−イラスト・くーぴさん-お話・史さん



歌うことが大好きな心の美しい娘がいました。
でも、病気のために歌うことはもちろん、
話す事もできなくなってしまいました。

娘は絶望しました。
毎日泣きました。
心を閉じたまま
森に入り込みました。
ただ歩き、さまよいました。

娘に
もう帰る気は・・・なかったのです。

力尽きた娘は
木の根元に座り込みました。

ふと、茂みを見ると
一頭の鹿が息も絶え絶えに倒れているではありませんか。

立派な鹿でしたが、腹にザックリと傷がありました。
開かれた目は大きく、濡れていました。
じっと娘をみつめました。

娘は祈りました
「神様、この美しい鹿を助けて下さい、
私はもう死んでもいい、私の命の代わりです。

どうか・・・・たったひとつだけです。
私の“最後のねがい”をおききください。」

すると
神が答えたのです。

「娘よ。
その鹿がワタシに
さっきから、こう言っておる。

『自分はもう死に逝く身体。
さっきまで、生きたい、生きたいと強く願うばかりだった。
だが、
この絶望の眼(まなこ)をした美しい娘に
せめて、生きる希望をあたえてやってはくれないか
もうさっきまでの、願いはいい。
今すぐ死んでも構わない、だから娘を生かしてやってくれ。』

どう・・・思うか?・・・」


娘は鹿の身体をさすりながら、たくさん泣きました。
鹿が死んでいってしまうのを
みとどけました。
それから
残る力をふりしぼり
村に戻りました。

娘は
人のために生きました。
自分の「できること」を探して生きました。
娘のまなざしは、人の心を安らかにしました。
娘の手のひらは、人の心を暖めました。

でも娘は時々
一人で森に行きました。
心で歌いました
すると、夜なのに
動物達が娘の側に集まりました。

月のひかりも
歌っているように輝きました。
もう
娘は泣きませんでした。



ぎゃらり・とっぷ