「表現の自由」と著作権法
「『THE WALL STREET JOURNAL』抄訳事件」
平成5年08月30日東京地方裁判所(平成3(モ)6310)
「『THE WALL STREET JOURNAL』抄訳事件(2)」
平成6年10月27日東京高等裁判所(平成5(ネ)3528)
【ポイント・論点】
・憲法21条の表現の自由と著作権法との関係(特に著作権法10条2項の意義)。
【判決文(原審)】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
債務者は、憲法21条の表現の自由は、情報の受け手の知る権利をも保障するものであり、特に時事に関する情報の流通は民主制にとって不可欠であることから、著作権法は著作者に対し創作への報償として一定の権利を付与するものの、情報の過度の独占は文化の発展を阻害するため、同法は、創作への報償と情報の自由流通の間に適切なバランスを取ることを目的とし、また同法10条2項は、このような憲法の表現の自由に由来する重大な要請のための著作権は一定程度道を譲るべきことを宣言した規定と解すべきである旨主張する。
しかしながら、憲法21条の表現の自由が、情報の受け手の知る権利をも保障するものであり、特に時事に関する情報の流通は民主制にとって不可欠であることは、債務者の主張するとおりであるが、著作権法1条は、同法の目的について、「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」と規定しているのであって、債務者主張のように、創作への報償と情報の自由流通の間に適切なバランスを取ることを目的としていることを規定しているわけではなく、また事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は言語の著作物に該当しない旨を定めた同法10条2項も、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道がそもそも同法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当しないから保護の対象にならないということを確認的に規定した規定であると解されるのであって、債務者主張のように、表現の自由に由来する重大な要請のために著作権は一定程度道を譲るべきことを宣言した規定であると解することはできない。
本件において、債務者は、前記のとおり、債権者新聞の個性を形づくる素材の選択・配列を債権者新聞に依拠してこれを模倣した債務者文書を作成し、これを多数の者に商業ベースで頒布していたものであって、このような行為が表現の自由の名を借りて許されるものでないことはいうまでもなく、債務者の前記主張は理由がない。
【判決文(控訴審)】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
1 控訴人は、憲法21条が定める表現の自由は情報の受け手の知る権利をも保障するものであり、特に時事に関する情報の流通は民主制にとって不可欠であるところ、著作権法は著作者に対し創作への報償として一定の権利を付与するものの、情報の過度の独占は文化の発展を阻害することから、同法は、創作への報償と情報の自由流通の間に適切なバランスをとることを目的とするものであり、また同法10条2項は、表現の自由に由来する重大な要請のために著作権は一定程度道を譲るべきことを宣言した規定と解すべきであるとして、控訴人文書のように、ニュース又は時事の事実を提供するものであって、被控訴人新聞の記事に代替するものではなく、むしろアクセスを容易にするだけの情報を提供するにすぎないものが著作権法の名の下に禁止されることは時事情報の流通を過度に制限するものであって許されない旨主張する(控訴人の主張1)。
憲法21条が定める表現の自由が、情報の受け手の知る権利をも保障するものであり、特に時事に関する情報の流通が民主制にとって不可欠であることは、控訴人主張のとおりであり、また、著作権法は、著作物等の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とするものである(同法1条)。
ところで、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は言語の著作物に該当しない旨を定めた著作権法10条2項は、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は同法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当しないことから、保護の対象にならない旨を確認的に規定したものであると解され、時事に関する情報が民主性にとって重要であるという観点から権利制限をしたものとは解し難く、したがって、控訴人主張のように、同法10条2項が、表現の自由に由来する重大な要請のために著作権は一定程度道を譲るべきことを宣言した規定であると解することはできない。
そして、そもそも控訴人文書は、前記認定のとおり、被控訴人新聞の翻案に当たるものであって、単に被控訴人新聞へのアクセスを容易にするだけの情報を提供するにすぎないというものではなく、控訴人文書の作成・頒布を差止めることが時事情報の流通を過度に制限するものとは認め難いから、控訴人の右主張は理由がない。
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