飼い鳥の栄養



はじめに

 一口に「鳥」といっても、その種類は9000種以上にもおよび、各々の鳥種に適した生活環
境や食生活は実に多種多様です。しかし、私たちはそれらをひとくくりにして単に「鳥」とし
てのみ捉え、単調な種子(シード)食を生涯与え続けてきました。飼い鳥の食生活を見直し改
善していくことにより、現在病院に持ち込まれる疾病の6割以上は防ぐことができると私は確
信しています。犬猫と比較して、鳥類医学は発展途上であり、その診療には未だ非常に多くの
限界があります。だからこそ、予防医学として給餌飼料の栄養面を充実させる必要があると考
えています。

ヒトと同様に生活習慣病として知られる肥満や痛風、動脈硬化をはじめとした栄養障害、栄養
失調に起因する繁殖障害など、ヒトに飼われてしまったことで出現した「人為的疾病」を少し
でも減らすために、「飼い鳥の栄養」について考えることは、ヒトと鳥が共存していく中でと
ても重要なのです。



飼い鳥の食事摂取基準と栄養の過不足に起因する疾患

タンパク質
 タンパク質の維持量は、通常12〜14%が推奨されています。成鳥期、換羽期、繁殖期では、鳥種によって差異がありますが、15〜20%以上のタンパク質が不可欠です。タンパク質が不足すると、成長障害、生殖障害、体重減少、毛引き、羽毛障害などの外被系障害や免疫力の低下が起こります。
脂質
 脂肪による供給可能なエネルギー量は、タンパク質や炭水化物と比較すると約2倍以上あります。維持量として4%が推奨されていますが、繁殖期・成長期・換羽期などにはそれ以上が必要と考えられます。脂肪が過剰になると、肥満、それに継発する疾患(肝臓障害や動脈硬化など)、生活習慣病(糖尿病など)や繁殖障害が起こります。
炭水化物
 炭水化物は重要なエネルギー源です。しかし、余剰なエネルギーは、中性脂肪の形で肝臓や脂肪組織に貯蔵されてしまいます。そのため、過食によって高カロリー摂取となり肥満となってしまうことがあります。
ビタミン
 3大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)を体内で代謝させる時の補助として潤滑油的な役割を担っています。ビタミンは大きく分けると脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンがあります。

ビタミンAが欠乏すると免疫力が低下する為、病原体(ウイルス・細菌・真菌・原虫など)への感受性が高くなってしまいます。また、腎障害や腫瘍、羽毛の変色や足の角化亢進がみられることがあります。
ビタミンD3が欠乏すると、カルシウムの吸収不全や骨形成異常、卵殻形成不全やそれに伴う繁殖障害が起こります。しかし、ビタミンA、ビタミンD3は過剰症もあるので注意が必要です。
ビタミンB1が欠乏すると、神経症状、成長遅延、消化不良などを起こします。ヒナの脚弱はこのビタミンが欠乏している為と考えられています。
ミネラル
 カルシウムが欠乏すると、骨格異常や軟卵、骨粗そう症を引き起こします。卵塞、卵性腹膜炎、副甲状腺の過形成を継発することがあります。リンは、骨の構成成分であり、リン酸カルシウムとして体内に存在します。カルシウムとリンは生命維持に重要で、その比率は1.5:1〜2:1が良いと言われています。ヨウ素は、甲状腺ホルモンの構成成分です。欠乏すると、甲状腺障害を引き起こします。


種子(シード)食の問題点
種子(シード)類の栄養成分

 飼い鳥の栄養素とは、タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラル、そして水分で
す。ミックスシードの意義は、数種類のシードをブレンドすることにより個々のシードに不足
している成分を互いに補い合い、栄養バランスを保つことにあります。しかし、前述のように
現状におけるシードのみの配合飼料での飼育は問題点も多くあります。以下にそれらの問題点
についてまとめました。

@成長期、繁殖期、換羽期においてタンパク質が不足する
A炭水化物が多く含まれているため、過食することで高カロリー摂取となる
B脂肪分の過剰を招くことになる
Cシード類では必須アミノ酸が不足、またはアンバランスである
D低カルシウムおよび高リン摂取となる
Eビタミンおよびミネラルが不足する
F給与失宜により、栄養バランスを著しく崩すことになる
副食の必要性


 シードのみでの飼養の栄養バランスを補助するために、ビタミンやミネラルを多く含む副食は欠かせません。飼い鳥に必要とされるビタミンAを摂取させるためには、小型の鳥さんには小松菜やパセリ、大型の鳥さんにはニンジンなどの緑黄色野菜を給与しましょう。ミネラルの補給にはカトルボーン(イカの甲)、ボレー粉(カキ殻)などが不可欠です。これらを給与することにより、カルシウムの供給のみならず、甲状腺機能不全症や羽毛障害にも関連が深いヨウ素も少量補給することができます。しかし、カルシウムの吸収に不可欠なビタミンD3が含まれていないため、ビタミン剤などで補う必要があります。


ペレットの応用
ペレットの栄養成分


 高品質でバランスの取れた栄養素を過不足なく飼料から摂取させるためには、完全栄養食と
しての「ペレット」が推奨されます。このペレットを使用するにあたりいくつかの注意点があ
りますが、種子(シード)類主体の給餌と比較すると、栄養学的なメリットは極めて大きいと
考えられます。また、近年は国内でも16社ほどのメーカーによるペレットを入手できるよう
になってきましたので、ペレットだけでも味や形にバリエーションをつけることができるよう
になってきました。
メリット
@成長期、繁殖期、換羽期など必要によって、成分を選ぶことができる
A総合栄養食なので栄養素のバランスが良い
B他のものを給餌する必要がない
C食欲がなくなった時にシードに戻すことができる
デメリット
@嗜好性が悪い
A鳥種ごとの必要栄養素などに問題がある可能性がある
B同じ色・匂いばかりで食事が単調化しやすい


ペレットの切り替え方のご説明を行っております


  こんな方にオススメ!
   ・ペレットに切り替えたいけど、やり方がわからない…
   ・切り替えようとして挫折してしまった…

当院ではペレットへの切り替えの方法、採食量の測定方法等のご説明を無料で
行っております。スタッフが丁寧にお話させていただきますので、ご希望の方
はスタッフまたは獣医師にお声かけください。


今後の飼養と疾病を考えて
 今後の飼い鳥の飼育を考えると、種子(シード)類だけではカルシウム、ビタミンをはじめ
アミノ酸やその他微量元素が欠乏することは明らかです。種子(シード)類を中心に飼育する
場合は必ず殻付きのシードとし、緑黄色野菜とボレー粉など副食の追加、ビタミン剤の添加を
行うことが望ましいと考えられます。また、嗜好性のある単一種子(シード)類の増量や混合
殻付きシードの日々の付加または総入れ替えなどの給餌方法は改善すべきだと私は考えていま
す。しかしそれでも尚、必須アミノ酸などの欠乏や栄養のアンバランスを克服することは残念
ながら困難です。そこで、出来るならば「ペレット」への転換をおすすめしています。急激な
ごはんの変化は鳥さんに過剰なストレスをかけることになるため、時間をかけて徐々に切り替
えていきましょう。ペレットを与えていくにあたって、ビタミン剤の添加はビタミン過剰症を
招く恐れがあります。こう言った場合、例えば「ビタミンA」ではなく、「カロチン」といっ
た自然産物を用いた形での給与が望ましいと考えています。これらは副食として、10〜2
0%の給与が適切です。

 ペレットは栄養学的に大変優れているといえます。しかし、栄養面だけを満足させることが
飼い鳥にとって本当にベストな給餌方法なのでしょうか?本来、野生の鳥は実に様々な種類の
エサを採食しています。それは、単に必要な栄養要求量を満たしているというだけでなく、
形、色、臭い、食感あるいは採食行動(苦労してエサを取りに行く、殻をむいて食べるなど)
も全て含めて満たしていることではないでしょうか?「エンリッチメント」という言葉があり
ますが、飼い鳥の栄養面だけではなく鳥類に備わっている本来の行動を生かせる環境作りを心
掛けていきたいと考えています。そうすることによって、少しでも飼い鳥たちの心理的欲求を
満足させることができると思っています。

 飼育下においては、日照条件、気温、湿度、飼料などあらゆる事が野生状態とは異なってい
ます。すなわち、照明時間の延長、豊富な飼料、快適な温度が1年中続くことになります。そ
のために、飼い鳥は慢性発情状態となり、雌では年中不規則に産卵し、繁殖障害を招くことに
なってしまいます。さらには、健康であるにも関わらず、保温状態を1年中続けたり、高カロ
リーで嗜好性の高い飼料を給与するなど、「過保護」の飼養状態が残念ながら少なくありませ
ん。室内で飼育されている飼い鳥にも出来る限りの季節感を持たせ、それに応じてエサの種類
に変化を与えることで、人為的に繁殖期などをコントロールすることも必要なのかもしれませ
ん。そうすることで、換羽期もスムーズに迎えることが出来るはずです。このような工夫をす
ることで、ホルモンバランスなどの恒常性が保たれ、ひいては疾病予防につながるのではない
かと考えています。

 今後の飼い鳥の飼養を考えた時、ヒトと生活を共にするコンパニオンバードではあります
が、できるだけ自然に近い飼養形態を取り入れ、常に「エンリッチメント」を考慮しながら良
質の飼料と快適な環境への改善を強く願っています。

小鳥の病院BIRD HOUSE 院長
眞田直子(さなだなおこ)