力による新曲のプロモーションビデオの撮影だったんです。なんとこちらのパイロットは実際にシェリルさんの台詞をマクロスFで聞いた後にマクロスFから飛んできたんですよ?」
「「え? え?」」
「それでは十分に盛り上がったところで本番組のラストです。シェリルさん?」
ウィンクするランカ。
唖然としていたシェリルはそれを見て我を取り戻す。
「シェリル?」
「見てなさい。特等席で聞かせてあげるわ」
自信に溢れた笑みを浮かべランカと共にステージの中央に向かう。
アルトは肩をすくめると腕を組んでそれを見送った。
「楽しんでくれた? 新曲は今のにぴったりな曲よ」
「最後の力を振り絞って歌うからみんな聞いてね?」
「それじゃラスト、『銀河を超えて会いに来て』、あたし達の歌を聞けーーーーっ!!!」
(おまけ)
「……っていう話なんだけどどうかなアルト君?」
話し終えたランカはおそるおそるアルトの顔をうかがった。
「断る!」
「……だよねぇ、あははは」
二人の間に山と積まれた書類は全銀河のプロダクションからのアルトへのスカウト依頼である。シェリルとの迫真の演技はもちろん美形のアルトは全銀河を虜にし、昔の映像が露出すると更にスカウトが殺到したのである。学校にいてはとても授業にならないので最近はずっとクォーターにこもりっぱなしである。軍事会社であるSMSの敷地内にいるため直接接触は不可能だが、メールの類はきりがない。挙句の果てにSMSへの立ち入り許可をもらうことができるランカにお鉢が回ってきたという次第である。
「歌姫二人に一人加わって三人の姫だな」
「ミシェル!!」
「やっほーアルトいるー?」
ドアが開くと陽気な声が響いた。
「あ、そろい踏みですね」
シェリルを見てルカが言った。
「シェリル!? お前、何こんなところまで入ってきてんだ!?」
「ちゃんと許可はもらってるわよ。それより、はいこれ」
「ん? なんだこれ?」
「はい、ランカちゃんも」
「はい。あれ、映画か何かの台本ですか?」
「そ、私たち三人が出る映画よ」
「はぁ!?」
「どうしたのアルト?」
「何で俺が映画なんかでなきゃいけないんだ!?」
「この前出てたじゃない?」
「ありゃただのスタントだ!」
「でも、ちゃんと話は通ってるわよ?」
「俺には任務が!」
「だから任務」
「へ?」
「映画に出演しろって命令が来るはずだから」
「は!?」
「聞いたわよ? あんた、SMSのオーナーに何でもするって約束したんでしょ?」
「うっ」
「で、いろいろあってあんたはめでたく映画に出演するってわけ」
「わーシェリルさんばかりかアルト君とも共演できるなんて夢みたいです!」
「……嘘、だろ」
アルトの声ににやりと笑うシェリル。
「ふふ、覚悟しなさいアルト」