<2年前 アメリカネルフ第一支部>

 

 

ガランとした会議室に加持とシンジはいた。

「さてシンジくん。これから君にいろいろなことを学んでもらうことになるわけだが」

そう加持は口火を切った。

「はい」

「その前にだ、一つ覚えておいて欲しいことがある」

なんですか?」

しばし考え込む加持。

「そうだな例えば碇司令はネルフのために裏でいろいろと駆け引きをしている。政治取引とか俺を使っての工作活動とかだな」

「はい」

「シンジくんは碇司令を軽蔑するかい?」

いいえ」

「よし、じゃあ次だ。碇司令は使徒に乗っ取られた参号機を止めるためにダミープラグを使用し、結果、鈴原君は大けがを負った。今でも司令が許せないかい?」

シンジは少し考え込む。

確かにあのときは許せなかった。でも、今は父の気持ちを完全ではないが理解できる。

シンジは首を左右に振った。

「そうか。さて、俺はこんな商売をしている。であるからには危ないこともいろいろやったし、殺した人間の数も数えきれない。俺の手は汚れて、血に染まっている」

「そんなことは

「そんな俺を葛城は受け入れてくれるだろうか?」

「決まっています!ミサトさんは、ミサトさんは

思わず大きな声を上げるシンジを加持は手で制した。

「いいんだ、俺もシンジ君と同じ考えだ。たぶん葛城は許してくれると思う。

 ところでアスカだったらどうかな?俺の仕事を全部知ったら

「加持さんだってわかっているんでしょ!アスカだってミサトさんと同じです!!

 人を殺したことがあっても加持さんは加持さんです!」

加持がなぜこんなことを言うのかシンジにはわからなかった。

「俺もそう思う。少なくともそうだろうと自惚れている」

「じゃあどうして!?」

「話を戻そう。シンジくんこれから君はそういう世界に足をつっこむ。一度つっこんだらディラックの海並に脱出は困難だ。ましてネルフの総司令になろうというんだ。沈むことはあっても浮かぶことは2度とない、わかるな?」

はい」

「君にその覚悟があるのはわかっている。でなければ、碇司令も君を俺に託したりしないし、俺も引き受けない。だが、さっき言ったことは忘れないでくれ。たとえ人を殺したとしてもシンジくんはシンジくんだ。みんなが優しいというシンジくんだ」

「僕は優しくなんか

お馴染みの内罰的モードに入りかけるシンジを加持は引き留める。

「君が自分をどう考えているのかは知らない。だが、俺はそう思うし、葛城達もみんなそう思っている。話がそれたな。俺が言いたかったのは、君が『僕の手は汚れている。そんな僕には好きな人たちのそばにいる資格はない。みんなと幸せになる権利なんてない』なんてことを考えたら許さないということだ」

真剣な目でシンジの目を見据える加持。

「加持さん

たしかに僕はそう考えるかも知れない。もし人を、いや、僕が選んだ道は時には人を殺さなくてはならない道なんだ。それでみんなが幸せになるなら

「もし、君がそんなふうに心を痛めたら、俺は自分も許せない。アスカや葛城、リっちゃんや碇司令に会わせる顔もない」

わかりました加持さん。そんなことは考えません」

ふっきれた顔をするシンジ。その目からはいつか見た強い意志を感じる。

「よし、じゃ心の準備はいいな。鬼教官達を呼ぶぞ」

そういって加持はシンジやミサトの好きな笑みを浮かべた。

「はい!」

 

 

<再びミサトの部屋>

 

「ま、いいわ。さ、さっさと頭にたたき込んで」

さっと頭を切り換えるミサト。

加持がシラを切ろうとしたら徹底的に切ることは重々承知している。

「はい、え!?」

ファイルを見て驚くシンジ。

「どうしたんだいシンジくんおやおや」

加持もまたシンジが驚いた理由を知り笑みを浮かべた。

 

 

<第三新東京市立第壱高校2−A教室>

 

「おはよう」

「おはよ」

アスカとヒカリが教室に入って挨拶すると声が返ってきた。

「おはよアスカ、ヒカリ」

「おはようございます、アスカさん、ヒカリさん」

ショートカットの健康的な美少女とロングヘアーの眼鏡の優等生型の美少女が挨拶した。名前は霧島マナと山岸マユミ。アスカ達といろいろな因縁がありながらも今は親友となった二人である。

赤みがかった流れるような髪と中学生の頃から他を圧倒するプロポーションと顔のアスカ。

今は伸ばした髪を紐で一つにまとめただけの正当派日本女性のヒカリ。

4人そろって天下無敵の壱高美少女軍団である。

ちなみにミサトが担任の2−Aに全員がそろっているため他のクラスの男子生徒や男性教師からは何度もクラス替えの要求が出されている。もっとも六人目の美女である(五人目は当然ミサト)副担任のマヤに理由を説明できないため要求は頓挫しているのだが。

 

続いて扉が開くとお馴染みの二人が顔を見せる。

「おはようさん」

「おはよう」

トウジとケンスケが同じクラスであるのももはや予定調和というものだ。(ネルフの陰謀という説がまことしやかに噂されている)

ちなみに『ジャージはわいのポリシーや』と言っていたトウジだが、ミサト、マヤ、ヒカリの三重の説得により陥落し、高校からはおとなしく制服を着ている。

「あ、おはよう鈴原、相田君」

「おっす委員長」

「おはよう委員長」

「何よアタシ達にはあいさつはなし?」

アスカが文句を付ける。

「何や朝から機嫌悪いな」

「うっさいわねー」

「まぁまぁみんなおはよう」

朝から盛大な口喧嘩が開始されようとした所に割って入ったケンスケがなだめる。このあたり中学生の頃に比べて成長が感じられる。

「おはよ」

「おはようございます」

マナとマユミもめいめい挨拶を返す。

「アスカはミサト先生が早朝から呼び出されたので不機嫌なのよ」

事情を説明するヒカリ。

「ふーん。まぁわしらには呼び出しないんやから大したことやないやろ」

「そうなのかトウジ?」

「おう。惣流は心配なんか?」

あまり深い意図はなかったのだが、例によって素直じゃないアスカは反発する。

「し、心配なんかしてないわよ、この三バカマイナス一!」

「惣流いいかげんその呼び方はやめてくれないか?」

ケンスケが困った顔で言った。

「なによ!このアタシに文句あるっての!」

アスカは腰に手を当てるいつものポーズで威圧する。相変わらず女王様は健在である。

「何です?三バカマイナス一って」

マユミが顔をよせて聞く。ケンスケの口調からして以前から使われている呼称のようだが、聞いた覚えは無い。

「え、いや、私も知らないけどあーでも」

何か引っ掛かったマナは懸命に昔、壱中にいたときの記憶をたどった。

「うーんあ、そういや昔シンジ

「あ、マナ!」

ヒカリが止める間もなくそれはアスカの耳に入る。

ぴくりとした後、アスカは自分の席に戻る。

「さーもうすぐマヤがくるわよ。みんなも席に着いたら」

何事も無かったかのように告げるアスカ。

トウジ、ケンスケ、ヒカリは気まずそうに顔を見合わせた後、自分の席につく。

「あのヒカリさん、私たち何か悪いこと言っちゃいましたか?」

「あんなに元気のないアスカ初めてよ?」

ヒカリの席に顔を近寄せる二人。

はぁ〜とため息をついてヒカリは二人を見た。

「後で教えてあげるから二人とも席について

 

 

<みたび ミサトの部屋>

 

「マナと山岸さんですか」

シンジは昔を思い返す。それは甘く、苦く、懐かしく

「あの二人が今じゃアスカの親友とはおもしろいね」

「こうしてみるとシンジくんも結構やるわね〜」

どういう意味ですか?」

ミサトの言葉に物思いから我に帰るシンジ。

「ぶぇっっつにぃ〜」

シンジの冷たい視線を笑って受け流すミサト。

二年経ってもまだまだからかいがいがあるわね〜)

「しかし山岸君は問題ないとして、マナちゃんの方はよく許可がおりたな」

マナは戦略自衛隊の特殊兵器の元パイロットであり、以前エヴァの情報収集を目的としてシンジに近づく任務を受けた。

もっとも結果は各方面の予想を大いに裏切ることとなったのだが

「名前も前のままですね」

「ネルフに技術研修で送りたいっていう名目で正式な要請が来たの。まぁ、霧島さんだけじゃなく一般の戦自の隊員も一緒に多数要請が来てるけどね。まあ、さすがにこっちも警戒したんだけど、戦自も今更ネルフとやりあおうって気もないでしょうし、今の日本政府は親ネルフ派だしね。本人はアスカや鈴原君みたいに普通の生活をしたいみたいだしね

 ま、リツコに言わせればエヴァの操縦方法がわかったところで動かせれるんもんなら動かして見ろってところみたいよ」

「おやおや」

「そうですか、マナが

感慨深げに呟くシンジ。

「あれーシンちゃん霧島さんに乗り換える気?そういやあの時も私やアスカを振り切って加持と一緒に霧島さんに会いに行ったのよね〜」

「そういやそんなこともあったな」

「ぼ、僕は別にマナの事はだ、第一僕は」

はっと気づいて口を閉じる。

「ぼくはだいいち、その次は何かな〜」

ニヤニヤしながら顔を寄せる。

「葛城も人が悪いな、決まってるじゃないか」

合わせたようにニヤニヤしながらミサトの顔に自分の顔を寄せる加持。

「ミサトさん!加持さん!」

「はははは悪い悪い」

「シンジくんが変わって無くてお姉さんとっっっっってもうれしいわ〜」

「はぁ…」

からかわれていても屈託のないミサトの笑顔を見ると怒る気にはならなかった。

(あの頃は笑っていても瞳の奥に悲しみが

シンジはたぶんとても暗い顔をしてたのだろう。ミサトが慌てて言った。

「どうしたのシンジくん?何かつらいことでもあるの?」

「いえ、いいえ。ミサトさんが本当に幸せそうなんで僕も嬉しくなって」

「え、あ

「なんだ照れてるのか葛城?」

「照れてなんか無いわよ!」

真っ赤になって怒鳴るミサト。説得力皆無である。

「まあそれはそれとして報告を読もう」

「そうですね」

「む〜!!」

なにやら体よくあしらわれた気がしてむっとするミサト。

これじゃまるで加持が二人いるみたいじゃない!!)

 

 

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