複製権の時効取得
「ポパイのキャラクター著作権侵害事件」
平成9年07月17日最高裁判所第一小法廷判決
(平成4(オ)1443著作権侵害差止等)
【ポイント・論点】
・連載漫画の登場人物の複製。
・複製権の時効取得:複製権(著作権法21条)の時効取得(民法163条)の可否、時効取得のための要件及びその立証責任。
【シラバス(裁判要旨)】
・複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる。
・著作権法21条に規定する複製権は、民法163条にいう「所有権以外ノ財産権」に含まれるから、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作物の全部又は一部につき継続して複製権を行使する者は、複製権を時効により取得する。
・著作権法21条の複製権を時効取得する要件としての継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につき外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負う。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
4 ところで、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和五〇年(オ)第三二四号同五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)、複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである。
―略―
一 本件において、被上告人キング・フィーチャーズは、本件漫画の著作権に基づく損害賠償請求として、上告人が昭和57年5月31日から同59年5月31日までの間本件図柄一を付したネクタイを販売したことにより被った損害の賠償を求めている。これに対して、上告人は、次のとおり、本件図柄一の複製権につき取得時効が成立した旨の抗弁を主張している。(1) aは、本件図柄一と構成を同じくする商標につき、昭和33年6月26日商標登録出願をし、同34年6月12日に設定登録(登録第五三六九九二号)を受けたが(以下、右の商標権を「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)、同46年3月4日に本件商標権を大阪三恵株式会社に譲渡して移転登録を経由し、同会社は、同59年7月30日に本件商標権を上告人に譲渡して移転登録を経由したところ、(2) a及び大阪三恵は、昭和33年6月26日以降、本件商標権と共に本件図柄一の複製権を継続して行使してきたから、大阪三恵は20年の時効期間が経過した昭和53年6月26日に本件図柄一の複製権を時効取得したものであり、(3) 上告人は、大阪三恵から本件商標権と共に右複製権を承継した。
二 原審は、(1) 著作権法21条の複製権は、民法163条にいう「所有権以外ノ財産権」に含まれるが、(2) aは、昭和33年6月26日に本件商標の商標登録出願を行うに際して、本件漫画の主人公ポパイの絵を複製して本件図柄一を作成することについて被上告人キング・フィーチャーズの許諾を得ていないから、aによる本件図柄一の複製は同条にいう「自己ノ為メニスル意思」を欠くとして、上告人の前記取得時効の抗弁を排斥した。
三 原審の右判断のうち(2)の部分は是認することができないが、次に述べる理由により上告人の右取得時効の抗弁は採用することができないから、結局のところ、原判決の前記説示部分の違法は、その結論に影響しないものというべきである。
1 著作権法21条に規定する複製権は、民法163条にいう「所有権以外ノ財産権」に含まれるから、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作物の全部又は一部につき継続して複製権を行使する者は、複製権を時効により取得すると解することができるが、複製権が著作物の複製についての排他的支配を内容とする権利であることに照らせば、時効取得の要件としての複製権の継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利を専有する状態、すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である。
2 他方、民法163条にいう「自己ノ為メニスル意思」は、財産権行使の原因たる事実によって外形的客観的に定められるものであって、準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使しているときは、その財産権行使は右の意思を欠くものというべきである。これを本件についてみるに、原判決の挙げる、aが被上告人キング・フィーチャーズの許諾を得ないで本件図柄一を作成したという事実をもっては、aがその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使していたということはできないから(むしろ逆に、aが同被上告人の許諾を得て本件図柄一を複製したとすれば、そのことからaにおいて自己のためにする意思を欠いていたということができる。)、aによる本件図柄一の複製が自己のためにする意思を欠くものであるとして上告人の取得時効の抗弁を排斥した原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものというべきである。
3 しかし、原審の認定によれば、上告人の主張する時効期間(昭和33年6月26日から20年)の間、被上告人キング・フィーチャーズがアメリカ合衆国において本件漫画を新聞、単行本に逐次連載ないし掲載していたほか、同被上告人から本件漫画の著作権について独占的利用権の設定を受けた被上告人ハーストが我が国において多数の企業との間で本件漫画の使用許諾契約を締結し、右契約に基づいてポパイの絵の付された菓子、文具、衣料、雑貨等の商品が広く市場に流通していたというのであり、加えて、前記のとおり本件図柄一に描かれているポパイの絵は、その姿態等において格別特異な特徴はなく、他のポパイの絵一般と識別すべき特徴が何ら認められないものであって、右によれば、a及び大阪三恵は、本件漫画における主人公ポパイの絵一般についてはもちろん、本件図柄一に表示されたポパイの絵に限定したとしても、これを複製する権利を独占的、排他的に行使していたということができないから、上告人の取得時効の抗弁は理由がない。
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