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それはいつもの帰り道 「まったく。何でこのわたくしがこんな荷物を持って歩かなければならないの!!」 豪華な金髪をなびかせながら一人の少女が歩いている。 彼女の両手には大きな袋。 先ほどから、文句を言っている原因はどうもこの袋の中身にあるようだ。 時は少し遡って、半刻前。 殿下こと、ダナティアは暑い外を避け、その日も静かに自室で本を読んでいた。 開けっぱなしの窓から入ってくる風が、少しは爽やかになってきたような気がする。 誰にも邪魔されない自分だけの時間は、しかしあまりにも短かった。 「殿下、失礼する」 静かな声と共に、黒髪の少女が部屋へと入ってきた。 許可も、ノックもなく部屋に入ってきた彼女にダナティアは、軽く眉根をしかめた。 「ちょっと、サラ。貴方、人の部屋に入ってくるときにはドアをノックするのが礼儀ってものではないの?」 「悪いが、殿下。至急村へ行ってくれないか?」 「…貴方、少しはわたくしの話を聞いてくださらない?それにこの暑いのに、外に出かけるなんて嫌よ」 だいたい用事があるのなら、自分で出かけなさい。そう言って、ダナティアはひらひらと優雅に手を振った。 さあ。出ていって頂戴と言わんばかりに。 しかし相手は、サラ。 ファリスならばダナティアの不機嫌な態度に気おされて大人しく出ていっただろうが、サラではそれは期待できない。 彼女は怯むことなくダナティアに近づき、ぎゆっとその手を握り締めた。 夏なのに冷たい手と、何を考えているのかわからないダークブルーの瞳に見つめられ、ダナティアは夏なのにちょっぴり寒気を感じた。 「村で頼んでいた物が出来あがったらしいんだ。もちろん自分で行きたいのはやまやまなんだが、あいにく今からごくちゃんの観察をしなければならない。それで愛しの殿下に取りに行って欲しいんだ。もちろんこれは殿下だからこそ、頼むわけなんだが…」 「どうしても、今日、今必要なのね。その頼んでいた物は…」 いい加減、このサラと二人っきりの状況を抜け出したいダナティアは眉間にくっきり皺を作りながらも、そう言った。 「ああ。頼む、殿下」 「わかったわ。わかったから、いい加減、その手を離して頂戴!!!」 その言葉を聞いた瞬間、サラがに唇の端を持ち上げたのをダナティアが知らなかったのは、楽園にとっても彼女自身にとても幸いであっただろう。 そのような経緯があって、彼女は今、サラの頼んだ荷物を両手に持って楽園への道を行っているのだ。 袋の中身は、何に使うのかさっぱりわからない容器やなんやらで。 今更ながらに、サラに嵌められた気がしてならないと感じるダナティアであった。 昼間とは違って夕方にでもなると、強い日差しも影を潜めている。 まあ。昼間の炎天下を歩くよりはましねと、そう自分を慰めてみる。 そんなダナティアを呼ぶ声が、後ろから聞こえた。 良く聞きなれた声なので、振り向かなくとも誰だかわかる。 何で、こんなところに彼が?そう思いながら振り向いた。 「こんなところで奇遇ですね」 案の定、自分に手を振るのは、自称永遠の21歳というふざけたことをいう師匠、エイザードその人であった。 会いたくもない人に会ってしまった、そんな表情を隠そうともしない彼女にエイザードは、 「そんな顔しなくても良いじゃないですか。ほら、綺麗な夕暮れですよ」 そう言って山の向こうを指し示す。 「………」 思わず足を止めて見とれてしまった。 薄いオレンジ色の光りは、暖かく優しく空を覆っている。 「ねえ。これが見れただけでも、外に出てきたかいがあると思いません?」 なんだか、とっても、してやられたと思ってしまうのは何故だろう? それを認めるほど彼女のプライドは低くも無いので、返事のかわりに手に持っていた荷物をさしだしてやる。 「ええ?これを私が持つんですか…」 嫌な顔をする師匠は無視して、ダナティアは歩き出す。 「ほら。さっさと帰るわよ。マリアのご飯が待っているんですから」 「……こんなはずではなかったんですけどね…」 ぶつぶつ呟く師匠にダナティアは小さく微笑む。 たまにはこんな帰り道も悪くはないかもしれないと、そう思いながら。 暑い夏も過ぎ去りつつあり、秋はもうすぐそこに。 |
残暑見舞い申し上げます 暑い夏如何お過ごしでしょうか?たまです。 朔さんには日頃からお世話になっています。 日頃の感謝と残暑見舞いを兼ねて、小噺を書いてみました。 楽園は生まれて初めて書くので、変かもしれませんがどうぞもらってやってください。 それでは暑いですが、お身体にお気をつけ下さい。 02.8.15 たま 拝 |
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