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ホーム リスト << 重要判例要旨 最終更新 '08/07/08

黙示の利用許諾(2)

「雑誌『法政』・懸賞論文事件」

平成21116日東京地方裁判所(昭和61()2867

「雑誌『法政』・懸賞論文事件(2)」

平成31219日東京高等裁判所(平成2()4279


【判決文(原審)】

(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。


二 右争いのない事実によれば、請求の原因4の被告の行為は、原告論文を複製したものというべきであるが、被告は、右複製は適法なものである旨主張するので、この点について判断する。

1 被告雑誌及び被告大学懸賞論文に関する被告の主張1の事実は当事者間に争いがなく、右事実並びに成立に争いがない甲第五号証、乙第一号証の一、二、第二号証、第一〇号証の一ないし三、証人【B】の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証ないし第八号証及び証人【B】の証言を総合すれば、(一)原告は、第5回被告大学懸賞論文の募集に対し、原告論文を提出して応募したものであるところ、この募集要項は、昭和57524日付で被告大学内において頒布されたものであり、その後の同62527日付10回懸賞論文募集要項には、「優秀な論文は、委員会で審議のうえ、雑誌「法政」(二・三月合併号)に掲載する。」という記載があるのに対し、第5回の募集要項には、右のような趣旨の記載はなく、その他応募論文の著作権の帰属、出版等の利用に関する事項の記載は全くない、(二)原告が第5回懸賞論文に応募する以前の第4回までに、被告雑誌に掲載された応募論文は、第1回については無し、第2回ないし第4回は優秀賞受賞論文のうち各2篇であり、各回の優秀賞受賞論文は、第2回が12篇、第3回が4篇、第4回が2篇であるところ、その間、原告は、第2回に応募して優秀賞を受賞し、続く第3回にも応募して努力賞を受賞しているが、いずれも、被告雑誌には掲載されていない、(三)5回被告大学懸賞論文授賞式及び受賞祝賀会が昭和58120日に行われ、原告も、これに参加したが、その際、被告大学学務部学務課職員として、被告大学懸賞論文に関する事務を担当していた【B】が、原告に対し、優秀賞受賞論文である原告論文を被告雑誌の同年23月合併号に掲載することになった旨伝えたところ、原告は、これに対して異議を唱えるなど、特別の意思表示をしないまま、【B】と雑談を続けた、(四)原告は、同年216日付消印の郵便をもって、被告大学通信教育部の訴外【C】あてに書簡を送ったが、これには「授賞式の時に、学務課の担当の方が、雑誌「法政」にも載せると言っておりましたので、正しい原稿を渡して下さるようにお願いいたします。」との記載がある、以上の事実が認められる。

2 右認定の事実によれば、被告は、第5回懸賞論文募集に当たって、応募者に対し、応募論文の著作権の帰属、出版等の利用に関する事項を何ら明らかにしていないのであるから、被告雑誌発行の趣旨及び被告大学懸賞論文の制度の趣旨が前記被告の主張1のとおりであるとしても、そのことから直ちに、応募者の応募行為が、応募論文の著作権の贈与、出版権の設定又は出版の許諾等の意思表示に当たるものと認定することは困難である。また、原告は、右認定の応募歴、受賞歴を有しているから、第5回懸賞論文に応募する際には、もし、優秀賞を受賞すれば、自分の論文が被告雑誌に掲載されることもありうるといった程度の認識を有していたであろうことは認定しえないではないが、第4回懸賞論文までの優秀賞受賞論文のすべてが被告雑誌に掲載されたわけでもなく、原告自身、優秀賞を受賞しながら、被告雑誌に掲載されなかったという経験を有しているといった右認定の事実に照らすと、原告の第5回懸賞論文の応募行為自体が、直ちに被告に対する著作権の贈与、出版権の設定又は出版の許諾の意思表示であると認定することも困難である。しかしながら、右1(三)認定の事実によれば、【B】が、原告に対し、原告論文を被告雑誌に掲載することになった旨伝えたという事実は、これをもって、被告大学懸賞論文の事務担当者が、被告に対し、原告論文の出版の許諾を求めた行為に当たると認定することができ、また、これに対する原告の態度は、右に対する黙示の承諾に当たると認定することができる。そして、右1(四)認定の事実は、原告の右承諾の意思を裏付けるものであるということができる。この点について、原告は、【B】との会話は、祝賀会での飲酒中になされた雑談にすぎないから、承諾の意思表示というようなものではない旨主張するが、仮に飲酒中の雑談であったとしても、飲酒中であったため、意思表示に瑕疵があったという事実についての主張立証はなく、かえって、原告の意思表示が承諾の意思表示であることを裏付けるに足りる事実が認められるのであるから、原告の右主張は、採用することができない。なお、原告は、その本人尋問の結果中、前認定に反する供述をしているが、右供述は、前掲各証拠に照らし、たやすく採用することができない。

3 以上によれば、被告の本件出版は、原告の許諾に基づくものであるといわざるを得ないから、被告の許諾による出版である旨の主張は、理由がある。


【判決文(控訴)】

(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。


一 控訴人の主張

1 複製権の侵害に関する請求について

(一) 控訴人の黙示的承諾を肯定した原判決の認定判断の誤り

  原判決は、昭和58120日に行われた被控訴人大学懸賞論文授賞式及び受賞祝賀会の席上における被控訴人職員【A】からの掲載申入れに対する控訴人の黙示の承諾により、控訴人執筆に係る主題を「【B】先生追悼論文―過疎地域青年のUターン行動と生活意識の変容」とする研究論文(以下「本件論文」という。)を被控訴人発行の雑誌「法政」(以下「本件雑誌」という。)へ掲載する合意が成立したと認定しているが、右認定は事実の評価を誤るものである。すなわち、右席上におけるやりとりは、前記【A】の証言からも明らかなように、掲載許諾においては通常必ず同意されるところの校正のスケジュール等に関する内容などの事項は全くなく、ただ前記【A】からの一方的な申入れがあっただけにすぎないのである。控訴人としては、祝賀会という性格の場で、本件論文の掲載という重要な話題が持ち出されるなどということは、全く予想すらしていなかったところであるから、黙示の承諾が成立する余地はないのであり、原判決の前記認定は失当である。控訴人が被控訴人に送付した乙第一〇号証の一ないし三は、本件論文が一方的に掲載されるおそれがあったため、送付したものであり、黙示の承諾の根拠となるものではない。

(二) 不当利得返還請求(当審における予備的新請求)

  仮に、複製権の侵害による不法行為責任が認められないとしても、控訴人は、以下に述べるように、被控訴人に対して不当利得返還請求権を有する。

 すなわち、控訴人が本件論文の掲載を被控訴人に対して許諾するに当たっては、本件論文が正確に掲載、刊行されることが許諾に当たっての動機となっていたのであり、そして、かかる動機が表示されていたことは、前記乙第一〇号証の三の記載内容に照らして明らかなところである。しかるところ、かかる動機と異なり不正確な論文が掲載、刊行されたものであるから、掲載許諾は錯誤により無効というべきである。ところで、掲載許諾が無効である以上、無償で本件論文を掲載するという受益を受けた被控訴人には原状回復義務としての不当利得返還義務が発生するものであり、しかも、前記錯誤の原因は被控訴人において作出したものであるから、被控訴人は悪意の受益者というべきであるところ、被控訴人の受益と因果関係を有する控訴人の受けた損害は前記不法行為に基づく損害賠償請求における損害額と同額である。

  よって、控訴人は、被控訴人に対して、予備的請求として、不当利得返還請求権に基づき、前記の不法行為に基づく損害賠償請求におけると同額の損害賠償金の支払いを求める。


―略―


二 複製権の侵害を理由とする請求について

1 原判決三四頁末行「右1(三)認定の」ないし三五頁六行目「ことができる。」までを以下のように訂正するほか、三一頁二行目ないし三六頁四行目までを引用する。

  前記1(三)に認定したように、控訴人は昭和58120日に開催された第5回被控訴人大学懸賞論文授賞式及び受賞祝賀会において、右懸賞論文の事務を担当していた同大学学務部学務課職員の【A】から本件論文を本件雑誌へ掲載することになった旨の申入れを受けたのに対して何らの異議を述べていない上、その後、前記1(四)に認定したように、本件論文の本件雑誌への掲載を前提とした内容の書簡を被控訴人大学宛に送付していることからすると、控訴人は、前記の受賞祝賀会の席における【A】からの論文掲載の申入れに対して、黙示の承諾をしたものと推認するのが相当というべきである。控訴人は、前記【A】との話においては、掲載許諾において通常は必ず同意されるところの校正のスケジュール等に関する内容などの事項は全くなく、ただ前記【A】からの一方的な申入れがあったにすぎないと主張するが、かかる内容が確定されなければ掲載許諾の合意が成立し得ないものとは解されないから、右主張は採用できないし、控訴人は前記受賞祝賀会における掲載許諾を前提とした書簡を被控訴人に送付していることは前述のとおりである以上、前記【A】からの一方的な申入れがあったにすぎないとすることはできず、控訴人の前記主張は採用できない。

2 予備的(不当利得返還)請求について

  控訴人は、本件論文の掲載を被控訴人に対して許諾するに当たっては、本件論文が正確に掲載、刊行されることがその動機となっていたのであり、そして、かかる動機は表示されていたところ、不正確な論文が掲載されたものであるから、錯誤があったとして、本件論文の記載許諾は無効であり、掲載により利得を得た被控訴人に対し不当利得返還請求権が発生すると主張する。

  そこで、右請求について検討するに、本件論文の記載許諾は、前記の受賞祝賀会の席における前記【A】との話の中で成立したものであることは前記認定のとおりであるところ、右席上においては、本件論文の掲載方法等に関する話が一切されていないことは原審証人【A】の証言及び同控訴人本人尋問の結果から明らかである。

  ところで、論文等の著作物の雑誌等への掲載許諾に当たっては、特段の合意がない以上、当該著作物の内容を正確に掲載することを内容とするものであることは、当事者の合理的な意思解釈として当然のことというべきであり、本件においても、これを別異に解釈する特段の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はないこのことは、現実に掲載された内容が、結果的に正確性を欠いていたからといって、これにより債務不履行等の問題が生ずるのは格別、かかる事情により左右されるものでないことはいうまでもないところである。

  そうすると、本件論文の正確な掲載を掲載許諾の前提とした控訴人の意思に何らの錯誤はないから、控訴人の主張はその前提を欠いており、その余の点について判断するまでもなく、当審における予備的請求は失当というべきである。