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決して安全とは言えない線路の上を、この世界有数の鉄道が走る。星が輝く空を背に走る姿は、なかなか様になっている様だ。 海岸線を走る列車は、時々向こうからの列車とすれ違いながら、目的地に向かい進み続ける。 「……すみません、乗車券を確認させていただきます」 船を漕いでいたラムリエの女性は、落ち着いた様子で乗車券を取りだし、車掌に渡した。 車掌離れた手付きでそれを取り、二、三秒見てすぐに返した。 「それでは、引き続き列車の旅を」 そう言うと、車掌は次の部屋に向かった。 ちょうど一番眠たかった時が過ぎた女性は、窓に身を寄せる。水平線に、星が沈むようにして光っているのを見て、何か幸せになる。 ふと、何時か知りたくなった女性は立ち上がった。あいにく今日は時計を持ち合わせていなかったのだ。 女性は自分の個室を出て、狭い通路を進む。二つほどドアを開けたところで、彼女は列車内に作られた小さなバーに着いた。 彼女は黒のジーンズに黒いTシャツ、その上から白いYシャツで、どれも無地。右手首に、銀色のブレスレットをしている。 眼は青で髪はウェーブのかかった青、更に言うならまつげが長い。 そんな彼女が、空いているカウンターに腰掛けた。すぐさま初老のマスターが寄ってくる。 「マスター、今何時か分かる?」 マスターは、自分の腕時計を見ながら、「ちょうど日が変わった頃です」と言った。 さて、何を頼もう?別に飲みに来たわけではないのだが、せっかく明日から仕事なので、とりあえず、 「ウイスキーを水割りで」と言った。 ろうそくの炎に照らされたウイスキー何か悲しい出来事を思い出させるなどと思いつつ、口に運ぶ。 そんな曇った顔をしていた、少しの間を、マスターは見逃さなかった。 「どうかしましたか?」 他に客はなく、少々暇をもてあそんでいたマスターは、優しく声をかける。 「いえ、何でもないです。……この列車がジアスに着いたら、わたしの休日も終わるんだな、って思ったんですよ」 彼女はそう言いながら、もう一度ウイスキーを口に運ぶ。 「ジアスでは、どの様な仕事をなさるんですか?」 マスターは、優しい口調で、女性に聞く。その微妙なニュアンスは、人と話し込んできた、この人ならではと、彼女は思った。 「技術者ですから、また新しい飛行船の開発になりますね」 「そんな人が、何故鉄道を?」 マスターは、今度は少し皮肉った言い方をする。それでも、優しい感じは変わらない。 「安いからです」 二人は笑う そしてしばしの沈黙 「やっぱり、イスライアの技術者とかですか?」 口を開いたマスターが、いきなり突拍子もないことを聞く。 「はい、今まではイスライアで居たんですが、わたしには現場の方が似合うようで……」 そう言いながら、くるくると飲み干したグラスを回す。カランカランと、中の氷がぶつかる様にして回る。 「アカデミー出身で?」 「はい、そうですね。って言っても、まだ卒業して1年経ってませんよ」 彼女が少し笑う。それを見て、マスターも少し笑う。 少しの静寂 「……アカデミーに、リーファ・M・ルフランと言う少年が居るのを知っていますか?」 今までとは違う声で、マスターが聞いてくる。それに少々戸惑いながらも、彼女は答える。 「いえ、知りません。けど、あの有名な考古学者のルフラン教授の息子さんですよね」 「ほう、さすがにそこまでは知っていますか」 何やら意味深な事を言う。そのことには触れずに、彼女は氷が溶けるまでグラスを見つめていた。 彼女に、また睡魔が襲ってくる。彼女は金をカウンターに置き、席を立った。 「それじゃ、マスター」 「はい、おやすみなさい」 名前ぐらい聞いても良かったかな、と思いつつ、マスターはグラスを取り、洗い出した。 「はあ、着いた……」 旅行鞄に半分もたれながら、彼女は呟いた。 はっきり言って、彼女は暑さが苦手である。彼女のうなだれた尻尾が、それを物語っていた。 イスライアでは感じることが出来ない、独特の活気とくすんだ空が、そこには在った。 何はともあれ、暑さで倒れる前に、迎えに来てくれているというチェックスを探すことにした。 「運良く見つかってくれればいいんだけどねえ」なんて言っても、見つかる分けないのが常である。 案の定、全然見つからないまま時間が過ぎ、いい加減彼女も体力が持たなかった。(暑いのが苦手、と言うだけだが) そのため、彼女は誘惑と本能に負け、酒場にふらふらと入っていった。 彼女は決して酒に弱くない。それどころか、友人からは酒豪と呼ばれるほど(言い過ぎ)の酒好きである。 「親父さん、大ビール一つ」 酒場のカウンターに腰掛け、さも常連のように注文する。酒場のマスターはドワーフで、ずっと蓄えられた髭とハゲかかった頭が印象的な、四十代前半の親父だった。 「お姉ちゃん、朝っぱらからは止め時なよ」 今はお昼だよと思いながら、彼女はもう一度注文を繰り返す。 「………ホントに良いの?」 「いいの、喉が渇いたときには、あのポップが堪らないのよ!」 そこまで言われると親父も引き下がれないので、大ジョッキに冷えたビールを入れる。もちろん泡たっぷりで。 「はいよ、お姉ちゃん」 彼女は受け取るとすぐにぐぐ〜〜〜っと飲み始めた。耳と尻尾が、首の動きに合わさる。 尻尾がだらーっとなったところで、やっと口を外す。大ジョッキの中は、もうほんの少しの泡しか残っていなかった。 「……お姉ちゃん、いい飲みっぷりじゃねえか。何処から来たんだ?」 渇きが癒され頭がすっきりしたところで、彼女は口を開いた。 「エスタリオの首都のイスライア。わたし、こう見えても技術者なのよ」 「へえ、俺はてっきり、何処かのシーフか旅人かと思ったぜ」 「盗賊って、ひどいわね、結構」 「違いねえ」 がははっと笑う親父につられ、彼女も笑う。昨夜とは違う、少しの静けさもない楽しい瞬間。 「もう一杯どうだ?」 「タダならね」 再び笑い声 周りの客は変な目で見ているが、そこは触れないでおこう。ちなみに客のほとんどはドワーフで、少しホビットやエルフも混じっていたかもしれない。 それから、彼女はもう一回大ビールを飲み干し、更に上機嫌になった。……笑い上戸だったのかもしれない。 「おっさん、ビールくれ」 上機嫌な彼女の隣で、イグナーダ(犬の尻尾と耳を持った、やや好戦的な性格の種族)の青年が座った。 「おう、分かった」 親父はその青年にも大ビールを渡し、青年はそれを彼女より負けず劣らずの速さで飲み干した。 (最悪のタイミングで来たな)ここに見合わせた客、及び親父はそう思った。 「ちょっと、いきなり出てきて宣戦布告?」 「あ?勝手に思っとけよ、猫娘」 「誰が猫よ、犬!」 「犬〜!?そこまで言うなら、勝負してやろうじゃないか」 「望む所ね」 余談だが、ラムリエとイグダーナは仲が悪い。文字通り犬猿の仲である。(猿ではないが) 親父は何も言わず、二人の前に大ビールを置いた。そして、どこからともなくゴングが鳴り出した。 どうやら、勝負はどちらかが倒れるまで続くようだ。そこに見合わせた客は賭をし始め、また新たな客を呼び寄せたりした。(親父は結果的に、二人のおかげで儲かっただろう) 二人の前には、ひっきりなしにビールが置かれていく。青年の方が、僅かに早い速度で手と喉が動く。 そのうち、酒場の前には『犬社長対旅の猫娘、酒飲み勝負!』と書かれた看板が立っていた。 さて観客の見守る中、否観客の期待が高まる中、二人のペースが徐々に落ちてきた。 「おお?二人ともそろそろか?」 親父の声が聞こえたのかどうか分からないが、二人は一瞬睨み合ってから、再びジョッキに口を付けた。 と思ったら、観客の波を押しつけて、……あの派手な外見のチェックスが二人に向かって進んできた。 「しゃちょう、社長!」 青年に向かって、チェックスは出来るだけ大きな声で話しかけた。しかし、そんなことはお構いなしに飲み続ける。 (あ、キレた……)やりとりを見ていた客、及び親父とごろつきと野次馬は、そろってそう思った。 ガキン! チェックスの、怒りがこもった満身のパンチを頭に受け、青年は煙を出し倒れた。 「すんませんな、お嬢ちゃん。この社長、どうもラムリエが嫌いみたいで……」 彼女は手を止め、しばらく周りを見渡した後事情が分かった。 「ほら、起きいや、リックスター・ヘヴンズの名折れやで!」 リックスター・ヘヴンズ…… ああ、彼女はいずれ思い出さなければいけないことを思い出した。 彼女は技術者である。本当は迎えが来て『リックスター・ヘヴンズ社』に行くことになっていたのだ。 「あの、わたしティクスって言うんですけど」 「……へ?それじゃ、あんたが新しく来るって言った、ティクス=ライクス?」 彼女は頷く。チェックスはしばらくうなだれていたが、やがて言った。 「とりあえず、社長連れて行くの手伝って……」 その言葉は、とても疲れていた声だった。 ティクス、彼女の話は、多分一向に終わらないだろう。せっかちな社長秘書と、馬鹿な社長が居る限り。
CROSS×CROSS〜ラムリエ ヒストリー〜
原作・柊らみこ はは、書いちゃいましたな(爆) それでは、この話についての雑談を。 舞台は、前半は列車、後半は酒場(笑)になりました。 はじめは、ちゃんと会社に行って、社長に会うと言うことにしたんですが、何故か煮詰まってしまい(爆) 結局今のようになったのですな〜 それと、一応社長秘書にも名前はあります〜 リグです。名前の由来はひらめきで(爆) しかし、他人の話を書くのは面白い、いや本当に(苦笑)。(作者様より) |