「ま、まぁ落ち着いてシンちゃん」

顔を青くして冷や汗を流すミサト。

鈍い色に光る銃口がミサトの眉間に向けられていた。

「お、昨日よりも0.1秒は早かったな」

対照的に相変わらず飄々とした加持。

そんな二人をジト目で睨んでいるシンジ。拳銃を構えた右手は微動だにしない。

「……おっかしいわねぇ。銃を持ってここに入ったらあたしに警告が来るはずなんだけど……シンちゃんとりあえず銃口を向けないで、ね」

「……はぁ。もうしょうがないですね」

しぶしぶ銃をしまうシンジ。

「センサー壊れてんのかしら?」

「ここの保安システムの管理はMAGIがやってるんだろう?で、MAGIのプログラミングはリっちゃんがやってる訳だ。たぶん、シンジくんの行動を邪魔しないようにプログラミングを変えたんじゃないかな」

たく、夫婦そろって親バカね。あそこは」

にしても早かったわ、今のは。シンジくんと本気でやり合ったらどうなるかしらね)

「しかし、こう銃をつきつけられたんじゃたまらないわね、学校では持ち歩くのはやめた方がいいわね。アスカにもばれると面倒だし家でも避けた方がいいわ」

「まぁそうですね、体育とかの着替え中に銃を見られたら大騒ぎですから」

とはいえ、仕事上手の届く所にないと少し心許無い。

「それにしてもいきなり銃を抜くなんてやはり同居してたミサトの影響かしら」

「うわっ!!」

突然、入った合いの手にミサトは飛び上がった。

「リ、リツコ!?」

「何?」

「い、いつ来たの!?」

「たった今よ」

………

全然気がつかなかった。やっぱりリツコもただ者じゃないわね)

「久しぶりね加持君」

「よっおひさしぶり」

驚いているミサトをよそに何事もなかったかのように挨拶する二人。

「一回死んだ割には元気そうね。まあ私もミサトも人のことは言えないけど」

「そういやサードインパクトの時に死んだんだって?」

「えぇ、碇司令に撃たれてね」

それでなんであんたは平然としてられんのよ?)

ミサトはリツコの正気を何度も疑った。

「レイちゃんはどうしたんだい?」

「碇司令にお願いしてるわ」
 

リツコは結婚後もネルフ内ではゲンドウのことを昔のように碇司令と呼んでいる。

もっともそれはゲンドウの血のにじむ努力があってのことなのだが
 

「碇司令が?」

「ええ、執務室だから副司令もいるし心配ないわ。それよりシンジくん」

「はい、あ、すみませんやっぱり僕は

「話は聞いていたわ」

「ちょっリツコ!」

リツコの言葉を聞きとがめるミサト。

「何、ミサト?」

「聞いてたってどうやってよ!?この部屋は外に声がもれる様な柔な造りはしてないわよ!」

いいミサト。このネルフ本部はMAGIが全て管理してるのよ。そのMAGIを管理してるのが私である以上、私に見れない所なんて碇司令の執務室ぐらいよ」

「あんたってほんっとうに

こめかみを押さえてうなるミサト。

「ちなみに二人の再会は録画してあるから披露宴で見ましょうね」

「な!?」

「いやーリっちゃんも見てたのか照れるな〜」

「リツコさんも人が悪いですね」

硬直したミサトをよそに男性陣が感想をもらす。

リツコはシンジに向き直ると言った。

シンジくん、あなたが幸せだと思うならそうするのが一番よ。昨日も言ったけど私たちに気兼ねは不要よ。
 ま、嫌になったらいつでも帰っていらっしゃい。アスカも連れてきていいわよ」

「はい、ありがとうございます」

「どういう意味よ!」

別に」

復活したミサトが問いつめるがリツコは涼しい顔だ。

「どうだいリっちゃん。二人の子持ちになった感想は」

「とっても幸せよ。加持君も早く作ってもらうといいわ」

「だ、そうだ葛城。ひとつ頼めるか?」

「あ、あんたねぇ

「そうそう用件を忘れるところだったわはい、シンジくん」

真っ赤になったミサトを放っておいてリツコは白衣の中から一丁の銃を取り出すとシンジに渡した。

「これは?」

「こんなこともあろうかと思って作っておいたシンジくん専用の銃よ。

 本当はアカギスペシャルとか付けたかったんだけど今一つしっくりくる名前がないのよねぇ」

リツコがため息をつく。

「はははあれ思ったより軽いですね。しかも僕の手にぴったりフィットする」

「当然よ、何といっても愛情がこもってるもの」

「愛情のこもった銃ってなによ

ぶつぶつと呟くミサト。

「なにミサト、あなたも友情のこもった鉛玉が欲しいの?」

「遠慮するわ」

「そうそう、一応通常の拳銃弾が使用できるようにしてあるけど他にも各種弾薬をとりそろえてあるから必要な時に取りに来て」

「はい」

そういいながらグリップを確認する。

軽いが思ったより硬い。どうやら格闘に使うことを前提にしてあるらしい。

リツコの顔を見ると万事においてぬかりなしという顔をしている。

「他にもいくつか隠し機能があるわ。手が空いたら説明書を見に来て」

そういうとリツコは部屋を出ていく。

「はい、ありがとうございます。大事にしますね」

リツコはドアのところで立ち止まる。

銃なんかより身体の方を大事にしてね。あなただけの身体じゃないんだから」

「あ………はい!」

「それから」

………

「今入っている弾だけど、ストッピングパワーは通常弾の3倍以上私が保証するわ。

 けど、殺傷力は通常よりかなり落ちるから。覚えておいてね」

ドアがしまってリツコは出ていった。

しばらくして加持がつぶやく。

リっちゃんも母親になっちまったんだな」

「私は母親にはなれそうもないなんて言ってたくせにま、自分の息子だもん出来る限り人殺しはさせたくないわよね」

………

シンジは無言で銃をしまった。そんなシンジを見つめてミサトは言った

「いいお母さんねシンジくん」

「はい」

シンジも嬉しそうに答えた。

 

しっかり盗聴していたリツコは音声を切るとつぶやいた。

「バカね

頬を涙が伝う。目元をふくとリツコは意気揚々と研究室に向かう。

次は何をプレゼントしようかしら?

 

そのころ、総司令執務室では

「冬月先生

「専門外だ、他をあたれ

慣れない子守にネルフのNo.1とNo.2が苦戦していた。

 

 

 

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