NeoPoint of Special
ビジネス視点から見た次世代ゲーム機戦争


■次世代ゲーム機発売

 今年の年末にPS3とWiiが発売されます。 最初は誰しもPS3の圧勝と考えていましたが、PS3の高価格やNintendoDSの流行などにより 次世代ゲーム機戦争が混沌としてより盛り上がっている感じがします。 はたして次世代ゲーム機の勝者はどこになるのでしょうか? ちょっとばっかし考えてみました。

最初はゲームファンの視点から考えてみましょ。
Sonyファンなら、こう考えるのではないでしょうか?
何と言ってもFFがでるし他のソフトメーカーの有名作品もほとんどPS3で出る。 一方、任天堂のWiiでは任天堂のゲームしかできない。 NintendoDSは好調だが据え置き機と携帯機ではユーザーの層が違い、求めている物も違う。 また、PS3の価格は確かに高いがBlu-rayが本格的に普及してくれば安いプレーヤーとしての価値も出てくる。

一方、任天堂ファンなら、こう考えるのではないでしょうか?
ユーザーは、もうゲーム機の性能の向上に興味が無くなってきている。 NintendoDSの好調はそれをもっともよく現した結果である。 また、ゲームのニーズが落ちている現状では 高額なPS3を買うのは一部のゲームマニアだけであり、PS2のように一般層は買わないのでは。 それにBlu-rayの本格的な普及はまだまだ先でDVDのように普及するとも限らない。

どちらの考えも正しいように思えますが、 ゲームファンの視点なのでどうしても偏った見方になっている気もします。 ここではちょっと視点を変えてビジネスの視点から考えてみましょ。 ビジネスの視点から考えて場合、次世代ゲーム機の勝者になるには何が必要でしょうか? ちょっと抽象的ではありますが単純に

  • ハードメーカー
  • ソフトメーカー
  • ゲームユーザー
この三者がWin-Win-Winの関係を築けることではないでしょうか。 どういうことなの?って思う方もいると思うのでちょっと過去を振り返りたいと思います。



■過去のゲーム機戦争

 ファミコン以降のゲーム機で後にも先にもトップシェアのメーカーから シェアを奪い取ったのはPlayStationだけです。 PlayStationは、ハードメーカー・ソフトメーカー・ゲームユーザー の三者が上手くWin-Win-Winの関係を築けたもっとも良い例ではないでしょうか。

 よく言われているので深くは言及しませんが スーパーファミコンの時代、ゲームのハード・流通は任天堂の独占状態にありゲームソフトの価格は非常に高価格化していました。 当時発売されたFF6の定価は11400円です。 Sonyはゲーム業界に参入する時、良く業界を研究していたと思います。 ソフトメーカーがハードメーカーに払うロイヤリティを下げ、 ゲームの流通の自由度を上げ、ゲームソフトの価格を下げました。PlayStationで発売されたFF7は定価6800円でした。
PlayStationが新しく築いたビジネスモデルで三者が得た恩恵は下記になります。
  • ハードメーカー・・・ゲームハードのシェアを取れた。
  • ソフトメーカー・・・ロイヤリティの低下。ゲームの流通の自由度を得た。
  • ゲームユーザー・・・ソフトの価格が下がり、新作ゲームを求めて行列を作る必要がなくなった。
 PlayStationに続いて発売されたPS2もこの三者の関係は上手くいっています。 PS2はDVDの機能を搭載することによって「ゲーム機はソフトが無ければただの箱」という状態を抜け出しました。
DVDのおかげで発売時にたいしたゲームソフトも無いのにPS2は売れ続けました。 発売当時PS2のキラーソフトは映画「マトリックス」のDVDと揶揄されましたが、 ゲームソフト以外にキラーコンテンツを持つということは非常に優れた戦略だったと言えます。 PS2で三者が得た恩恵は下記になります。
  • ハードメーカー・・・ゲームハードのシェアを取れた。
  • ソフトメーカー・・・ハードが先行して売れることによるソフト供給のリスク低下。
  • ゲームユーザー・・・DVD機能によってゲーム機の価値及び用途拡大。
 ゲーム機のシェア競争にもっとも影響を与えるのは「キラーソフト」と言われています。 確かにキラーソフトはシェア競争の勝負を決める重要な要因でしょう。 しかし、キラーソフトによるシェアの変動は結果論にしかすぎません。 ハードメーカーには「キラーソフトを出す」ということより「キラーソフトが出る環境を作る」ということがより重要なのです。 そして、

【キラーソフトが出る環境を作る=三者がWin-Win-Winの関係を築く】

ということになるでしょう。
上記のことをふまえてSonyと任天堂の次世代ゲーム機の戦略を考えてみたいと思います。



■ソニーの戦略

 次世代ゲーム機の戦略を語る上で欠かせないのが「ゲーム機ニーズの低下」「オンライン対応」の2点ではないでしょうか。 「ゲーム機ニーズの低下」は様々な要因があって起きていますが、パソコンや携帯電話など ゲーム機以外でもゲームを楽しめるようになったのも一つの要因です。 「オンライン対応」は各社とも次世代ゲーム機でもっとも力を入れています。

 これら2点が引き起こすゲーム環境の変化によって、ゲーム業界は今までのビジネスモデルを変換せざるえなくなると思います。 今やパソコンや携帯電話は生活必需品であり、インターネットによって無料でゲームを楽しむことができます。 無料でゲームが遊べる時代に何万円もするゲーム機が必要でしょうか?

 また、ゲームソフトのオンライン対応はハードメーカーにとってメリットがありません。 なぜならオンラインゲームは長い年月遊ばれることを想定して作られバージョンアップしていきます。 ソフトメーカーがオンラインゲームの課金で利益を得ることに集中し新作ソフトを出さなくなると、 ハードメーカーのロイヤリティ収入は減っていき従来のゲームハードのビジネスモデルは崩壊します。


 Sonyの久夛良木氏も当然上記のことには気がついてると思います。
PS3の戦略はそのまんまCellとBlu-rayの戦略であり、久夛良木氏が描いたゲーム業界そして家電業界の未来絵図です。 久夛良木氏のPS3に関する発言でもっとも印象的なのが次の二つの発言です。

●コンピュータであるということはPS4が出ないということ

 「PS3がコンピュータである」というこうことはどういうことでしょうか?
コンピュータだからといって、ExcelやWordのようなビジネス系ソフトができるようになるわけではありません。 ただ「コンピュータのように進化していく」ということです。 今までのゲームの進化はゲームハードの切り替えのたびに起こり、だいたい5年サイクルでした。 PS3では「ゲームの進化」を「Cellの進化」に置き換えようとしているのではないでしょうか。

 この置き換えによって5年サイクルのゲームハードの切り替えを無くすのがPS3の戦略です。 ゲームハードの切り替えは、他のハードメーカーにとってシェア獲得の絶好の機会ですが この機会が無くなればSonyは永遠にトップシェアを握れることになります。ですからPS4は必要ありません。


●ハードがないということは他社製のPS3が出るということ

 既にPS3というハードが発表されているのに「ハードがない」というのはおかしいと思う方もいるかもしれませんが、 これはあくまでも「決まったハードがない」ということです。 そして、決まったハードがないことはCellの戦略と非常に深く関連してきます。

 前述したように「オンライン対応」によって次世代ゲーム機ではロイヤリティ収入はあまり期待できません。 ですからPS3ではCellを他のメーカーに売ることによって利益を得ようとしています。 ハードで儲けるわけです。 インテルのCPUがパソコンにおいて標準的に使われているように Cellを情報家電の分野で標準的に使われる半導体に成長させたいわけです。

 しかし、これは非常に難しいでしょう。 Sonyとライバル関係にある家電メーカーがSonyの半導体を搭載する可能性は限りなく低いと思われます。 そこで切り札になるのがPS3です。久夛良木氏はCellを搭載する見返りにPS3の機能を他社に解放するのではないでしょうか。 HDDレコーダーなどを開発しているメーカーにとってこれはとても魅力的な提案です。 Cellを搭載するメーカーも出てくるかもしれません。それはつまり他社製のPS3が出るということです。


 PS3を推進剤としてCellとBlu-rayを家電の中に溶け込ませます。 それによってゲーム以外で利益をあげることができれば、Sonyはロイヤリティをフリーにすることもできるでしょう。 PS3によってソフトメーカーとゲームユーザーが得るメリットは何でしょうか?
  • ソフトメーカー・・・ハード競争の終焉によるソフト供給のリスク低下。
  • ゲームユーザー・・・ゲーム機の選択の幅が広がる。ゲーム機の寿命が延びる。
になるかもしれません。
もちろん、これらの戦略は完璧ではありませんし成功するか解りません。 特にこの戦略がSonyの戦略では無くて久夛良木氏の戦略ということが問題でしょう。 「SCEの敵はSony」という構図です。 久夛良木氏はSonyを家電メーカーから半導体(Cell)とメディア(Blu-ray)そして この二つを利用したコンテンツ配信サービス会社に脱皮させよとしています。 これは大きな賭けです。 Sonyはこの賭けから降りるかもしれません。



■任天堂の戦略

 NintendoDSの好調によって次世代ゲーム機戦争で以前より注目を集めるようになった任天堂ですが、 手放しでNintendoDSの好調を喜べない状態です。 なぜなら、NintendoDS発売時に任天堂が描いた戦略は NintendoDS、GameBoy、GameCubeによる「三本柱」戦略でした。
 しかし、現状ではNintendoDSによる一本柱になっており、また 北米では長年独占的だった携帯ゲーム機のシェアをPSPに確実に奪われています。 任天堂は据え置き機でも存在感を示すため強い危機感を持ってWiiを発売してくるでしょう。

 Wiiの基本戦略は今までの任天堂の戦略と同じで「軽薄短小」路線でしょう。 軽薄短小路線を簡単に説明すると、 簡単に始められ、すぐに終わらせることができ、誰にでもできるゲームソフトを増やすことで ユーザーが一つのゲームソフトで遊ぶ間隔を短くし 代わりに沢山のゲームを楽しんでもらう。 それによってゲームソフトの売り上げを向上させる戦略です。 これは重厚長大的なゲームによって一部の大作ゲームしか売れない状況になりつつあった ゲーム市場を考えての戦略だったと思われます。

 しかし、この軽薄短小路線はGameCubeの現状を見ると失敗したといえます。 失敗した原因は色々とあると思いますが決定的だったのが下記の2点でしょう。
  • ゲームユーザーのお財布には限度がある。
  • 軽薄短小のゲームソフトがそれほど増えなかった。
 当然のことですが、ゲームユーザーがゲームソフト購入に使えるお金には限度があります。 この限度によって、ゲームユーザーがもし6800円のゲームソフトを購入する場合、 2週間遊べるゲームより2ヶ月間遊べるゲームを選ぶ人が多いわけです。 これは明らかに軽薄短小路線が受け入れられていません。
また、軽薄短小とはいえゲーム開発にはそれなりの時間がかかります。 2週間で終わるゲームソフトを発売したのはいいけど、 次に遊ぶゲームソフトの供給が間に合ってないということも多々ありました。


●「軽薄短小」+「低価格低コスト」がWiiの戦略

 上記の失敗の原因をクリアして成功したのがNintendoDSです。 NintendoDSの基本戦略も軽薄短小ですが、 NintendoDSでは「軽薄短小」にプラスして「低価格低コスト」路線を取り入れまたした。 これがNintendoDS成功の鍵でしょう。

 NintendoDSで発売され非常に売れているゲームソフト「脳を鍛える大人 のDSトレーニング」は定価2800円です。 また、このゲームソフトは開発費用もあまりかかっていないと言われています。 「低価格」のためゲームユーザーがお財布を気にせずにゲームソフトを購入でき、 「低コスト」のためゲームソフトの供給が増えている。 非常に良いサイクルができあがっています。

 任天堂はWiiのソフト・ハードともに価格を下げてくるでしょう。 「ゲーム機ニーズの低下」を低価格低コスト化によって立ち向かおうとしています。 Wiiによってソフトメーカーとゲームユーザーが得るメリットは何でしょうか?
  • ソフトメーカー・・・ゲームソフト開発のコスト低下。
  • ゲームユーザー・・・ゲームソフト・ハードの価格低下。
になるかもしれません。
もちろん、Sonyの戦略と同じくこれらは完璧ではありませんし成功するか解りません。 例えば、今ある多くのオンラインゲームは軽薄短小ではなく重厚長大です。 「オンライン対応」をWiiはどうすのか? また、北米市場の攻略をどするのかも現在のところ見えてきません。 北米市場は今ではもっと重要な市場であり、ソフトメーカーとしても無視することができないでしょう。



■最後に

結局どっちが勝つんだよ? って思われる方もいるかもしれませんが、
正直私にはわかりません(*´∇`*)
まぁそれが解ればアナリストも投資家もソフトメーカーもゲームユーザーも苦労しませんよねぇー。
ただ、
今まで衰退していた携帯ゲーム機市場が最近になって発展しています。 これはNintendoDSだけの功績ではなくPSPとの競争による功績です。 一方、競争の無くなった据え置き機の市場は衰退しています。
PlayStationの時代に据え置き機の市場が非常に発展したのは、セガや任天堂が強力なライバルとして存在していたからです。 ゲーム業界が盛り上がるのには絶対に競争が必要です。
PS3とWiiそしてXBOXが良い競争をしてゲーム業界が活性化することを期待します。
ゲームファン同士の競争?ネガティブ・キャンペーンによってゲーム業界衰退という未来はいらないでしょ。