二次的著作物性(2)
「日野市壁画事件」
昭和62年09月18日東京地方裁判所八王子支部(昭和56(ワ)1881)
【ポイント・論点】
・特殊なレンガ(タイル)を組み合わせて作成した壁画の著作物性。
・「変形」に該当する事例。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
1 原告は、三井霞ケ関ビルロビープラザ床面、札幌市庁舎エントランスロビー等に自己製作の陶芸デザインを有する陶芸作家であり、現在白石斉デザイン研究所を主宰している。
2 原告は、昭和五一年春頃、日野市の新市庁舎建築工事の設計・監理を請け負っている岡設計から右新庁舎内の壁画製作の指名コンペテイシヨンに参加するよう誘いを受けたので、これに原告案を提出したところ、同年八月頃、日野市より右壁画製作の正式依頼を受けるに至り、原告はこれを受諾した。
3 原告は、日野の語感から来る「火野」、「炎える原野」及び「夕焼けの原」というイメージや日野市の歴史を表現するために、赤系統の色を基調とする煉瓦タイルを使用することとし、さらに、時間的なものを陰影として表現するために、日野市壁画に使用する数種の特殊な大型タイルを独自に考案、製造し、右大型タイルと地を構成する定型のタイル上に日野市の旧地名を焼き込み、これらを日野市庁舎一階通路部分に存する中央コア壁面(一部二階部分を含み四面)上に組み合わせて張り付け、昭和52年10月、別紙日野市壁画図面(一)ないし(四)記載のとおり、日野市壁画を完成させた。
なお、実際に右タイルを壁面に張り付ける作業をしたのは被告阿部窯業であり、被告阿部窯業は、原告の作成したタイル割付図に従って、その作業を進めた。
4 日野市壁画は、その後、建築、タイル関係の雑誌等にも取り上げられ、原告の陶芸デザインの中でも代表的作品の一つとなっている。
三 右認定の事実に検証の結果(昭和57年9月27日、昭和61年8月20日施行)を総合すれば、日野市壁画は、原告の日野市についてイメージを、数種の大きさ、形状の煉瓦タイルの組合わせ及びタイルに焼き込んだ地名の配列等により創作的に表現しており、美術の範囲に属するものとして著作物性を有するということができ、従って、原告は日野市壁画の著作権者であることが明らかである。
なお、成立に争いのない乙第一一号証、証人Aの証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証の一、二、証人Aの証言により昭和56年12月以降に撮影された陶板等の写真であると認められる乙第八号証の一九ないし九二、Aの証言によれば、タイルに文字を焼き込む手法は日野市壁画製作以前から存在しており、また大型タイル、四ツ目形タイルも昭和30年頃から製作販売されていることが認められるけれども、壁画の評価としては個々の手法なり素材の分析よりも、全体的観察を重視すべく、右観点から日野市壁画を見れば、独創性を備えた一個の美術作品というべきであり、右事実をもつて著作物性を否定する事情とはなり得ない。
―略―
五 そして、・・・(筆者注:証拠略)に基づき、日野市壁画と本件壁画を対比すると、日野市壁画も本件壁画も、その構成要素として、赤色系の特殊な大型煉瓦タイルを使用しており、本件壁画に使用された右大型煉瓦タイルのデザインは日野市壁画に使用されたデザイン七種のうち三種類を使用していること、両壁画ともタイル内に各市の地名を焼き込んでおり、また右大型タイルの地を構成する定型タイルの大型タイルと同色同系統のタイルを使用している点に類似性、共通性を有していることが認められ、他方、本件壁画の大型タイルの形状は日野市壁画のタイルとわずかに異なつており、またその組み合わせの方法、配置及び数量が日野市壁画のそれと相違しているのは、別紙物件目録(一)添付の壁画図面(一)及び同(二)と別紙日野市壁画図面(一)ないし(四)とを対比して明らかであり、その他地を構成するタイルの組合わせ方法、文字の内容、字体、地タイルに文字を刻み込んでいるか等、被告らが請求原因に対する答弁4(三)で指摘する点において、両壁画間に多数の相違点を見出すことができる。
右対比によると、本件壁画は、日野市壁画の複製物とまでは認められないけれども、しかし、全体的に両壁画を比較対照して観察すれば、右相違点よりも類似性の方が強く印象付けられることは否定しがたく、観る者をして、その表現形式上同一の創作発想に基づき、原著作物(日野市壁画)を土台としてこれを変形した作品(本件壁画)と認めしむるに十分であり、右両作品の客観的な比較に加え、後記六に認定の事情を総合考慮すれば、本件壁画は日野市壁画の変形物に該るものと断ぜざるを得ない。
なお証人B及びCの証言によれば、本件壁画における地名を焼き込んだ大型タイルの配置は、被告館林市の地理的要素を考慮しており、この点に独自性を有していることが認められるけれども、美術の著作物としてその表現形式的評価に立った場合には、右独自性の故に本件壁画が日野市壁画から全く独立した別個の著作物であると認めることはできない。
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