黙示の利用許諾
「ビデオ背景音楽複製許諾事件事件(2)」
平成13年07月12日東京高等裁判所(平成12(ネ)3758)
【ポイント・論点】
・著作権(複製権)の黙示の利用許諾(契約)が認められなかった事例。
・合意(契約)における明確な意思表示(例えば、意思表示の書面化)の重要性。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
第2 事案の概要
本件は,控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)との間で著作権信託契約を締結し,その著作権の管理を行っている控訴人が,補助参加人が背景音楽を担当したビデオの制作者である被控訴人に対し,同音楽の無断複製による著作権侵害を理由とする損害賠償を請求したという事案であり,控訴人の請求を全部棄却した原判決に対して,控訴人がこれを不服として控訴を申し立てた事件である。
―以下、略
第3 当裁判所の判断
1 (略)
2 補助参加人の被控訴人に対する本件楽曲の複製許諾の有無について
(1) 控訴人及び補助参加人は,補助参加人が,被控訴人に対し,本件楽曲の複製許諾をした事実はない旨主張する。
前記1で認定したとおり,補助参加人は,被控訴人に対して,本件楽曲につき,本件支払金のほかに,本件ビデオの複製本数に応じた複製許諾料の支払を求める意思表示を明示的にはしておらず,被控訴人も,補助参加人に対し,上記複製許諾料の支払を行う旨の意思表示を明示的にはしていない。しかし,同時に,補助参加人は,被控訴人に対して,本件支払金のほかに上記複製許諾料の支払を求めない旨の意思表示を明示的にはしておらず,被控訴人も,補助参加人に対し,本件支払金の支払は上記複製許諾に対する対価をも含むものである旨の意思表示を明示的にはしていないことも,弁論の全趣旨で明らかである。
したがって,本件において次の問題となるのは,本件楽曲につき,補助参加人が,被控訴人に対し,本件支払金以外の対価を支払うことなく複製することを許諾する旨の黙示の意思表示をしたと認めることができるかどうか,すなわち,上記のように,この点についての明示の意思表示のない状態の下で,それにもかかわらず明示の意思表示があったのと同様に扱うべきであると評価することを正当化する事情があったかどうか,ということである。
(2) 当事者間に争いのない事実,前記認定事実及び証拠(甲第3,第4,第11,第13,第14号証,第16号証の1ないし13,丙第1号証,原審証人【A】(以下「証人【A】」という。))を総合すると,次の事実が認められる。
ア 控訴人と補助参加人は,平成3年1月1日,補助参加人が有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を信託財産として控訴人に移転し,控訴人は,補助参加人のためにその著作権を管理することを内容とする本件信託契約を締結した。
イ 補助参加人は,本件信託契約を締結した後,今日に至るまで,その作曲に係る多数の作品(平成12年8月30日現在合計190曲)について,作品届を控訴人に提出している。このうち,補助参加人が,平成4年ころ,本件楽曲の場合と同様,東映ビデオ株式会社のオリジナルビデオの背景音楽のために作曲した作品については,同社が,控訴人に複製許諾を求めたうえで,複製許諾料を控訴人に支払い,控訴人から補助参加人に対し複製許諾料が分配された(被控訴人は,東映ビデオ株式会社が控訴人に対し複製許諾料を支払っていない旨主張し,原審における被告(被控訴人)代表者の尋問の結果中にはこれに沿う供述があり,乙第2号証にも同主張に沿う記載があるが,甲第11,第13号証及び証人【A】の証言に照らし採用できない。)。
補助参加人は,本件楽曲についても,最終的には,すべて控訴人に作品届を提出しており,うち,別紙番号1ないし10のビデオの音楽については,平成7年12月末までに作品届を提出し,その余のビデオの音楽は,番号11については平成9年に,番号12,13については平成10年に,それぞれ作品届を提出した。
上記認定によれば,補助参加人は,控訴人の会員となってからは,自らの作曲に係る,本件楽曲を含む多数の作品の作品届を控訴人に提出し,現に,これに基づき,本件楽曲の場合と同様の場合につき控訴人から複製許諾料の分配を受けた例もあることになる。被控訴人が補助参加人の黙示の意思表示により,本件支払金以外の対価を支払うことなく複製許諾を得たとするためには,上記事実の下でもなお,補助参加人が上記複製許諾の意思表示を明示的にしたのと同様に扱うことを正当化するに足る事情が認められなければならないことになるのである。
(3) そこで,本件において,このような事情が認められるか否かについて検討する。
前記1で認定した事実によれば,被控訴人は,本件楽曲の作曲につき,補助参加人に対し,1件当たり,約10万円から50万円の金員を支払ったことが認められる。被控訴人は,右金員は複製許諾料をも含むものとして支払ったものである旨主張する。
しかしながら,証拠(甲第12,第14号証)によれば,バンダイビジュアル株式会社及び東映ビデオ株式会社は,ビデオ用に作曲された背景音楽については,作曲者に対し,複製許諾料とは別個に創作委嘱料として一定額の金員を支払っていること,東映ビデオ株式会社は,ビデオの背景音楽の作曲を補助参加人に依頼した際,同人に対し,複製許諾料とは別個に,委嘱料として1件当たり,60万円から150万円の金員を補助参加人に支払ったことが認められ,これらの事実と,被控訴人が補助参加人に支払った金員が,ビデオの販売本数にかかわらず一定額であるうえ,別件で支払われた委嘱料に比べても低額であることを総合すると,本件楽曲につき被控訴人が補助参加人に支払った金員は,いわゆる委嘱料であるとみることが十分可能であり,複製許諾料を含むものであると認めるには足りないものといわざるを得ない。
被控訴人は,ビデオに使用するための背景音楽について,ビデオの販売本数に応じた複製許諾料については,これを支払わないのが業界の慣行である旨主張し,乙第3,第4,第6号証にはこれに沿う記載がある。
しかしながら,前記認定のとおり,少なくともバンダイビジュアル株式会社及び東映ビデオ株式会社がビデオの背景音楽につき複製許諾料を支払っている事実があることに照らすと,右主張及び記載を直ちに信用することはできず,支払わない例があることまでは認められても,支払わないのが慣行であるとまでは認めることができない。
―以下、略
(4) 以上述べたところによれば,結局のところ,補助参加人が,被控訴人に対し,本件支払金以外の対価を支払うことなく本件楽曲を複製することを許諾した,と積極的に認めることはできないのである。
3 付言するに,本件紛争の根本の原因は,補助参加人と被控訴人との間で複製許諾に関する明確な意思表示ないし合意がされなかったことに求められる。補助参加人が,作曲の依頼を受けるに当たって,被控訴人に対し,自分が控訴人の会員であること,被控訴人は控訴人に対して複製許諾料を支払う必要があることを明示していれば,このような紛争は避けられたということができ,その意味では,補助参加人にも本件紛争を発生させたことについての責任の一端はあるというべきである。特に,本件楽曲は,ビデオ製作用のものとして,多数複製されることが当初から予定されていたものであることを考えると,なおさらである。
しかしながら,同じことは,被控訴人についてもいえることである。
甲第14号証,原審における被告(被控訴人)代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は控訴人の存在を以前からよく知っていたこと,被控訴人と控訴人の間で,過去にもビデオの背景音楽の複製許諾料の支払をめぐって紛争があったことが認められるから,被控訴人において,このような不利益を避けるため,作曲の依頼に当たり,補助参加人に対し,控訴人との契約の有無や複製許諾の意思の有無を明らかにする等の紛争防止の措置をとることは十分に可能であったということができる。特に,被控訴人と補助参加人との力関係において被控訴人の方が優位にあること(被控訴人の自認するところである。)を考慮に入れると,このことはより一層強くいうことができる。したがって,上記の結論を,被控訴人にとって酷なものとすることはできない。
4 以上によれば,被控訴人が本件楽曲の複製許諾を得ていたとは認められず,被控訴人は,本件信託契約に基づく,補助参加人から控訴人への本件著作権の移転についての著作権登録原簿への登録の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者には当たらないものというべきである。そうすると,被控訴人は,本件楽曲につき,控訴人の複製許諾を得るべきであったのに,少なくとも過失により許諾を得ないまま複製行為をしたことになり,控訴人に対し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償の責任を負う。
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