わか捨て山
作成時期不明
「年寄りなどは生かしておいても何の役にも立ちはしない」
若い王様は言いました。
「そこでわが国にも姥捨て山を設けることにしようと思うのだ」
「姥捨て山?」
年取った大臣は目をぱちくりさせました。
王様の気まぐれにはいつも泣かされています。それがきまってとっぴょうしもない思いつきばかりなのです。
「恐れながら王様」
「?」
「姥捨て山も結構でございますが、国の政治を行うものは何事もよくよく考えてから実行に移さねばなりません」
「何が言いたいのだ」
「家臣の意見も聞かずに急いでことを起こせば、いつかのかくれんぼ騒ぎのようになりかねないということです」
「大臣、それを言うな。もう随分と昔のことではないか。あの頃はわたしもまだほんの子供であった。かくれんぼが好きであったのだ」
「いくらお好きでも、年に一度、国を上げてのかくれんぼ大会を行うなど王様のなさることとも思えません。第一あの時は、オニを決めるジャンケンをするだけでもたっぷりと三ヶ月はかかりましたぞ」
「反省している」
「いいえ、反省などはしてはいらしゃいません。王様が次になさったことを覚えていらっしゃいますか?」
「私は忙しいのだ。いちいち覚えていては体がもたぬ」
「それが反省などしていらっしゃらぬ証拠です。ご自分がご命令なさって失敗されたことは特に覚えておいて、二度と繰り返さぬようにするのが王の心得でございます」
「だから何だと申すのだ」
「ヒゲ禁止令のことでございます」
「ああ、そう言えばあれも大変な騒ぎであったな」
「ああ、そう言えばではございません。ご自分がお若くてヒゲが生えないからといって、国中のヒゲを禁止するなど国の政治には何の関係もございません」
「それもこれも済んだことだ」
「いいえ今日は言わせていただきます。人間のヒゲを禁止するだけならともかく、ネコのヒゲまで切らせるなどは非常識です。おかげで国中のネコはネズミを捕らなくなり、ネズミが増えて増えて…国民がどんなに困ってしまったか」
「わかった、わかった、もうよいぞ大臣」
「わかったわかったではございません。次に王様がなさったことといえば…」
「くどいぞ大臣!」
王様は怒って立ち上がりました。
「だから年寄りは嫌いだと言うのだ。済んだ事をいつまでもくどくどと繰り返す。そして年寄りのすることといえば、いつも若者の足を引っぱることだけだ。若者に失敗はつきものではないか。それを恐れていては新しいことは何ひとつできはせぬ。私が姥捨て山を思いついたのはそういう年寄りを社会から追放するためであるぞ!」
「しかし、しかし王様」
「ええい、さがれ!聞く耳持たぬ」
王様はそう言うと、さっさと自分の部屋に戻ってしまいました。