<ジオフロント>
「ここは…」
空を見上げるとビルが突き出た天井が見える。見慣れたジオフロントの景色。
そして、初号機と弐号機が見守るように片膝をついていた。
弐号機の足下には見慣れた赤いプラグスーツ。
「…アスカ!!」
アスカの頭を抱き上げ懸命に名前を呼ぶ。
「アスカ! アスカ! アスカ! アスカ! アスカ!!」
わずかに身じろぎするアスカ。
(…生きてる!)
「アスカ! ねえ起きてよアスカ! 目を覚ましてよ!」
「………もう、うるっさいわねぇ」
かすかに瞼を開くとアスカが言った。
「…アスカ」
「ちょっちょっと!」
意識が戻った途端泣き出したシンジに慌てるアスカ。
「良かった…本当に良かった…」
「………………………………………しょうのない奴ね」
アスカは手を伸ばしてシンジの頬に触れた。
そしてそのままゆっくりと…
ギャギャギャギャギャ!!
けたたましい音を立ててジープが急停止する。
「シンジくん! アスカ!!」
止まったジープの助手席からミサトが二人に飛びついた。
そのまま二人を抱きしめる。
「ミっミサトさん!?」
「ちょっちょっとミサト! 怪我人はもっと大事に!」
「ふぇぇぇぇん、シンジくんアスカよかったよぉ〜」
二人を抱いたまま泣き出したミサト。
シンジとアスカは顔を見合わせると肩をすくめた。
「ちょっとミサト、言うことがあるでしょ?」
「へ?」
アスカが照れくさそうにそっぽを向く。
ミサトは泣き笑いの笑顔を浮かべると、
「………お帰りなさい」
「………た、ただいま」
「…ただいまミサトさん」
ミサトは一層強く二人を抱きしめた。
子供達は目を閉じるとされるがままになった。
せめてもう少しの間だけでもこのぬくもりを感じ合うために…
<発令所>
三人を映し出すサブスクリーンを一瞥する冬月。
「ひとまずはあれでいいだろう。それより………碇」
「先輩!!」
ゲンドウとリツコが発令所に姿を見せた。
「…終わったのか?」
「はい、冬月先生」
「そうか…」
男二人の間にしばし沈黙の帳が下りた。
「直ちに日本政府に停戦勧告。続いてMAGIで全世界の情報ネットワークに干渉開始」
何事もなかったかのように命令を下すゲンドウ。冬月はいつものようにその横に立つ。
「了解しました。直ちに通達します」
「マヤ、MAGIは?」
「問題ありません。但し、Bダナン型防壁は解除されています」
「それでいいわ、すぐに情報発信の準備を進めて。送信するファイルはBの572からHの973番までよ」
いつものように淀みないリツコの指示。
マヤは泣きそうになりながらも元気良く答えた。
「はい!」
「……私だ」
「ご無事でしたか………いや、何よりです」
「君もしぶとく生き残っているようだな」
「往生際は悪い方でして」
相手の口調にいつもの調子が戻ってくる。
「お互いにな……これから攻勢に出る。君の助けが必要だ。やってくれるか?」
「…承知しました。それでは」
ゲンドウが受話器を置くと冬月が言った。
「始めるのか、碇?」
「はい、老人達はおそらく生き残ってはいないでしょうが」
「…生き残った者のつとめは果たさなくてはな。前回も今回も」
「…おっしゃるとおりです」