back to gift_index |
back to index |
――…名を、呼ぶ 応えが返る…―― ……そして、また、呼ぶ ほんの些細な日常が訳もなく愛しくて。 ゆるやかに流れる時間を穏やかに見送り続ける そうして。 † † † 「ねえ、名前、呼んで?」 瞳を無邪気な色で染め、少女はねだる様に小首を傾げながら、 不意にそう言った。 「……何考えてるんだ?」 問い返すその、冷静な、けれど呆れを多分に含んだ声音に、 少女は笑顔で応えた。 「ねえ?呼んで?」 「………酔ってるんだな」 仄暗い照明の中、白く滑らかな肌がうっすらと上気しているのが見て取れ、 青年は小さく溜息を付いた。 少女はその様子に不服そうに頬を膨らませながら、反論する。 「酔ってないもん!ねえ、呼んでったら!!」 「…何故僕が?」 「呼んで欲しいから」 面倒くさそうな低い声音を意に介さず、否、気付く事もせず、 少女はきっぱりと言いきった。 青年は、僅かに眉を顰めながら今度はあからさまな溜息をその口に上らせた。 「名前ってねー、初めて貰うプレゼントなんだよ?自分だけの。 たった一人だけの」 最早返事をしなくなった青年を構う事無く、少女はゆるゆると言葉を紡いで いく。 「名前、呼んでもらうのって、すき。だいすき。…だって淋しくなくなる」 ことん、とテーブルの上の腕に頭を凭せ掛けながら、 少女は呟くように独白し続ける。 「呼ぶのも、すき。でも、呼んで欲しいの。いっぱい。いっぱ、い…」 不明瞭に途切れたその言葉尻を不審に思った青年が少女の顔を覗き込むと、 泣きそうな、途方にくれた迷子のような表情をして少女は寝入っていた。 ↓ ↓ → 「ゴーストハント」バージョンへ → オリジナルバージョンへ
<< ghosthunt >> 「……麻衣」 青年がほんの僅かな躊躇いの後に、小さくそっと耳元で囁くと、 名を呼ばれたその少女は、ゆるやかに花が綻ぶように、ふんわりとした笑顔を その面に浮かべた。 眠りの涯から届いた確かな応えに、青年はその端正な口唇を微かに綻ばせた。 今まだ眠る胸の花を、名付ける術も知らぬままに。 fin.
<< original >> 微かに、けれど確かに呼ばれたような気がした。 泣きそうなくらい、愛しさが少女の胸の奥に湧き上がる。 大好き。 ……だいすき …カラ 自分を見つめてくる視線の甘さに気付いたのは、何時からだろう? 少女は幸福な回想を、その脳裏に繰り返し再生させる。 少しづつ…少しづつ。 季節が変わるよりも緩やかに、穏やかに変わっていった二人の関係。 だからこそ、愛しさが募る。 変わらない日常の中で、何時の間にか変わっていた感情。 気付く前に寄り添っていた懐かしい日々。 それらに、少女は面映い迄に恥じらいを覚える。 そして。 そうして… …コワサレタ 淋しくないよ? 少女はそっと微笑んで胸の内で呟く。 だって貴方はここに居る。 ほら、名前を呼ぶ声だって、何時でも届いてるもの。 貴方は、私の、内に……―― 虚無を身の内に宿し、 うっとりと少女は微笑み続ける …サミシイカラ とおく、近く、声が届く。 境界の向こうから 何処でもない場所から ココニキテ…… fin.
|
読ませてくださいvvとお願いして送っていただいた佳編を、掲載させてください!!と図々しくもお願いし、お優しい藤野さんは快くお許しを下さいました(感涙) 仄かに覗く闇というか、狂気というか。そういうものが本当にすばらしいのですvv(うっとり)←危険。藤野さんの書かれる透明度の高い美しい文章が好きです。 本当にありがとうございました! |
back to gift_index |
back to index |