<再び心の補完>
…ここはどこなんだろう?
確か自分は多くの世界、多くの時間を…
シンジはあたりを見回した。
周囲は赤と白に彩られている。
白い大地に赤い湖。
空は暗黒。
湖の岸に自分は立っている。
寄せては返す赤い波。
赤い水…LCL?
『これは惣流アスカラングレーの心』
「綾波!?」
シンジの前に無表情で立ちつくすレイ。
「これがアスカの心?」
こんな寂しい景色が?
『正確には心の欠片の一つが存在する場所。
壊れた彼女の心は、輝きを取り戻した。
でも、再び彼女の心は砕かれてしまった。
ロンギヌスの槍で貫かれてしまったから』
「………」
『全てのヒトの心の補完が行われた。
でも、彼女の心は砕かれたまま。
このままでは再び心の壁がヒトを分かつとき彼女はそれに耐えられない』
「耐えられないってどうなるの?」
『消える』
「!?」
アスカが消える?
あのアスカが?
いつも元気いっぱいで自信にあふれ僕を馬鹿にして…
でも彼女の明るさに何度救われたことか。
だからアスカの心が壊れたとき自分が許せなかった。
だから自分が無力だということが耐えられなかった。
だからアスカの心が閉ざされていてもアスカにすがってしまった。
だからアスカの…
「どうすればいいの!?」
『彼女の心の欠片を集めて再び一つにするの……碇くんが』
「僕が?」
『そう。これは碇くんにしかできないこと』
「僕が…アスカを…こんな僕が」
『………』
「無理だよ綾波、無理だ…」
アスカを守れなかった。
綾波を守れなかった。
カヲル君を殺してしまった。
ミサトさんを…
そしてまたアスカを守ることが出来なかった…
「僕に出来るわけないよ!! 僕に、こんな僕に!!」
『碇くんにしかできないわ』
「そんな…できっこないよ。僕に出来ることなんか…何もないんだ…」
『それは違う』
「?」
『碇くんは私にいろんなこと教えてくれた。涙を流すこと、笑うこと…』
「………」
『寂しいということ、うれしいということ…』
「…綾波」
『それがヒトとしての私に碇くんがくれた絆。だから私は幸せだった』
「…だった?」
『私の役目は人類補完計画の要となること。リリスと一つになって。
でも、再びATフィールドが人を分かつそのときリリスも消えて無くなる。
もう…必要ないから』
「…そんな!?
綾波! いなくなったりしないでよ!
みんなと、僕と一緒にいてよ!」
『………』
「…どうしてもなの?」
『それが碇くんの選んだ世界。私はリリスの魂としてその世界を癒すの』
「僕が綾波がいなくなることを望んだって言うの!?」
レイは首を左右に振った。
『私は本来は消えてしまうはずだった。でも碇くんは私がいる世界を願ってくれた』
「だったら!」
『リリスとしての私がどうなるのかは私にもわからない。
でも、ヒトとしての私はヒトとしての魂を持った綾波レイに生まれ変わる』
「ヒトとしての魂?」
『そう。綾波レイは今度はヒトとして生まれ、ヒトとして生き、そしてヒトとして死ぬ』
「………」
『それが碇くんが私にしてくれたこと。だから私は幸せ』
「綾波…」
『でも、碇くんには彼女が必要。だから彼女を救って』
「………」
『………』
「………」
『………』
「…わかった、やってみるよ」
『………』
「ありがとう…綾波」
『私によろしくね』
「うん………元気でね綾波」
(…さよならは言わないよ。だから綾波…)
レイは幸せそうに微笑むと消えた。
シンジはレイが消えた空間をしばらくじっと見つめていたが、意を決すると振り返った。
「………アスカ」