社会福祉法人

令和05年02月18日(土)

 一方、介護保険が誰にでも起きうる生活上の困難をカバーする公的社会保障として広く四十歳以上の国民から保険料を徴収する以上、不平等のないように、全国どこででも介護サービスを受けられる体制を整える必要がありました。介護報酬が介護サービス費として利用者個人に支払われることになった以上、事業者には公金を支出する団体としての制限はありません。そこで手始めに、在宅の高齢者に対して介護サービスを提供する事業者は、法人格を有していれば、社会福祉法人でなくても構わないということになると、ここに困った不平等が現出しました。営利会社やNPO法人が、例えばデイサービス事業に参入した場合、収益は法人税の対象になるのに対して、社会福祉法人が実施した場合は無税なのです。加えて、人権に配慮するという建前で、介護保険で入所サービスを提供できるのは社会福祉法人に限定されていましたが、同じ介護保険料を負担しながら、有料老人ホームに入居して介護を受けた場合には介護保険が適用にならないという不平等が生じました。これを解消するために特別養護老人ホーム並みの介護の提供体制を整えた場合は、特定生活介護サービスとして介護保険を適用する道を開きましたが、そうすると入所介護についても社会福祉法人とそれ以外の事業者との間で課税上の不平等が浮上するのです。

 課税上の不平等と文字で書けばわずか七文字ですが、特別養護老人ホームが介護保険の適用を受けて、百人規模の利用者に施設介護サービスを提供している場合を想定してみましょう。要介護度三以上が入所の対象ですから、平均の介護報酬を月額二十五万円と想定すれば、部屋代や食事代を加えて、施設は入所者一人当たり三十四万円の収入になり、百人分で約一千万円。その十二か月分ですから、一億二千万円余りの収入になります。人件費や経費に八割を必要とすると、残り二割の二千四百万円ほどが一年の収益になり、三割を法人税と考えれば、免税であることによって七百二十万円程度を免れているのです。毎年七百二十万円は小さくない金額です。

 当事者に行為能力のない児童を対象とする施設については従来通り行政が決定し、従って施設は社会福祉法人に限定されて公金が直接支払われていますが、障害者に対する福祉サービスについては、社会保険方式ではないにもかかわらず、大胆にも介護保険同様に、利用者本人にサービス費を支給し、事業者に代理受領させる方式に変更されました。さすがに障害分野には有料老人ホームのように営利法人が運営する入所施設の存在は聞きませんが、在宅のサービス部門についてはNPO法人などが大量に参入しました。ここでも社会福祉法人とそれ以外の法人との間で税の扱いについて不平等が生じているのです。

 さて、そこで地域貢献が登場します。

 対等な立場で競争できるよう条件を同じにすることをイコールフィッティングと言いますが、高齢者への介護保険サービスや障害者支援サービスを提供している事業者から、社会福祉法人と対等ではないという意味で、イコールフィッティングを要求する声が上がり始めました。国は税収が増えることは歓迎ですが、社会福祉法人を廃止する訳にもいきません。冒頭の『社会福祉充実計画』は、公金支出の受け皿としての存在意義が希薄になった分、本来の業務を超えた地域貢献の拠点となり、社会的認知を受けることを新たな存続意義にしたらどうだろうという提案だと思います。優遇されている税金の範囲内で効果的な地域貢献を行ってください。要求に応えなければ、直接支払われた公金以外の収入については課税の対象にする可能性がありますよという警告が行間に読み取れます。まずは社会福祉法人が末端の職員に至るまで危機を認識しなければなりません。その上で、困った事態になったと受け止めるのではなく、地域貢献の拠点となることに魅力を感じなくてはなりません。法人内部に地域貢献部門を設け、年間予算を明示し、社会的認知につながるような知恵を集めて実行しなければなりません。さらに広域に複数の社会福祉法人が連携して取り組むこともできるでしょう。資金を出し合って、地域貢献を目的とするNPO法人を維持することも可能でしょう。人と資金がセットにならなければ発展的な地域貢献はできません。利用者に、より良いサービスを提供することが我々の地域貢献だよね、という意識では、直面する危機を乗り越えることはできないのです。

 さらに勘ぐれば、地域貢献が社会福祉法人の自主性に任されて、強制されない現状にも国の意図を感じます。つまり、必要性を説明して地域貢献を促したのに、長期に渡って応える態度が見られなかった法人については、他の法人との不平等是正の観点から、措置費以外の収益については課税しましょうという計画が一定の期間を区切って密かに進行しているのではないでしょうか。課税の条件は既に整っているのです。

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