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見覚えがある、なんてものじゃないくらいに知り過ぎた景色が広がっている。それは昨日と変わらなくて、変わらなすぎて逆に違和感を覚えそうだった。 どこか味気のない、住人を連想させる部屋。リビングの、テーブルの上に(あたしにとっては)意味不明な紙が散らばっていて、それに隠されたように埋もれているのはとんでもなく分厚い本。合間を縫うようにして万年筆が転がってる。──昨日も見た。 そんな昨日、一昨日……、全く同一の状況に飽くこともせずに観察しているあたしも、やっぱり昨日と変化せずにソファに背をもたれて座っていた。で、あたしの隣で本を捲る彼も同じ。あたしのことなんて絶対に気にしてないで仕事をしている。一時間…くらい。 (よく、こんな暇過ぎた毎日に不平不満も言わずにいるよなあ) と、自分に感心してしまう。毎日毎日、そんな特別なことばかりがあるとは思わないけど。 相手がナルでなかったら、とっくにキレてるだろう。 それでも、とろんと少し眠くて濁った目を一生懸命働かせて、見たってどうしようもない昨日と同じ今日の夜を映す。 チクタクと鳴る時計の音、横で紙が擦れるBGMも音がないのと同等なくらい、聞き慣れている。ふっ、とたまにつく溜め息とか、少し姿勢を直したら軋むソファとか、予想するまでもなく馴染んでいて、昨日をトレースしたみたい。 チクタクチクタク。……時計の音、子守歌のよう。 ただボーッとしていただけのあたしはいつの間にか、沈黙に等しい時計に惑わされて、“少しだけ”感じていた眠気のピークを知る。たくさんの瞬きをしては、味気のない光景を意識の中に保とうとする。 でも、それは決してこの刺激のない日常や静かさが耐え難いということではなくて、ましてつまらないのでもなくて──本当はその逆でナルと共に当たり前に流れる日々や空気に安心しているのだと思う。 だからあたしは、会話すらないこの時間を持て余すことなく生きていられるし、寄りかかれる。 ぱたん、瞼を閉じる。霞んでいた世界が暗くなる(……だめだ、眠い)。 この平坦で同じ過ぎた光景──雰囲気にたゆたう。 寝ることを意識した途端に、力が抜けて身体が支えられなくなってしまい横に倒れる。でも、倒れようとした処にはナルが仕事をする機械となっているのを分かり切っていたから、結果的にはもたれるとか寄りかかると示す。 紙が触れ合う音が少し止まる。と、いうかナルは動きが一瞬停止してるのだと思う。 迷惑しているのだろう、あたしの沈む直前の意識にしかめっ面が思い浮かぶ。けど、なんか、もーいいや、て感じ。いまさら動けない……。 当然なんだけど自分じゃない他人の体温がある、と思うとすごくすごく安心する。あたたかい、ふわふわの布団の中みたいで、よく眠れる。 チクタクチクタク、同じ空気と配置。 それと、あたしの頭を無言で支える肩。頬から重なる温度。 ──昨日と変わらないでいる。 それがとても当たり前なようで、明日もまた同じだろうと思って、ちょっとだけ口の端を上げて笑った。 おやすみなさい。 fin |
管理人の御礼 ……メーラーが壊れたと泣いていた管理人を慰めようと(?)送ってくださいましたvああ、なんて優しい………v ええ、一気に浮上いたしましたとも!(おい) 柔らかい、日常の、当たり前さがすごくいい雰囲気ですvv ありがとうございました。 |
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