ハナモゲ族の滅亡
作成時期不明
ビュンビュンと音をたててたくさんのヤリが宙を舞ったかと思うと、濛々とたちこめる砂埃が収まった時にはもうそのヤリを手に、真っ黒に日焼けした兵士たちが一斉に前をにらみつけて身構えています。
「ええい、遅い遅い!そんなことでは首狩族から我がハナモゲ族を守ることはできぬぞ!それ、今度はさらに距離を伸ばすのだ!」
オオカミの牙をつないでこしらえた立派な首飾りを身に着けた、ひときわたくましい体つきの兵士がさっと手を上げると、
「ハオー!」「ハオー!」
という独特の叫び声と共に、再び無数のヤリが空中高く舞い上がるのでした。
その様子を、ちょうど広場を見下ろせる小高い場所に建てられた立派な小屋のバルコニーから酋長が目を細めて眺めています。
「みんな一段と腕を上げたようですな」
最近になって酋長の相談役として側近くに使えるようになった、ギロチンという名の片目の男がそう言うと、
「うむ、あの部隊は、若いがなかなか兵の統率がうまいようだ。また折りを見て名誉の首飾りを一つ与えねばなるまいの」
タカの羽根でできた豪華なかんむりを揺らしながら酋長が満足そうにうなずいた時、一人の若者が眉をつり上げて小屋の階段を駆け上りました。
「兄上!」
「おお、ポコペンではないか、どうしたのだ、険しい顔をして」
「どうしたではありません!」
ポコペンは肩を怒らせて言いました。
「兄上は私の忠告には耳を貸そうともせず、またしても兵士の数を増やしたというではありませんか!」
「またその話しか…」
酋長がうんざりした様子で顔を背けるのも構わず、ポコペンは話し続けます。
「いいですか兄上、我らが兵士を増やせば首狩り族も負けじと兵士を増やします。そんないたちごっこをしていて本当に平和が守れるとお思いですか!」
「何を言うポコペン、我らにこれだけの備えがあればこそ、さすがの首狩り族も手が出せぬのだ。少しでも手を抜けば最後、我がハナモゲ族の森や畑はまたたくまにやつらのものぞ」
「それは首狩り族とて同じ思い。彼らもやはり我々の侵略を恐れて武力をたくわえているのです。平和を願う気持ちに部族のへだたりはありません。だとすれば、この果てしなく続く武力競争の愚かさに気が付いた方から先に兵を解き、ヤリを捨てて、平和を宣言すべきではありませんか。我々に戦意がないことを知れば、首狩り族もまた安心して平和を誓うに違いありません」
「あまい、あまいぞポコペン!向こうが先に備えを解くならまだしも、我々から先にヤリを捨てるなぞ自殺行為に等しいわ!わしには酋長としてハナモゲ族の平和を守る責任がある。軽はずみなことはできぬわ!」
酋長は語気荒く言いました。
「な、ならばせめて一度、首狩り族の酋長と話し合い、互いの兵の数を半分に減らしてはいかがでしょう。このまま行けば兵を養う費用とてばかにはなりません」
「もうよい。それ以上聞きたくもないわ。下がれ下がれ!」
判で押したようないつもの議論から逃げるようにして小屋の中へ姿を消す酋長の背中に向かい、ポコペンは、
「しかし兄上、平和のためにヤリを磨くなぞ十才の子供にも解る矛盾ですぞ。それがお分かりになりませんか、兄上!兄上!」
まるで投げつけるように大声を張り上げましたが、その声は兵士たちの叫び声にかき消されて小屋の中には届きません。