† 戦争の思いで〜遠い日の記憶〜 †

どこからともなく悲鳴が響き渡り、人が鮮血を出し倒れていく。
矢と鉛の弾が飛び交う中、勇猛な戦士達は戦場を駆け抜ける。
同士達の屍を踏み越えながら、それでも進まなければならない。
遠い、しかし決して忘れてはならない記憶。

「サイアスはいるか?」
低く太い声が、汚れたテントの隅々まで渡る。
しましまの尻尾が印象的な、フーレン族の男だ。
「おい、サイアス、起きろ」
「・・・・・・」
サイアスは毛布にくるまれ、なかなか起きようとしない。
「飯、食わなくていいのか?」
「!」
戦場の楽しみと言えば食事ぐらいしかなく、傭兵のサイアスもそれを見逃すことはしなかった。
「早く来いよ」
フーレン族の男はそういうと、一足早く食事に向かった。
サイアスも雪駄を履き、食事に向かった。

「なんだ、サイアス。今日もお前が最後か?」
同士達は、もう皆食べ始めている所だった。
食事をすると言っても、大きいテントを張り、そこら辺にある箱や何かで作った椅子とテーブルでという簡素な物だった。
「早く食えよ」
そういったのは、先程のフーレン族の男だった。
「ああ、分かったよ、族長」
族長と呼ばれた男は、皿に盛られた食事を、あっさりと食べ終えた。
サイアスも、空いている席に着き、食べ始めた。
「相変わらず早いな、族長」
「まあな、フーレン族の男は強くなければならんからな」
「そういえば、子供がいるそうだが?」
「ああ、クレイだ。あいつも強くなったろうな。おまえは?」
「俺か?俺は傭兵だからな、家族はいない」
族長が話を続けようとしたところ、急に鐘が鳴り出した。
「敵襲だー!」
監視係りが大声で叫ぶ。
「行くぞ、サイアス!」
「ああ」
サイアスは、まだちゃんと覚めていない頭を叩きながら、戦場に足を向けた。

「敵の数は?」
サイアスは静かに族長に聞く。
「敵は2000、こっちは1800らしい」
「わずかに不利、か・・・」
サイアスは、思慮深そうにつぶやいた。
「まあ、俺達が200潰せばいいって事よ」
族長は、サイアスの肩をばんばんと叩きながら言った。
「弓兵、うてーい!」
中隊長の合図で、いくつもの矢が解き放たれた。
それと同時に、一斉に戦士達は、戦場の真ん中へと身を投げ出していった。
サイアスと族長は、見事な連携で、次々と敵を撃破していく。
「なあ、サイアス、おかしくはないか?」
「何が」
「敵の数が全然減らねえのに、見方がどんどん少なくなっていきやがる」
「そういえば・・・」
サイアスは一瞬考え事をしたせいで、敵の攻撃をまともに喰らってしまった。
「く・・・!」
サイアスの脇腹に槍が刺さり、そこから赤黒い血がぽたぽたと流れ落ちる。
「大丈夫か!」
「くそ、隙を見せてしまった・・・」
サイアスは槍を引き抜くと、患部をサラシで押さえつけた。
「すぐに診てもらったほうがいい」
「いや、いい。この程度なら、まだ保つ」
そういうとサイアスは、歯茎を出してにいっと笑った。
「そうか、無理はすんなよ」
「分かってる・・・」
そういうと、二人はまた敵を蹴散らしていった。

「族長、あいつは、隊長じゃないか?」
サイアスの目線の先には、黒い馬に乗った、初老の老人が戦っていた。
「あいつは、フォウ帝国のルーン将軍じゃないか」
『将軍が直接戦場に来るのか・・・。こっちとは偉い違いだな』
「あいつと戦ってみたくなってきた!」
そういうと、族長は将軍めがけて突撃した。
「我はフーレン族の族長。ルーン将軍、お相手願う!」
「望むところだ、フーレンの長!」
フーレン族は代々丸太のような棒を用いて戦うことが多く、族長もまた例外ではない。
サイアスも、敵を蹴散らしながら二人の元へと行く。
しかし、血が止まる気配はなく、だんだんと意識が薄れてきた。
「族長!」
サイアスが二人の元にたどり着いたとき、勝負は決まっていた。
「勝負あったな、フーレンの長・・・」
族長の額に、白銀に光る剣が突き刺さっていた。
族長は、すでに事切れていた。体中傷だらけになり、民族衣装が赤く染まっていた。
「貴様・・・・・・!」
サイアスは将軍をにらみつけた。
「なんだ、お前のような若僧と相手をしろというのか?」
「ゆるさんぞ、将軍!」
サイアスは地面を蹴った。
その瞬間、将軍の前から消えた。
「どこに行っても無駄だ、小僧」
そしてすぐに、将軍の目の前に現れた。
「必殺、斬光剣!!」
サイアスの居合い切りは、将軍の隙をつき、腹を切った。
「ぐは!やるな、小僧・・・」
将軍は馬の上に倒れた。そのまま馬に連れられ、西へ消えた。
すると、回りの敵は皆、指導者を無くなったせいで、一気に劣勢になった。
サイアスは戦いが終わるまで、ずっと族長の体を守り続けた。
「人は、なんておろかだ・・・」