漫画キャラクターの著作権法上の保護
「『サザエさん』事件」
昭和51年05月26日東京地方裁判所(昭和46(ワ)151)
【コメント】
本判決は、我が国ではじめて「キャラクター」を著作権法上保護した判例として意義があります。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
一 原告が漫画家であって、漫画「サザエさん」がその代表作であること、漫画「サザエさん」は一日分四齣の画面によつて構成された新聞連載漫画で、原告は昭和21年以降これを著作し、当初は夕刊フクニチに掲載して公表し、次いで昭和24年以降は朝日新聞に掲載して公表し現在に至つているものであること、被告は観光バスの営業を開始するに当たつて、その営業の名称を「サザエさん観光」とし、昭和26年5月1日から昭和45年12月31日までの間、観光バスの車体の両側に、別紙目録添付の写真に示すとおりの連載漫画「サザエさん」の登場人物であるサザエさんを上部中央に、カツオをその下部右側に、ワカメをその左側に配した右三者の各頭部画(本部頭部画)を作出(本件行為)し、そのバスを運行して貸切バスの業務を営んだことは当事者間に争いがない。
右のとおり、漫画「サザエさん」は、昭和21年から被告の本件行為に至るまでの間、新聞紙上に連載されてきたものであり、また証人Aの証言によれば、被告の観光バスの名称「サザエさん」は昭和26年頃一般から募集したものであり、被告は同年5月から、車体の両側に本件頭部画を描いた観光バス一台をもつて観光バス営業を開始し、昭和39年には右バスが27台になり、そのバスをいずれも原告からの使用差止めの要求があつた昭和45年12月まで引続き使用してきたものであることが認められ、右事実によれば、被告の本件行為当時、既に漫画「サザエさん」は、現に当裁判所に顕著な事実である漫画「サザエさん」の内容、すなわち次のとおりのものであつたと認められる。
すなわち、漫画「サザエさん」には、その主役としてサザエさん、その弟のカツオ、妹のワカメ、夫のマスオ、父の波平、母のお舟等が登場し、サザエさんは平凡なサラリーマンの妻として、家事、育児あるいは近所付合いなどにおいて明るい性格を展開するものとして描かれており、またその他の登場人物にしてもその役割、容ぼう、姿態などからして各登場人物自体の性格が一貫した恒久的なものとして表現されており、更に特定の日の新聞に掲載された特定の四齣の漫画「サザエさん」はそれ自体として著作権を発生せしめる著作物とみられ得る。
右のように認められる。そして、右特定の四齣の漫画には、特定の話題ないし筋とでもいうべきものが存するが、たとえ原告自身が作成した漫画であつて、その話題ないし筋が特定の四齣の漫画「サザエさん」の話題ないし筋と同一であつても、そこに登場する人物の容ぼう、姿態等からしてその人物がサザエ、カツオ、ワカメ等であると認められなければ、その漫画は漫画「サザエさん」であるとは言えないし、逆に話題ないし筋がどのようなものであつても、そこに登場する人物の容ぼう、姿態等からしてその人物がサザエ、カツオ、ワカメ等であると認められれば、その漫画は、原告自身が作成したものであればもちろん漫画「サザエさん」であり、また他人が作成した漫画であつてもそこに登場する人物の容ぼう、姿態等からしてその人物が原告の作成する漫画「サザエさん」に登場するサザエ、カツオ、ワカメ等と同一又は類似する人物として描かれていれば、その漫画は漫画「サザエさん」と誤認される場合があるであろうと解される。更にまた、右のように長期間にわたつて連載される漫画の登場人物は、話題ないし筋の単なる説明者というより、むしろ話題ないし筋の方こそそこに登場する人物にふさわしいものとして選択され表現されることの方が多いものと解される。換言すれば、漫画の登場人物自体の役割、容ぼう姿態など恒久的なものとして与えられた表現は、言葉で表現された話題ないしは筋や、特定の齣における特定の登場人物の表情、頭部の向き、体の動きなどを超えたものであると解される。しかして、キヤラクターという言葉は、右に述べたような連載漫画に例をとれば、そこに登場する人物の容ぼう、姿態、性格等を表現するものとしてとらえることができるものであるといえる。
二 被告は、前認定のとおり、観光バスの車体の両側に本件頭部画を作出した(本件行為)ものであるところ、被告の右本件行為は、話題ないしは筋とでもいうべきものを表現したものではないし、また本件行為の主たる目的にしても、「サザエさん観光」と称する観光バスの営業に供されるバスであることを表示すること、つまり被告の営業の施設ないしは活動を表示することにあるものと解される。しかし、本件頭部画は、成立に争いがない甲第五号証で認められるとおり、誰がこれを見てもそこに連載漫画「サザエさん」の登場人物であるサザエさん、カツオ、ワカメが表現されていると感得されるようなものである。つまり、そこには連載漫画「サザエさん」の登場人物のキヤラクターが表現されているものということができる。ところで、本件頭部画と同一又は類似のものを「漫画サザエさん」の特定の齣の中にあるいは見出し得るかも知れない。しかし、そのような対比をするまでもなく、本件においては、被告の本件行為は、原告が著作権を有する漫画「サザエさん」が長年月にわたつて新聞紙上に掲載されて構成された漫画サザエさんの前説明のキヤラクターを利用するものであつて、結局のところ原告の著作権を侵害するものというべきである。
―略―
三 そこで、損害の点について検討するに、前説明のとおりの被告の本件行為の態様によれば、本件行為が本件著作権を侵害するものであることについて、被告に、少なくとも過失があつたものと推認することができる。
そうすると、被告は、原告に対し、本件行為によつて原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
被告が昭和42年3月1日から昭和45年12月31日までの間に、その運行に係る観光バス二七台の車体の両側に、本件行為をしたことは当事者間に争いがない。ところで、原告は、被告の右行為により著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額相当額の損害を受けたというべきところ、右の通常受けるべき金銭の額はバス一台につき一か月当たり少なくとも金三万円であると主張する。証人B、同Cは、本件頭部画についての通常受けるべき金銭の額はバス一台につき運行一か月当たり金三万円が相当であるとそれぞれ供述するところであるが、これを裏付けるに足りる的確な証拠はなく、右供述部分をにわかに信用することは困難であるし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。しかしながら、証人Cの証言によれば、漫画その他のキヤラクターを商品に使用することを許諾する契約において、その使用料はキヤラクターが使用される商品の販売価格の少なくとも3パーセントを下らない額で定められているのが業界の慣行であることが認められるところ(他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)、被告の本件行為の場合は観光バスによる運行収入が右商品の販売価格に相当するものと解されるから、右認定の事実に基づき、本件頭部画が描かれた観光バスによる運行収入の3パーセントに当たる額を、本件頭部画についての通常受けるべき金銭の額であると認めるのが相当である。
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