ストーリー原作者と作画者との関係A
「『キャンディ・キャンディ』事件A」
平成12年05月25日東京地方裁判所(平成11(ワ)8471)
【ポイント・論点】
・ある連載漫画が、当該連載の各回ごとに、Aがストーリーを創作し、小説形式にした原稿(ストーリー原作・原作原稿)を作成してこれをBに渡し、Bが当該原稿に基づいて漫画を作成するという手順で制作された等の事情がある場合に、当該連載漫画の登場人物の絵のみを利用する行為に対して、Aの当該連載漫画の原著作者としての権利が及ぶかどうか。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
(一)被告【B】・被告アイプロの主張
(1)原告が本件連載漫画について原著作者としての権利を有するとしても、原告の右権利は、本件連載漫画の登場人物の絵のみを利用する行為に対しては及ばない。
ストーリー漫画は、確かに言語的要素と絵画的要素が渾然一体となったものととらえることができる。しかし、漫画がこのような複合的要素を有するとしても、登場人物の絵を含め、漫画の表現形式の一部であるところの絵画部分がすべて当然に言語著作物(ストーリー原作。漫画のいわゆる「原作」)を原著作物とする二次的著作物となるわけではない。登場人物の絵など漫画の絵画部分は漫画とは独立して鑑賞の対象となり得るものであり、現に、漫画作品について、絵画部分(殊に、登場人物の絵など恒久的に一定の特徴をもって描かれる絵)のみを利用する社会的実態も存在する。漫画中の絵は、漫画とは切り離しても、それ自体独立した表現物として存在し得る。また、逆に、既存の絵が漫画のなかで描かれることもあるが、この場合、漫画に描かれる個々の絵が、既存の「絵」としての固有の著作物性を喪失して漫画の表現形式の一部として漫画の中に埋没してしまうことにはならない。したがって、漫画中の絵画部分が言語著作物(ストーリー原作)の二次的著作物といえるかどうかは、個別に判断しなければならない。
著作権法が、二次的著作物の利用につき原著作物の著作者が二次的著作物の著作者と同一の種類の権利を有すると定めるのは(著作権法28条)、二次的著作物の表現形式のなかに原著作物の表現形式上の本質的特徴が表現されているからである。また、パロディ・モンタージュ写真事件最高裁判決(最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集三四巻三号二四四頁)の判示内容に照らしても、漫画作品の登場人物の絵が言語著作物(ストーリー原作)の二次的著作物といえるためには、その絵が言葉で書かれた原稿のストーリーにおける表現形式の本質的特徴を直接感得できるものであることを要するというべきである。
これを本件連載漫画における主人公キャンディを始めとする登場人物の絵についてみると、キャンディ等の登場人物の絵だけを見ても、原告の作成に係る原作原稿のストーリーの本質的特徴を表現していることを感得することはできない。したがって、キャンディ等の登場人物の絵をもって原告の原作原稿を原著作物とする二次的著作物と認める余地はない。
―略―
(二)原告の主張
(1)著作権法28条は、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定する。著作権法は、右のとおり、原著作物の著作者に、二次的著作物の著作者が有するのと同一の権利を、それも何らの限定も付さずに認めているものであり、結果的に、原著作物の著作者は、二次的著作物の著作者の有するのと同じ権利を有していることになる。
二次的著作物においては、原著作物の創作性を引き継ぐ部分と二次的著作物の著作者の創作に係る部分とが渾然一体となっているが、一個の著作物である当該二次的著作物のうち、どの部分が、あるいはどのような利用形態が原著作物の著作者の権利を生じさせるかを、いちいち論じなければならないとすると、原著作物の著作者の権利の範囲がいたずらに不明確となり、権利関係の安定を著しく欠くことになる。そこで、著作権法は、原著作物の著作者は結果的に二次的著作物の著作者が持つ権利と同じ権利を専有することとしたものである。仮に、被告【B】らが主張するように、原著作物の著作者が原著作物に表われた創作性を引き継ぐ部分にしか法的権利を持たないというのであれば、二次的著作物の利用行為はすべて原著作物の利用行為として観念して権利処理を行えば足りることになり、著作権法28条は不要な規定となる。
右のとおり、仮に登場人物の絵だけからはストーリーは読みとれないとしても、個々の登場人物の絵の利用が二次的著作物の著作者である被告【B】の著作権の行使となる以上、原著作物の著作者である原告も同じ権利を専有するのであり、登場人物の絵のみではストーリーを表現していないという点は、登場人物の絵について原告の権利を否定する理由とはならない。
―略―
第三 当裁判所の判断
1 争点1(本件連載漫画の登場人物の絵のみを利用する行為に対して、原告の本件連載漫画の原著作者としての権利が及ぶかどうか)について
(一)前記第二、一2に認定の本件連載漫画の制作の経過によれば、本件連載漫画は、原告の創作した原作原稿を原著作物とする二次的著作物に該当するものである(被告らも、本件においては、これを争っていない。)。
著作権法28条は、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定するものであり、右規定によれば、原著作物の著作者は、二次的著作物の利用に関して、二次的著作物の著作者と同一の権利を有するものというべきである。同条は「同一の種類の権利」と規定するが、これは、二次的著作物の利用に関して原著作物の著作者が二次的著作物の著作者とまったく同一の内容の権利を有することを前提とした上で、二次的著作物においてその著作者の有する権利の内容が原著作物においてその著作者の有する権利の内容と種類を異にする場合であっても、そのような権利の種類の異同にかかわらず、二次的著作物においてその著作者に認められる権利であれば、これを原著作物の著作者が有することを明らかにしたものと解するのが、相当である。したがって、原著作物の著作者は、二次的著作物の一部の利用に関しても、それが原著作物の内容を覚知できる部分かどうかにかかわらず、二次的著作物の著作者と同様の権利を有するものである。
けだし、二次的著作物は、原著作物を基礎としてこれに新たな創作的要素を付加して作成されるものであるから、その性質上当然に、原著作物の内容をそのまま引き継ぐ部分と、二次的著作物において新たに付与された創作的部分の双方を有するものであるところ、両者を区別することは実際上困難なことが多く、両者を区別して扱うこととすれば二次的著作物の利用をめぐる権利関係が著しく複雑となり、法的安定性を害する結果となること、また、二次的著作物における新たな創作的部分であっても、原著作物の内容による制約の下で付与されるものであり、原著作物の創作性に全く依拠しないとはいえないことなどから、著作権法は、両者を区別しないで二次的著作物の利用全般について、原著作物の著作者が二次的著作物の著作者と全く同一の権利を有するものとしたと解するのが合理的だからである。この点に関して被告【B】らの引用する判例(最高裁昭和五一年(オ)第九二三号同五五年三月二八日第三小法廷判決・民集三四巻三号二四四頁)は、本件とは事案を異にするものであって、本件に適切でない。
漫画は、ストーリー展開、登場人物の台詞、コマ割りの構成、登場人物や背景の絵などの諸要素が不可分一体として有機的に結合したものであり、言語的要素と絵画的要素が有機的に結合した著作物である。一般に、著作権者は、第三者が著作物の一部のみを複製する行為に対しても、著作権の侵害を理由として差止め等を求めることができるものであり、これを漫画についていえば、漫画の著作権者は、第三者が漫画を構成する要素の一部である絵画的要素のみを利用する行為、例えば漫画の登場人物の絵のみを複製する行為に対しても、著作権の侵害を理由として差止め等を求めることができる。そうであれば、ストーリー原稿を原著作物として漫画が作成されている場合においては、原著作物の著作者(原作者、著述家)は、二次的著作物の著作者(作画者、漫画家)と同様、当該漫画の登場人物の絵のみを複製する行為に対しても、著作権侵害を理由として差止め等を求めることができるというべきである。
―略―
(三)以上によれば、本件連載漫画の登場人物の絵のみを利用する行為に対しても、原告は、本件連載漫画の原著作物の著作者として、著作権を行使し得るものというべきである。
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