【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

<ネルフ本部 総司令執務室>

 

 

「赤木リツコ入ります」

リツコは一声掛けると執務室に足を踏み入れた。

そのまま足音高く部屋の中央に向かう。

行く先ではデスクで肘をつき手を組む男とそのかたわらに立つ初老の男が待っていた。

「……何だ?」

ゲンドウは簡潔に聞いた。

仕事場では妻が相手といえども相変わらずの無愛想を貫いている。

リツコもいい加減慣れたもので内心で苦笑しながらも顔には出さずに用件を告げる。

「葛城一佐から預かりました」

そういって二通の手紙を差し出す。

「いったいなんだね?」

「とりあえず中をご覧下さい」

封を開き中を見る冬月。

「ほう? ……碇」

冬月に促されゲンドウも手紙を開ける。

わずかに表情が変わる。

 

『碇シンジ誕生日パーティ招待状』

 

さすがのミサトもゲンドウと冬月に対してはふざけられないため中には用件だけが簡潔に書かれている。

「シンジ君ももう18か……」

冬月は感慨深げに言った。

「はい。つきましては簡単にパーティなどを、とのことです」

「会場は例によって葛城君のところか…入りきるのかね?」

「シンジくんとアスカがいますからなんとかなると推測されます」

(…葛城君は勘定に入っておらんということか。しかし、シンジ君の友人だけでも5,6人は軽く越えるな。それに加持君や発令所の面々に…)

「副司令も一度アスカの手料理を食べてみては如何でしょうか?」

「…そうだな。せっかくの招待だ、お言葉に甘えるとしよう。

 葛城君には仕事の都合がつけばお邪魔すると伝えておいてくれたまえ」

「わかりました」

「碇、お前はどうする?」

冬月はゲンドウを見る。

リツコもゲンドウを見る。

しばし後、ゲンドウが口を開く。

「その日は国連との会議が…」

「嘘をつけ碇、そんな予定は無いぞ」

あっさりと見破る冬月。ゲンドウの肩がぴくりと震える。

「ドイツ支部の視察を…」

「ゲンドウさん」

あえて碇司令とは呼ばないリツコ。ゲンドウの身体がぶるっと震える。

「私が行ってもシンジは喜ば…」

「あなた!!」

びくびくっと震え上がるゲンドウ。リツコがゲンドウを『あなた』と呼ぶことはまれだ。

そしてその後には…

「往生際が悪いぞ碇」

「…しかし冬月先生。私が行っては皆くつろげないのではないでしょうか」

おどおどと答えるゲンドウ。そう言われて考え込む冬月とリツコ。

『…一理ある』

そう二人の顔に出たのかゲンドウは調子を取り戻す。

「では両名ともそういうことだ」

「…甘いぞ碇」

 

 

<同時刻 教室>

 

 

「そういやシンジの誕生日って6月やったんやな」

トウジが招待状を見ながら言った。

「シンジも18か。何か18になっての予定はあるのか? 車の免許とか?」

ケンスケが尋ねる。

「えーと…車の免許はアメリカで取ったんだ。一応、日本でも使えるそうだよ」

そういって免許証を鞄から取り出して見せるシンジ。

「えーシンジ、車の免許持ってたの?」

マナが免許をひったくって見る。

「何言ってんのよ。マナなんか戦車と戦闘機、操縦できるくせに」

アスカがそう言うとマナはウィンクしてそれに答えた。

「それはヒ・ミ・ツ。一応内緒なんだから」

「同じ様なもんでしょ…」

そこでふと思い当たるアスカ。

シンジに顔を寄せて小声で聞く。

「ちょっとシンジ。もしかしてあんたも戦車動かせれる?」

「う、うん。一応」

(…この話題は避けたいんだけどな)

「他には?」

「他にって?」

「どうせそれだけじゃないでしょ、訓練したのは」

「えーと」

考え込む振りをするシンジ。

一応考えてはいる。どうやって言い逃れるかを。

それを見抜いたのかアスカは伏し目がちの姿勢で独り言の様に呟く。

「そっか…しょせん私なんかには教えてくれないのね。

 いいわよシンジなんか。シンジに捨てられたアタシはヤケになってつまんない男に引っかかってあーんなことやこーんなことされるのよ、そのあげく…」

「わかった! わかったよアスカ!」

アスカの脅しに屈するシンジ。

「じゃあ教えて」

打って変わってにっこりと笑うアスカ。

(…最近手口が変わってきたな)

相変わらずアスカには弱いシンジだった。

「とりあえずは各種特殊車両一通り。軍用機も一通り。おまけでセスナからジャンボジェットまで。それでもって各種軍事用艦船の操縦法を一応マニュアルだけ」

「………」

…このバカバカな頭のどこに納まってるのよ、と思うアスカだった。

 

 

 

 

 

 

【第拾伍話 時、来たりなば】