† CROSS×CROSS外伝2 †

決して安全とは言えない線路の上を、この世界有数の鉄道が走る。星が輝く空を背に走る姿は、なかなか様になっている様だ。
海岸線を走る列車は、時々向こうからの列車とすれ違いながら、目的地に向かい進み続ける。
「……すみません、乗車券を確認させていただきます」
船を漕いでいたラムリエの女性は、落ち着いた様子で乗車券を取りだし、車掌に渡した。
車掌離れた手付きでそれを取り、二、三秒見てすぐに返した。
「それでは、引き続き列車の旅を」
そう言うと、車掌は次の部屋に向かった。
ちょうど一番眠たかった時が過ぎた女性は、窓に身を寄せる。水平線に、星が沈むようにして光っているのを見て、何か幸せになる。
ふと、何時か知りたくなった女性は立ち上がった。あいにく今日は時計を持ち合わせていなかったのだ。
女性は自分の個室を出て、狭い通路を進む。二つほどドアを開けたところで、彼女は列車内に作られた小さなバーに着いた。
彼女は黒のジーンズに黒いTシャツ、その上から白いYシャツで、どれも無地。右手首に、銀色のブレスレットをしている。
眼は青で髪はウェーブのかかった青、更に言うならまつげが長い。
そんな彼女が、空いているカウンターに腰掛けた。すぐさま初老のマスターが寄ってくる。
「マスター、今何時か分かる?」
マスターは、自分の腕時計を見ながら、「ちょうど日が変わった頃です」と言った。
さて、何を頼もう?別に飲みに来たわけではないのだが、せっかく明日から仕事なので、とりあえず、
「ウイスキーを水割りで」と言った。
ろうそくの炎に照らされたウイスキー何か悲しい出来事を思い出させるなどと思いつつ、口に運ぶ。
そんな曇った顔をしていた、少しの間を、マスターは見逃さなかった。
「どうかしましたか?」
他に客はなく、少々暇をもてあそんでいたマスターは、優しく声をかける。
「いえ、何でもないです。……この列車がジアスに着いたら、わたしの休日も終わるんだな、って思ったんですよ」
彼女はそう言いながら、もう一度ウイスキーを口に運ぶ。
「ジアスでは、どの様な仕事をなさるんですか?」
マスターは、優しい口調で、女性に聞く。その微妙なニュアンスは、人と話し込んできた、この人ならではと、彼女は思った。
「技術者ですから、また新しい飛行船の開発になりますね」
「そんな人が、何故鉄道を?」
マスターは、今度は少し皮肉った言い方をする。それでも、優しい感じは変わらない。
「安いからです」
二人は笑う
そしてしばしの沈黙
「やっぱり、イスライアの技術者とかですか?」
口を開いたマスターが、いきなり突拍子もないことを聞く。
「はい、今まではイスライアで居たんですが、わたしには現場の方が似合うようで……」
そう言いながら、くるくると飲み干したグラスを回す。カランカランと、中の氷がぶつかる様にして回る。
「アカデミー出身で?」
「はい、そうですね。って言っても、まだ卒業して1年経ってませんよ」
彼女が少し笑う。それを見て、マスターも少し笑う。
少しの静寂
「……アカデミーに、リーファ・M・ルフランと言う少年が居るのを知っていますか?」
今までとは違う声で、マスターが聞いてくる。それに少々戸惑いながらも、彼女は答える。
「いえ、知りません。けど、あの有名な考古学者のルフラン教授の息子さんですよね」
「ほう、さすがにそこまでは知っていますか」
何やら意味深な事を言う。そのことには触れずに、彼女は氷が溶けるまでグラスを見つめていた。
彼女に、また睡魔が襲ってくる。彼女は金をカウンターに置き、席を立った。
「それじゃ、マスター」
「はい、おやすみなさい」
名前ぐらい聞いても良かったかな、と思いつつ、マスターはグラスを取り、洗い出した。

「はあ、着いた……」
旅行鞄に半分もたれながら、彼女は呟いた。
はっきり言って、彼女は暑さが苦手である。彼女のうなだれた尻尾が、それを物語っていた。
イスライアでは感じることが出来ない、独特の活気とくすんだ空が、そこには在った。
何はともあれ、暑さで倒れる前に、迎えに来てくれているというチェックスを探すことにした。
「運良く見つかってくれればいいんだけどねえ」なんて言っても、見つかる分けないのが常である。
案の定、全然見つからないまま時間が過ぎ、いい加減彼女も体力が持たなかった。(暑いのが苦手、と言うだけだが)
そのため、彼女は誘惑と本能に負け、酒場にふらふらと入っていった。
彼女は決して酒に弱くない。それどころか、友人からは酒豪と呼ばれるほど(言い過ぎ)の酒好きである。
「親父さん、大ビール一つ」 酒場のカウンターに腰掛け、さも常連のように注文する。酒場のマスターはドワーフで、ずっと蓄えられた髭とハゲかかった頭が印象的な、四十代前半の親父だった。
「お姉ちゃん、朝っぱらからは止め時なよ」
今はお昼だよと思いながら、彼女はもう一度注文を繰り返す。
「………ホントに良いの?」
「いいの、喉が渇いたときには、あのポップが堪らないのよ!」
そこまで言われると親父も引き下がれないので、大ジョッキに冷えたビールを入れる。もちろん泡たっぷりで。
「はいよ、お姉ちゃん」
彼女は受け取るとすぐにぐぐ〜〜〜っと飲み始めた。耳と尻尾が、首の動きに合わさる。
尻尾がだらーっとなったところで、やっと口を外す。大ジョッキの中は、もうほんの少しの泡しか残っていなかった。
「……お姉ちゃん、いい飲みっぷりじゃねえか。何処から来たんだ?」
渇きが癒され頭がすっきりしたところで、彼女は口を開いた。
「エスタリオの首都のイスライア。わたし、こう見えても技術者なのよ」
「へえ、俺はてっきり、何処かのシーフか旅人かと思ったぜ」
「盗賊って、ひどいわね、結構」
「違いねえ」
がははっと笑う親父につられ、彼女も笑う。昨夜とは違う、少しの静けさもない楽しい瞬間。
「もう一杯どうだ?」
「タダならね」
再び笑い声
周りの客は変な目で見ているが、そこは触れないでおこう。ちなみに客のほとんどはドワーフで、少しホビットやエルフも混じっていたかもしれない。
それから、彼女はもう一回大ビールを飲み干し、更に上機嫌になった。……笑い上戸だったのかもしれない。
「おっさん、ビールくれ」
上機嫌な彼女の隣で、イグナーダ(犬の尻尾と耳を持った、やや好戦的な性格の種族)の青年が座った。
「おう、分かった」
親父はその青年にも大ビールを渡し、青年はそれを彼女より負けず劣らずの速さで飲み干した。
(最悪のタイミングで来たな)ここに見合わせた客、及び親父はそう思った。
「ちょっと、いきなり出てきて宣戦布告?」
「あ?勝手に思っとけよ、猫娘」
「誰が猫よ、犬!」
「犬〜!?そこまで言うなら、勝負してやろうじゃないか」
「望む所ね」
余談だが、ラムリエとイグダーナは仲が悪い。文字通り犬猿の仲である。(猿ではないが)
親父は何も言わず、二人の前に大ビールを置いた。そして、どこからともなくゴングが鳴り出した。
どうやら、勝負はどちらかが倒れるまで続くようだ。そこに見合わせた客は賭をし始め、また新たな客を呼び寄せたりした。(親父は結果的に、二人のおかげで儲かっただろう)
二人の前には、ひっきりなしにビールが置かれていく。青年の方が、僅かに早い速度で手と喉が動く。
そのうち、酒場の前には『犬社長対旅の猫娘、酒飲み勝負!』と書かれた看板が立っていた。
さて観客の見守る中、否観客の期待が高まる中、二人のペースが徐々に落ちてきた。
「おお?二人ともそろそろか?」
親父の声が聞こえたのかどうか分からないが、二人は一瞬睨み合ってから、再びジョッキに口を付けた。
と思ったら、観客の波を押しつけて、……あの派手な外見のチェックスが二人に向かって進んできた。
「しゃちょう、社長!」
青年に向かって、チェックスは出来るだけ大きな声で話しかけた。しかし、そんなことはお構いなしに飲み続ける。
(あ、キレた……)やりとりを見ていた客、及び親父とごろつきと野次馬は、そろってそう思った。
ガキン!
チェックスの、怒りがこもった満身のパンチを頭に受け、青年は煙を出し倒れた。
「すんませんな、お嬢ちゃん。この社長、どうもラムリエが嫌いみたいで……」
彼女は手を止め、しばらく周りを見渡した後事情が分かった。
「ほら、起きいや、リックスター・ヘヴンズの名折れやで!」
リックスター・ヘヴンズ……
ああ、彼女はいずれ思い出さなければいけないことを思い出した。
彼女は技術者である。本当は迎えが来て『リックスター・ヘヴンズ社』に行くことになっていたのだ。
「あの、わたしティクスって言うんですけど」
「……へ?それじゃ、あんたが新しく来るって言った、ティクス=ライクス?」
彼女は頷く。チェックスはしばらくうなだれていたが、やがて言った。
「とりあえず、社長連れて行くの手伝って……」
その言葉は、とても疲れていた声だった。

ティクス、彼女の話は、多分一向に終わらないだろう。せっかちな社長秘書と、馬鹿な社長が居る限り。

                  CROSS×CROSS〜ラムリエ ヒストリー〜
               原作・柊らみこ

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はは、書いちゃいましたな(爆)
それでは、この話についての雑談を。
舞台は、前半は列車、後半は酒場(笑)になりました。
はじめは、ちゃんと会社に行って、社長に会うと言うことにしたんですが、何故か煮詰まってしまい(爆)
結局今のようになったのですな〜
それと、一応社長秘書にも名前はあります〜
リグです。名前の由来はひらめきで(爆)
しかし、他人の話を書くのは面白い、いや本当に(苦笑)。(作者様より)