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特派員報告7
JHO・DAIGIN
平成24年01月20日(金)
この国の民族衣装である、いわゆる和服は、時代劇の舞台を除けば、お祭りか盆踊りでしか見かけなくなりましたが、今日は珍しく複数の女性が町のあちこちで和服を着て歩いていました。理由を聞くと成人式に出席する新成人の大学生たちでした。フリソデといって、肘から下の袖の部分が地面近くまで垂れ下がったあでやかな模様の晴れ着で、全員が毛足の長い生地でできた肩まで隠れる純白のショールをまとっています。
「普段は見かけませんが、やはり日本人は着物を持っているのですね?」
という私の質問に、
「やだあ、貸衣装に決まってるじゃん!」
女性たちは弾けるように笑いました。
着物のレンタル料はバッグや草履などの小物のついたフルセットで平均が六万円から八万円。ショールが別に三千円。ヘアメイクと着付けに七千円ほど必要とのことですから、写真撮影を含めれば、わずか一日を着飾るための費用は十万円では足が出るのではないでしょうか。
「そんなにかかるんじゃ、大学生には負担ですね」
と同情すると、
「もちろん親が出しま〜す!」
「おやおや、なんてね、寒む!」
和服よりイブニングドレス向きのけばけばしいメイクをした新成人たちは、互いに顔を見合わせてまた笑いました。
その日は、どの局のニュースも各地の成人式を取り上げていましたが、厳粛な式典に出席した新成人の二十歳の抱負をインタビューしたかと思うと、必ず荒れた式典の様子が映し出されました。
来賓挨拶などそっちのけで缶ビールで乾杯したり、紋付ハカマの男が一升瓶をぶらさげてステージに上がって警備員に排除されたり、式場の外で乱痴気騒ぎをした数人のグループが警察官に連行されたりと、それはもう目を背けたくなる光景です。ところが逮捕された新成人には、成人式に反対する特別な政治的主張がある訳でもなく、
「目立ちたかっただけっス」
と悪びれた様子はありません。ニュースを見た一般市民は、
「あんなのが成人になるんでは、この国も終わりですね…」
と眉をひそめます。ということは、テレビは、大変特殊な成人式の様子を電波に乗せることによって、むやみに目立ちたがるほんの一部の若者の欲求を満たし、国家に対する一般市民の希望を著しく損なう結果を招いていることになります。報道の自由と影響の重さを量り損ねたマスメディアの罪は決して軽くはないように思います。
それにしても日本の成人式は、私の知っているアメリカのそれとはずいぶん違いますね。アメリカでは選挙権の与えられる十八歳で成人式を行いますから、高校三年生の終わりにフォーマルな晩餐会とダンスパーティで、大人になった喜びと責任を確認し合います。会場は学校ですし、飲酒が許されるのは二十一歳ですから、当然アルコールとは無縁です。そして大人になった何よりの証として、卒業と同時に両親との同居には終止符が打たれます。就職して自活するか、自分の力で大学に進学するか、いずれにせよ単独で自立した大人の生活をスタートさせるのです。
晴れ着のレンタル料金を、もちろん親が出しま〜す!と明るく言い放つフリソデの新成人も、ステージで祝辞を述べる来賓の周りを、一升瓶をラッパ飲みしながらうろうろしていた紋付ハカマの新成人も、非常に深刻なこの国の病理を象徴しているように思えてなりません。
終