「小冊子」(法47条)の意義
「レオナール・フジタ展『小冊子』事件」
平成1年10月06日東京地方裁判所(昭和62(ワ)1744)
【ポイント・論点】
・著作権法47条の規定する「小冊子」の意義。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 (略)
2 (略)
3 被告は、前記本件書籍の頒布行為が本件著作権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、昭和61年10月頃、本件書籍を二万部頒布したものであるところ、損害の額と推定される右侵害行為による利益の額は、本件書籍一部当りの定価1900円から作成原価500円を控除した1400円に右販売部数二万を乗じた2800万円である。仮に右主張が理由がないとしても、原告は、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができるところ、右の本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額は、本件書籍一部当りの定価1900円の10パーセントの額に実際の販売部数1万8268を乗じた347万0920円であるから、原告は、少なくとも右額の賠償を請求することができる。
―略―
三 抗弁
1 本件書籍は、次に述べるとおり、著作権法47条に規定する小冊子に該当するので、被告の行為は、原告の本件著作権を侵害しない。
―略―
理 由
一 請求の原因1及び同2(一)第一文の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、抗弁1について判断する。
著作権法47条は、美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第25条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる旨規定するところ、その趣旨とするところは、美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、これらの著作物を公に展示するに際し、従前、観覧者のためにこれらの著作物を解説又は紹介したカタログ等にこれらの著作物が掲載されるのが通常であり、また、その複製の態様が、一般に、鑑賞用として市場において取引される画集とは異なるという実態に照らし、それが著作物の本質的な利用に当たらない範囲において、著作権者の許諾がなくとも著作物の利用を認めることとしたものであつて、右規定にいう「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子」とは、観覧者のために著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小型のカタログ、目録又は図録といったものを意味し、たとえ、観覧者のためであっても、実質的にみて鑑賞用の豪華本や画集といえるようなものは、これに含まれないものと解するのが相当である。この点について更に敷えんすると、右の「小冊子」に該当するというためには、これが解説又は紹介を目的とするものである以上、書籍の構成において著作物の解説が主体となっているか、又は著作物に関する資料的要素が多いことを必要とするものと解すべきであり、また、観覧者のために著作物の解説又は紹介を目的とするものであるから、たとえ、観覧者に頒布されるものでありカタログの名を付していても、紙質、規格、作品の複製形態等により、鑑賞用の書籍として市場において取引される価値を有するものとみられるような書籍は、実質的には画集にほかならず、右の「小冊子」には該当しないものといわざるをえない。
・・・(略)。以上認定の事実によれば、本件書籍は、実質的にみて鑑賞用として市場で取引されている画集と異なるところはないから、著作権法47条の規定に関する前説示に照らし、右規定にいう「小冊子」に該当するものとは認められず、したがって、被告の抗弁1は採用するに由ないものといわざるをえない。この点に関して、被告は、本件書籍の内容は、美術展において一般に小冊子として著作権者の許諾なしに複製頒布されているカタログと同一であり、鑑賞用として市場で取引される画集のように独立の市場価値を有するものではない旨主張するところ、・・・(証拠略)を総合すると、本件書籍と同程度ないしはそれ以上の規格、紙質等を有するカタログが、著作権者の許諾を受け、あるいは許諾を受けないで、展覧会や美術館において、観覧者のために著作物の解説又は紹介をすることを目的とするものとして頒布されていること、美術館関係者や美術専門家の中には、著作権法47条の規定にいう「小冊子」の概念は、社会環境の変化、観覧者の要求等によって当然変わるものであって、その実情に照らすと、昨今のカタログは、右の小冊子に該当するものと解すべきであるとする意見を有する者があることが認められる。右認定の事実によれば、現に、本件書籍と同程度ないしはそれ以上の規格、紙質等を有するカタログの少なくとも一部は、著作権者の許諾を受けないで、展覧会等において、観覧者のために著作物の解説又は紹介をすることを目的とするものとして頒布されているという実情にあると認められるが、実情がそうであるとしても、著作権法47条の規定の趣旨に関する前説示によると、右のカタログをもって右規定にいう「小冊子」に該当するということはできず、したがってまた、許諾を受けていないということも、事実上そうであるというにとどまるものといわざるをえず、かえって、右のようなカタログが右の「小冊子」に該当するとすれば、右規定の趣旨とするところに反して、著作物を公に展示する者に対し、著作権者の許諾なしに著作物を本質的に利用することを許す結果となることを認め、著作権者の利益を不当に害することになるものというべきであって、社会環境の変化、観覧者の要求等から、昨今のカタログが本件書籍程度ないしはそれ以上のものになってきたという事実を著作権法47条の規定の解釈に当たって考慮するとしても、本件書籍のように実質的にみて鑑賞用として市場で取引されている画集と異ならないようなものまでも、右の「小冊子」に該当するものと解するときには、著作権者の利益を不当に害することになって、右規定の趣旨に反することになるものというほかはなく、したがって、被告の右主張は、採用することができない。
―略―
五 次に、原告の損害賠償の請求について判断するに、前項までに認定したところによれば、被告は、少なくとも過失により本件著作権侵害行為をしたものと認められるところ、原告は、損害の額と推定される利益の額について、定価から作成原価を控除した額である旨主張するにとどまる。しかし、書籍の出版には、一般に作成原価のほか、広告費、人件費等の諸経費を要するところ、これら経費をも控除した額をもって利益の額であると解すべきである。そうすると、諸経費に関する主張立証のない本件にあっては、結局、右利益の額を認定することができない。そこで、次いで、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額の主張について検討するに、本件書籍の定価が1900円であり、実際の販売部数が1万8258部である事実は、当事者間に争いがなく、そして、成立に争いのない乙第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額は、本件書籍の定価の10パーセントの額が相当であると認められるから、その総額は、計算上347万0920円となる。
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