ふだん着のサンタクロース

作成時期不明

 ここは高い高い空の上です。

 サンタクロースはもうずっと昔から、この空の上で、真っ白な雲の畑を耕して暮らしていました。

 仲間といえばたった一頭のトナカイだけ…。でも淋しくはありません。だってサンタクロースとトナカイは、言葉は通じなくても心が通っています。何もしゃべらなくても、まるで人間同士のようにわかり合うことができるのです。それに、この空の下に住んでいるたくさんの子どもたちのことを考えると、淋しいどころか楽しくてなりません。今年のクリスマスにはいったいどの子に、どんなプレゼントを持って行ってあげましょう。いちにちの仕事を終えたサンタクロースは、夜になると、子どもたちの喜ぶ顔を想像しながら、たくさんのおもちゃや絵本に名札をつけることにしていました。

 一丁目のよし子ちゃんにはまつ毛の長いお人形。二丁目のまことくんには飛行機のプラモデル。それから横丁のかずよちゃんにはコアラのぬいぐるみがいいでしょう。あ、そうそう腕白坊主のひろしくんは、確かスケート靴を欲しがっていたはずです。

 こうして全てのプレゼントがようやく決まり終わる頃、町には冷たい木枯らしが吹き荒れて、寒い寒い冬がやって来たことを教えてくれるのです。


 さて、明日はいよいよクリスマスという日、サンタクロースは大忙しでした。

 まず、用意したプレゼントを一つ残らず大きな袋に詰め込まなくてはなりません。それが済むと、今度はタンスから一年ぶりに赤いビロードの衣装を取り出します。靴を磨き、手袋をして、そりを準備すれば、あとはトナカイの出番です。ところがどうしたというのでしょう。いつもなら、そりを見ると飛んで来て、早く出かけようとせがむはずのトナカイが、今日は姿を見せません。

「おおい、出かけるぞ!子どもたちが待っている」

「…」

「おおい、いったいどうしたんだ?」

「…」

 心配になったサンタクロースが見に行くと、トナカイはぐったりと横になって眠っていました。熱があるのでしょう。息づかいは荒く、鼻がかさかさに乾いています。

「どうしたんだ、いったい?」

 サンタクロースが額にさわると、うっすらと目を開けたトナカイの瞳がうるんでいました。

「風邪を引いたのか…」

 トナカイは悲しそうに頷きます。

 サンタクロースは困ってしまいました。

 つきっきりで看病してあげたいのですが、今夜はそれができません。町の子どもたちが楽しみに待っているのです。今夜のうちにプレゼントを届けなければ、明日の朝、目を覚ました子どもたちは、きっとひどくがっかりすることでしょう。

 サンタクロースは自分の着ていた赤いビロードの衣装をトナカイの背中にやさしくかけてあげながら言いました。

「そばについていてやりだいが、一晩だけしんぼうしておくれ。今夜、私は、一人でプレゼントを配りに行くよ。なあに、こんな袋の一つや二つ、そりがなくても大丈夫だ。それよりもお前は、何も考えずにぐっすり休むことだ。来年も、そのまた来年も、お前にはまだまだ頑張ってもらわなくてはならないからな…」

 こうしてサンタクロースは、大きな袋を肩に背負うと、起き上がろうとするトナカイを寝かせつけ、ふだん着の格好のままで雲の階段を町へ下りて行きました。