「七号機上昇中、まもなく大気圏外へ出ます」

「ATフィールド、出力安定」

「周回軌道に移ります」

「監視衛星より映像入ります」

星の海をバックに七号機が飛んでいく。

化け物じみたデザインとは裏腹に神々しいものさえ感じさせる姿だった。

 

翼ある蛇ケツアルカトルか)

古い神話を思い出すリツコ。

蛇身の神を崇めていた人々の気持ちもわからないでもない。

「ねぇリツコ」

そばに来たミサトが小声で尋ねる。

「なに?」

「単刀直入に聞くけどなんでエヴァは飛んでいられるわけ?あの位置、あの速度なら地球に落下するはずでしょ?第一、宇宙空間で羽なんてナンセンスよ」

「ま、もっともな意見ね。七号機がATフィールドを張ったのは何故だかわかる?」

「大気圏を突破するためでしょ?」

「ま、それもあるけどエヴァは強力なATフィールドを張ることで重力すら遮断することができるのよ」

「それって

 

「先行部隊より入電。コード101!」

日向の報告に素早く指揮官の顔に戻るミサト。

「即時爆破、攻撃開始!!」

 

 

「了解」

ジョニーがリモコンのスイッチを押すと郊外にいくつもの火柱が立った。

偽装された対空砲台のなれの果てである。

「さぁモタモタしてないで行くわよ!」

ライフルを構えてジャネットが走り出す。

「リョウジの婚約者は厳しいらしいからな」

都市迷彩を施した戦闘服のポケットにリモコンを戻しジョニーも続く。

同様に対人兵器を抱えた部隊が二人の周囲を駆ける。

その先では人間と人間との殺し合いが始まっていた。

 

 

ドイツ郊外の小さな町に彼はいた。

窓の外に火柱が見える。

「綺麗だね」

そうつぶやいて夜空を見上げる。

「早く来ないかなシンジ君」

 

 

「機動部隊、該当地区に侵攻」

「敵地上部隊の8割を殲滅。目標の確保に向かいます」

「先行第一小隊のアンダーソン一尉より入電。

 『地下施設への侵入口を確認、侵入許可を求む』

 以上です」

「許可します。尚、今後越権行為には厳罰をもって処すると伝えて」

日向の報告に堅い顔で答えるミサト。

「了解」

隅で椅子にもたれて見物している加持は苦笑した。

 

「オーコワ」

既に地下第三層まで侵入した所で返答を聞いたジョニーはおどけて見せた。

「お見通しとはさすがね〜」

仮の指令所を作りながらジャネットが言った。

周囲では通信員達が忙しそうに作業している。

「第三班が第五層にて格納庫を確認!現在、進路を確保中とのことです」

一瞬二人の動きが止まる。が、それからの処置は迅速を極めた。

「総員退去!直ちに地上へ後退しろ!」

「ネルフ本部に緊急連絡!第三目標を確認!コード405の必要ありと認む!!」

「急げ!!」

ジョニーも自分の装備をつかむと地上への通路へ駆け出した。

 

「コード405の要請です!」

「目標エリア地下120mにてATフィールドの発生を確認!」

「パターン赤!出力はほぼエヴァ一体分に相当します!」

「捜索部隊を除く全部隊に撤退命令!目標地区より半径2km以遠に後退!

 シンジくん」

「はい」

サブスクリーンにシンジの映像が入る。

「残念ながら出番よ」

「わかりました。ミサトさんそんな顔をしないで下さい。大丈夫ですよ」

励ますように笑顔で言うシンジ。

そんなにつらそうな顔してんのかしら?)

頬を掻くミサトの隣からリツコが簡潔に情報を伝える。

「MAGIの分析ではダミープラグ使用の可能性が一番高いわ」

「はい、ありがとうございます」

 

「目標が移動を開始!地上に出ます!」

 

地響きをあげながらビルや町並みを突き崩しそれは地上に姿を表した。

嫌悪感をもよおす口を大きく開き咆吼をあげる。

「キシャァァァァーッ!!」

それは両手でつかんだ双刃剣をふるいビルをなぎ倒す。

破壊衝動に導かれるままただただ破壊を実行する。

 

「やれやれ、怪獣映画の見過ぎかな?」

落下する構造物をかわしながらジョニーは言った。

「シンジ達って14歳であんなのと戦ってたのよね〜」

………

二人は恐怖を押しつぶして走っていた。

正常な人間なら必ず覚える本能的な恐怖だ。まして報告書通りなら、あの白い巨人には銃弾もミサイルもN2兵器さえも通じないはずである。

二人はシンジ達への賞賛の念を高めていった。

 

 

シンジは目標の上空に到着すると一旦停止し翼をとじる。

頭を下にしてエヴァは落下を始める。

重力のみならず自ら加速して。

 

 

制御を失い破壊を始めた白い巨人を眺めていた少年だったが、ノックの音で振り返る。

「カヲル・ナギサかい?」

ジョニーはライフルを肩に担いで尋ねた。

「ええ、そうですよ」

 

 

「あらーシンジに負けず劣らずの美少年ね〜」

ジョニーが通信兵に指示を始めるとジャネットが言った。

カヲルの瞳と髪は漆黒に染まっていた。それがヒトの証だというかのように。

その顔がにっこりと微笑む。

「それはどうも。でも、シンジ君の方がハンサムですよ」

うーん。上玉だわ)

不謹慎だが感心するジャネット。

「さて、お休みの所悪いが同行してもらおうか。なにせあんなのが近くで暴れてたんじゃ生きた心地がしないんでね」

そう言ってジョニーが窓の外を顎でしゃくる。

「不完全なダミープラグを使ったせいです。あれはもはやエヴァンゲリオンとは言えません。ただの怪物ですね。コントロールルームは既に破壊されているでしょうが、ま、自業自得でしょう」

「それならなおさら早く脱出するわよ」

「大丈夫ですよ、もうすぐシンジ君が来ますから」

カヲルは確信に満ちた表情で言った。

 

『第一目標を確保!第三目標はダミーと確認されました!!』

『エヴァ七号機大気圏に突入します!』

 

夜空から赤い尾を引いて流星が落ちてきた。

流星はまっすぐ白い巨人に向かって落下する。

刹那、爆音と振動が辺りを揺るがした。

メインスクリーンがノイズの嵐に覆われ音声がとぎれる。

「状況は!?」

「駄目です!センサー系統が復旧しないことには!」

「急いで!」

 

「勝ったな」

冬月が呟いた。

「ああ」

ゲンドウは満足そうな表情を浮かべた。

 

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

ジョニー達が伏せる中、一人カヲルはその閃光を見つめていた。

久しぶりだね、碇シンジ君」

 

 

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