<エヴァ伍号機エントリープラグ内>

 

 

(…アスカのにおいがする。)

そう考えてからシンジは声を立てずに笑う。

昔、レイと機体相互互換試験をしたときも同じ様なことをつい口にしてしまったことがあった。その時レイも同じ事を言っていた様に記憶している。

「なんや、ニヤニヤして?」

トウジの声が聞こえた。

通信ウィンドウは開いたまま。プラグ内の機能は可能な限り落とされているが通信機能だけは緊急時に備えて常時開いたままになっているのを忘れていた。

「ちょっと思い出し笑いをね」

「また惣流か?」

「また、はないだろ」

「否定はできんやろ?」

そういって笑うトウジ。

「確かに…」

…結婚した、いやしようとしてる身、かな。

「………ちょっと綾波のことでね」

「………ほぉか」

綾波と口に出してもシンジの笑顔は変わらない。

少し安心するトウジ。

(…ほんまセンセは損な性格しとるさかいな。)

トウジ達はレイがどうなったのかは知らない。アスカもネルフのメンバーもその件については一言も口にしないので死んだのだろうと推測するだけだ。何よりリツコの娘がレイという名と聞き確信した。

もっとも事実はやや異なる。あと十年もすればトウジ達は頭をひねることになるだろう。

二人のパイロットはエントリープラグ内で休息中であった。

昨日の出動から一度仮眠を2時間とっただけで働きづめである。

その甲斐あってかなりのペースで作業は進んでいるが被害の規模も予測より大きく出動期間は1週間に延長されることとなった。

二日目の作業も現地時間午前2時に終了し二人はこれから6時まで仮眠をとることになっている。

エヴァ両機は市街地にそのまま駐機していた。非常時にいつでも対応できるようにとシンジが進言し日向も同意した。便宜上、エヴァの警備は軍の部隊が行っている。もっともエヴァに対する好感が芽生えたのか周囲に寝泊まりしている市民も多い。

 

ふと口を開くシンジ。

「トウジはさ…」

「ん?」

「委員長のどんなところが好きになったの?」

ブーッ!!

音を立ててLCLを吐き出すトウジ。

「な、何をいきなり聞くんじゃわれ!?」

顔を真っ赤にして慌てふためく。

「いや、なんとなくなんだけど」

正直に言うシンジ。

なんとも形容しがたい表情をしている。

その顔を見てなにやら毒気を抜かれるトウジ。

興奮させるのも突然なら冷めさせるのも突然だった。

(…ほんま変わっとるでセンセ。)

そう思いつつ答えるトウジ。

「そういうシンジは惣流のどこに惚れたんや?」

そう言われて考え込んでしまうシンジ。

(…アスカの何を好きになったか?)

(…参った。考えたことなかったや。)

何やら途方に暮れ、困り果てているシンジを見て心配になるトウジ。

「おいシンジ」

「あ、ごめん。わかんないや…」

「………ほぉか」

「ただ…」

「ただ?」

…たぶん意識するようになったきっかけは

「………強気なとこだったかも」

「………」

「………」

ふっと肩の力を抜くトウジ。

「…ま、わからんでもないわ。あいつの元気はみなを奮い立たせるもんがあるしの」

「うん」

「…ほなら、わしはもう寝るわ」

「…トウジ」

「な、何や?」

何やら慌てるトウジに笑顔で尋ねるシンジ。

「トウジは?」

「………」

「………」

「…堪忍したってくれ」

「しょうがないね」

「…うぅまたシンジに借りを作ってもうた」

「そうだね」

罪作りな笑顔を浮かべるシンジ。

(…やっぱ親子やな)

しみじみと思うトウジ。

碇シンジ18歳。誰が何と言おうと碇ゲンドウの息子であった。

「…ほな、おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

 

 

渚パート