【新世界エヴァンゲリオン】

 

 

 

 

「加持さん、今日は泊まっていってくれない?」

皆が帰った後、後片付けを(家主の代理として)手伝ってくれている加持にアスカが言った。

「は?」

皿を拭く手を止めて辺りをさっと見回す。

ミサトは入浴中。

シンジは手伝うな、と言われてリビングで転がっている。

「だからぁ今夜は帰らないで欲しいの」

アスカは繰り返した。

世の男の大半は間違いなくあらぬ事を想像して舞い上がることだろう。

(…一人暮らしの女の子に誘われたわけじゃあるまいに。)

加持はちらりと考えて返事する。

「まあ用事があるわけじゃないし別に構わないが…わけを聞いてもいいかい?」

「加持さんと朝食を食べたいっていうんじゃ駄目?」

アスカはにっこりと笑った。

「そいつは光栄だが…それだけじゃあるまい?」

「そのうちわかるわ」

悪戯っぽく笑うとアスカは洗い物に戻った。

すでに加持が泊まるものと決めてかかっている。

(…まあ確かに泊まるわな、これだけ言われたら。)

それに加持が葛城家に泊まるのは最近では珍しくない。

仕事が楽になったのもあるが、加持にも人並みにおいしい食事をしたいという願望があるためもある。

「ま、いいさ」

 

 

「さてと、時間は…」

ミサトは時計を見た。

午前1時ちょうど。

明日は日曜日、問題は何もない。

「ふーいい湯だった…おい」

風呂を出た加持は葛城家に泊まるときの寝床であるリビングに入ったのだが、そこではちょうどミサトがビールの栓を開けようとしていた。

「まだ飲むのか?」

「明日は日曜だしねー。ほら、加持君もやりなさいよ」

そういって加持にコップを渡す。

「へいへい。しかしもうツマミはないぞ」

あぐらをかいて座り込む浴衣姿の加持。相変わらずタンクトップとショートパンツのミサトと向かい合う姿はなんとも妙な雰囲気である。

「それが問題ね。シンちゃんとアスカは?」

「シンジくんには一番風呂に入ってもらったからな、もう寝てるんじゃないか? アスカももうそろそろ寝る頃だろう」

「さすがに今日はもう頼めないか、仕方がないわねあたしが…」

腰を浮かすミサトを慌てて止める加持。

「ま、待て葛城! 何か作ろうにもたぶんもう材料が無いだろう?」

「明日の朝食用になんかあるでしょ」

「そんなことをしたら明日は一滴たりともビールを飲ませてもらえないぞ!」

「…それもそうね」

仕方なく座るミサト。

ほっと胸をなで下ろす加持。

そのとき、シンジの声が聞こえた。

 

「アスカ!?」

 

「あれシンちゃん?」

「どうかしたかな?」

ダダダダダダ!

音を立てて走ってきたシンジがリビングに現れる。

さっと見渡しアスカがいないのに気付くと今度はアスカの部屋に向かった。

「あ、シンちゃ…」

「いっちまったな」

声を掛けるまもなくシンジは消えた。

何を思ったのかニンマリと笑うと缶ビールを持って立ち上がるミサト。

「葛城?」

「ツマミができたわ」

そういうと足音を忍ばせてリビングを出ていく。

「やれやれ…」

加持は肩をすくめると後を追った。

 

シンジが叫んでリビングに走っていった。

リビングにいないのに気付いたのだろう。足音が近づいてくる。

アスカは深く息を吸い込むと心を落ち着けた。

(…アスカ、行くわよ)

ノックすら忘れて部屋の扉が開け放たれる。

「アス…カ?」

思いも寄らぬ光景に思わず声が止まるシンジ。

扉を開いたシンジの目の前、床に正座したアスカが両手をついて頭を下げている。

「あ、あの………」

さすがのシンジも当惑しているようだ。

とどめとばかりに衝撃的内容を告げるアスカ。

「…ふつつかものですが末永くよろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 

【第拾六話 絆】