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一口に「鳥」といっても、その種類は8600種以上にも及び、各々の 鳥種に適した生活環境や食生活は実に多種多様である。しかし、私た ちはそれらをひとくくりにして単に「鳥」としてのみ捉え、単調な種子食を 生涯与え続けてきた。飼鳥の食生活を見直し改善していくことにより、 現在病院に持ち込まれる疾病の6割以上は防ぐことができると私は確 信している。犬猫と比較して、鳥類医学は発展途上であり、その診療 には未だ非常に多くの限界がある。だからこそ、予防医学として給餌 飼料の栄養面を充実させる必要があると考える。ヒトと同様に生活習 慣病として知られる肥満や痛風をはじめとした栄養障害、栄養失調に 起因する繁殖障害など、ヒトに飼われてしまったことで出現した「人為 的疾病」を少しでも減らすために、「鳥の栄養」について考えていきたい と思う。 |
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種子類に含まれる栄養成分 | ||
飼鳥の栄養素とは、蛋白質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラルおよ び水分である。混合飼料の意義は、数種の種子類をブレンドすることに より個々の種子に不足している成分を互いに補い合い、栄養バランスを 保つことにある。しかし、前述のように現状における種子のみの混合飼 料での飼育には問題点も多くみられる。以下にそれらの問題点について まとめてみた。 (1)小型鳥用飼料のみでは、成長期、繁殖期、換羽期において蛋白量 が不足する。 (2)小型用飼料には炭水化物が多く含まれているため、過食することで 高カロリー摂取となる。 (3)蛋白質を補うためのアサの実、ヒマワリ、エゴマなどの付加は、脂 肪分の過剰を招くことになる。 (4)小型鳥用飼料では必須アミノ酸が不足またはアンバランスである。 (5)低カルシウムおよび高リン摂取となる。 (6)ビタミンおよびミネラルが不足する。 (7)オーナーの給与失宜(嗜好性の高い種子のみの付加や混合飼料 の付加、総入れ替え、種子のみの飼養など)により、栄養バランス を著しく崩すことになる。 |
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【参考】バードハウスの診察室に掲示してある種子サンプルの写真 ・写真小( 78KB 解像度 800×600用 ) ・写真中(116KB 解像度1024×768用) ・写真大(202KB 鮮明に写っています) (注)ファイルが大きいので開くまで時間がかかります。 |
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副食の必要性 | ||
種子のみの飼養の栄養バランスを補助するのに、ビタミンやミネラルを 多く含む副食は欠かすことができない。飼鳥に必要とされるビタミンAを 摂取させるためには、小型鳥にはコマツナやパセリ、大型鳥にはニンジ ンなどの緑黄色野菜を給与すべきである。 ミネラルの補給にはイカの甲、ボレー粉などが不可欠である。これらを 給与することにより、カルシウムの供給のみならず、甲状腺機能不全症 や羽毛障害にも関連が深いヨードをも補給することができる。 |
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1.蛋白質とアミノ酸 | ||
蛋白質の維持量は、通常12%が推奨されている。成鳥期、換羽期、繁 殖期では、鳥種によって差異があるが、15〜20%以上の蛋白質が不可 欠である。この栄養素が不足すると、成長障害、生殖障害、体重減少、 毛引き、羽毛障害などの外被系障害や免疫力の低下が起こる。 |
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2.脂肪 | ||
脂肪による供給可能なエネルギー量は、蛋白や炭水化物と比較すると 約2倍ある。維持量として4%が推奨されているが、繁殖期・成長期・換 羽期などにはそれ以上が必要と思われる。この栄養素が過剰になると、 肥満、それに継発する疾患、生活習慣病や繁殖障害が起こる。 |
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3.炭水化物 | ||
炭水化物の機能は重要なエネルギー源となることである。余剰なエネ ルギーは、中性脂肪の形で肝臓や脂肪組織に貯蔵される。そのため、 過食によって高カロリー摂取となり肥満となる。 |
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4.ビタミン | ||
3代栄養素(蛋白質・脂肪・炭水化物)を体内で代謝させる時の補助と して潤滑油的な役割を担っている。ビタミンは脂溶性ビタミンと水溶性ビ タミンに大別される。ここでは主なビタミンのみを記載する。 ビタミンAが欠乏すると粘膜上皮の免疫力が低下する為、各種病原体 (ウイルス・細菌・真菌・原虫など)への感受性が高くなる。また、腎障害 や腫瘍、羽毛の変色や足の角化亢進がみられる。 ビタミンD3欠乏は、カルシウムの吸収不全や骨形成異常、卵殻形成 不全やそれに伴う繁殖障害が起こる。しかし、ビタミンA、ビタミンD3は 過剰症もある。 ビタミンB1は、神経系の働きを正常に保ち炭水化物の代謝に必要で ある。欠乏によって、神経症状、成長遅延、消化不良などを起こす。ヒナ の脚弱はこのビタミンが欠乏している為と思われる。過剰症はない。 |
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5.ミネラル | ||
こでは主なミネラルのみを記載する。 カルシウム欠乏は、骨格異常や軟卵、テタニー症を引き起す。卵塞、 卵性腹膜炎、副甲状腺の過形成を継発する。 リンは、骨の構成成分であり、リン酸カルシウムとして存在する。カル シウムとリンの比率は、生命維持に重要で1.5:1〜2:1が良い。 ヨウ素は、甲状腺ホルモンの構成成分である。欠乏すると、甲状腺障 害を引き起こす。 |
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高品質でバランスの取れた栄養素を過不足なく飼料から摂取させるた めには、完全栄養食としての「ペレット」が推奨される。ほとんどがアメリ カからの輸入品である。ただし、このペレットを使用するに当たり、いくつ かの問題点がある。しかし、種子類主体の給餌と比較すると、栄養学的 なメリットは極めて大きいと考えられる。また、近年は我国でも11社ほど のメーカーによるペレットを入手できるようになってきた。 |
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ペレットの利点 | ||
(1)手軽にバランス良く多くの栄養素を摂取できる。 (2)処方食をはじめとして、鳥種・環境・個体の状態・疾病などに合わ せて成分を手軽に変化させることができる。 |
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ペレットの欠点 | ||
(1)特定の鳥種の栄養要求量を基に製造されているので、全ての鳥種 に適しているとはいえない。 (2)使用歴が浅いため、長期間の摂取による影響が不明である。 (3)種子類と比べて嗜好性が劣る。 (4)総合日常食として用いる場合、栄養学的に優れていても、単一飼 料のため心理的欲求を満たすことが難しい。 |
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今後の飼鳥の飼養を考えると、種子類だけではカルシウム、ビタミンを はじめアミノ酸やその他微量元素が欠乏することは明らかである。種子 類を中心に飼養する場合は必ずカラツキとし、緑黄色野菜とボレー粉な ど副食の追加、ビタミン剤の添加を行うことが望ましいと考えられる。ま た、嗜好性のある単一種子類の増量や混合カラツキ飼料の日々の付加 または総入れ替えなどの給餌方法は改善すべきである。しかしそれでも 尚、必須アミノ酸などの欠乏や栄養のアンバランスを克服することは困 難である。そこで、出来るならば、「ペレットフード」への転換をすべきで ある。急激な飼料の変化は鳥に過剰なストレスをかけることになるた め、時間をかけて徐々に切り替えていくことが望ましい。ペレットフードを 使用していくにあたって、ビタミン剤の添加はビタミン過剰症を招く恐れ がある。こう言った場合、例えば「ビタミンA」ではなく、「カロチン」といっ た自然産物を用いた形での給与が望ましいと考えている。これらは副食 として、10〜20%の給与が適切と考える。 ペレットフードは栄養学的に大変優れているといえるであろう。しかし、 栄養面だけを満足させることが飼鳥にとって本当にベストな給餌方法な のであろうか?本来、野生の鳥は実に様々な種類のエサを採食してい る。それは、単に必要な栄養要求量を満たしているというだけでなく、 形、色、臭い、食感あるいは採食行動(苦労してエサを取りに行く、殻を むいて食べるなど)も全て含めて満たしていることなのではないだろう か?「エンリッチメント」という言葉があるが、飼鳥の栄養面だけではなく 鳥類に備わっている本来の行動を生かせる環境作りを心掛けたいもの である。そうすることによって、少しは飼鳥たちの心理的欲求を満足させ ることができるものと信じている。 飼育下においては、日照条件、気温、湿度、飼料などあらゆる事が野 生状態とは異なっている。すなわち、照明時間の延長、豊富な飼料、快 適な温度が1年中続くことになる。そのために、飼鳥は慢性発情状態と なり、雌では年中不規則に産卵し、繁殖障害を招くことになる。さらに は、健康であるにも関わらず、保温状態を1年中続けたり、高カロリーで 嗜好性の高い飼料を給与するなど、「過保護」の飼養状態が非常に目に 付く。室内で飼育されている飼鳥にも出来る限りの季節感を持たせ、そ れに応じてエサの種類に変化を与えることで、人為的に繁殖期などをコ ントロールすることも必要なのではないだろうか?そうすることで、換羽 期もスムーズに迎えることが出来るはずである。このような工夫をするこ とで、ホルモンバランスなどの恒常性が保たれ、ひいては疾病予防につ ながるのではないかと考えている。 今後の飼鳥の飼養を考えた時、ヒトと生活を共にするコンパニオンバ ードではあるが、出来るだけ自然に近い飼養形態を取り入れ、常に「エ ンリッチメント」を考慮しながら良質の飼料と快適な環境への改善を強く 願うものである。 |
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