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ホーム リスト << 重要判例要旨 最終更新 '08/5/27

「特掲」(法61条2項)の程度

「『どこまでも行こう』・『記念樹』/JASRAC事件」

平成151226日東京地方裁判所(平成15()8356


【ポイント・論点】
「其ノ有スル総テノ著作権並ニ将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権(を移転する)」との文言によって,著作権法27条又は28条の権利が譲渡の目的として「特掲」(著作権法612項)されていると言えるか。

【判決文】

(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。


第2 事案の概要

1 争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により認められるものを含む。)

(1) 当事者

  原告(旧商号金井音楽出版株式会社)は,音楽出版社の事業を主たる目的として設立され,その後有限会社に組織変更された会社である。

  被告は,平成13年9月30日までは,平成12年法律第131号による廃止前の著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(昭和14年法律第67号。以下「仲介業務法」という。)により文化庁長官から許可を受けた音楽著作権に関する我が国唯一の著作権管理団体であり,平成13年10月1日からは,著作権等管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受け,音楽著作権を管理している公益社団法人である。その業務の内容は,音楽著作物の著作権者から著作権の信託譲渡を受け,求めに応じてその利用を許諾し,かつ,著作物使用料規程(甲53,64。以下「本件使用料規程」という。)に従って著作物使用料を徴収し,被告の手数料を控除した後,著作物使用料分配規程(乙3。以下「本件分配規程」という。)に従って各著作権者に分配することである。被告の平成14年度の年間総徴収実績額は,1060億6000円であった。

(2) 原告の権利  

  Bは,昭和41年,別紙譜面(1)記載の歌曲「どこまでも行こう」を作詞作曲し,この歌曲は,同年,株式会社ブリヂストン(当時の商号は,ブリヂストンタイヤ株式会社)のテレビコマーシャルとして,民放各社により放送され公表された(乙6)。

  原告は,昭和42年2月27日,Bから「どこまでも行こう」の歌詞及び楽曲(以下,その楽曲を「甲曲」という。)の各著作物の著作権をその編曲権を含めて信託譲渡を受けた。原告は,歌手Cの吹込みによる甲曲のレコード化によるプロモートを企画し,キングレコード株式会社がその製作販売を担当して,同年5月1日Cの歌唱による甲曲のレコードが発売された。また,原告は,甲曲の楽譜を出版するなどして,甲曲の利用の普及開発を図った(乙6)。

  原告は,同年2月28日,被告に対し,著作権信託契約約款(乙1の1及び2。以下「本件信託契約約款」という。)に従い,甲曲の著作権を信託譲渡して管理を委託した。この信託譲渡の対象に著作権法(以下「法」という。)27条の編曲権は含まれていない(ただし,法28条の権利については争いがある。)。

(3) 「記念樹」の創作

  株式会社ポニーキャニオン(以下「ポニーキャニオン」という。)及び株式会社フジパシフィック音楽出版(以下「フジパシフィック」という。)は,共同で,株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」という。)及びその系列下の地方放送局で放送するテレビ番組「あっぱれさんま大先生」のCDアルバム「キャンパスソング集」を制作することを企画した。ポニーキャニオンの担当者Dは,アルバム中の「記念樹」につきその作曲を作曲家であるEに依頼した(甲39)。 そこで,Eは,平成4年,別紙譜面(2)記載の歌曲「記念樹」に係る楽曲(以下,その楽曲を「乙曲」という。)を作曲した。乙曲は,同年12月2日,Fを作詞者,Gを編曲者,ポニーキャニオンをレコード製作者(原盤制作者),「あっぱれ学園生徒一同」を歌手とする曲として,「『あっぱれさんま大先生』キャンパスソング集」との題号のCDアルバムに収録される形で公表された。

  Eは乙曲についての著作権を,Fはその歌詞についての著作権を,それぞれフジパシフィックに対して譲渡しフジパシフィックは,平成4年12月21日,被告に乙曲の作品届を提出し,同月1日付けで被告に乙曲及びその歌詞についての著作権を信託譲渡して管理を委託した

(4) 被告の行為

  被告は,音楽著作権管理団体として,平成4年12月1日から平成15年3月13日までの間,継続的に音楽著作物利用者に対して「記念樹」の利用許諾をすることにより,その許諾を受けた利用者をして,放送,録音,演奏等をさせた

(5) 別件訴訟

  原告及びBは,平成10年7月28日,乙曲を創作したEに対し,乙曲が甲曲を複製したものであり,原告の著作権(複製権)及びBの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害するなどと主張して,損害賠償請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成10年()第17119号。以下「別件訴訟」という。)。東京地方裁判所は,平成12年2月18日,乙曲は甲曲を複製したものではないとして,原告及びBの請求を棄却する旨の第1審判決を言い渡した。

  そこで,原告及びBは控訴し,控訴審において,乙曲が甲曲の二次的著作物であるとして,法27条の権利(編曲権)侵害の主張を追加した(東京高等裁判所平成12年()第1516号)。東京高等裁判所は,平成14年9月6日,Eによる乙曲の創作が甲曲に係る編曲権を侵害するとして,第1審判決を取り消し,原告及びBの請求を一部認容する旨の控訴審判決を言い渡した(甲1)。

  Eは,上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所第三小法廷は,平成15年3月11日,Eの上告を棄却し,かつ上告審として受理しない旨の決定をした(甲2)。

  なお,原告は,平成13年2月28日,乙曲を含むCDアルバムの原盤を制作したポニーキャニオン及びフジパシフィックに対し,編曲権侵害を理由として損害賠償請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成13年()第3851号)。さらに,原告は,平成14年3月29日,テレビ番組「あっぱれさんま大先生」のエンディング・テーマ曲として,乙曲を放送したフジテレビに対し,編曲権侵害等を理由として損害賠償請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成14年()第6709号)。

(6) 別件訴訟後の被告の対応等

  フジテレビは,別件訴訟の控訴審判決を受けて,平成14年9月1日放送分を最後に,同月8日以降は,テレビ番組「あっぱれさんま大先生」において,乙曲を放送しないことを決定し,乙曲の放送を中止した。

  被告は,別件訴訟の最高裁決定を受けて,平成15年3月13日に至り,乙曲の利用許諾を中止した。

(7) 乙曲による甲曲の編曲権侵害

ア 依拠性

―略―

イ 表現上の本質的特徴の同一性

―略―

ウ したがって,乙曲は,甲曲に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が甲曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものということができる。よって,乙曲は,原告の甲曲に係る法27条の権利(編曲権)を侵害して創作されたものである。


2 本件は,被告が,音楽著作物利用者に対し,平成15年3月期から同年9月期の使用料分配に対応する期間,編曲権を侵害する乙曲を利用許諾した前記1(4)記載の行為につき,原告が,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を請求する事案である。


―略―


第4 当裁判所の判断

1 争点(1)(原告の著作権が侵害されたか)について

(1) 法27条について

  法27条は,「著作権者は,その著作物を翻訳し,編曲し,若しくは変形し,又は脚色し,映画化し,その他翻案する権利を専有する。」と規定し,法28条は,「二次的著作物の原著作物の著作者は,当該二次的著作物の利用に関し,この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定する。このように,法27条は,文言上,「著作物を編曲する権利を専有する」旨定めており,「編曲する」という用語に「編曲した著作物を複製する」とか「編曲した著作物を放送する」という意味が含まれると解することは困難である。そして,法27条とは別個に,法28条が,翻案した結果作成された二次的著作物の利用行為に関して,原著作物の著作権者に法21条から27条までの二次的著作物の経済的利用行為に対する権利を定めていることに照らせば,法27条は,著作物の経済的利用に関する権利とは別個に,二次的著作物を創作するための原著作物の転用行為自体,すなわち編曲行為自体を規制する権利として規定されたものと解される

  原告は,二次的著作物を利用許諾する行為に対しても,法27条の編曲権侵害が成立すると主張するが,そのように解すると,「編曲」の意味を法27条に例示された形態以上に極めて広く解することになるし,著作権法が法27条とは別個に法28条の規定を置いた意味を無にするものとなるから,法27条を理由とする原告の主張は,採用することができない。

(2) 法28条について

  本件において,甲曲について法27条の権利を専有する原告の許諾を受けずに創作された二次的著作物である乙曲に関して,原著作物である甲曲の著作権者は,法28条に基づき,乙曲を利用する権利を有するから,原告の許諾を得ずに被告から利用許諾を受けて乙曲を利用した者は,原告の法28条の権利を侵害することになり,原告は,上記利用者に対し,法27条に基づくのではなく,法28条に基づいて権利行使をすることができると解すべきである。

  被告は,原告が法28条の権利を有しない旨主張するので,この点について検討する。

ア 被告は,昭和40年9月1日,原告から,同年10月15日から著作権の全存続期間を信託期間として,本件信託契約約款により,原告の有する総ての著作権並びに将来取得することあるべき著作権の信託を引き受ける旨の契約を締結した。本件信託契約約款1条本文において,委託者は「其ノ有スル総テノ著作権並ニ将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権」を信託財産として受託者に移転する旨規定されている(乙1の1及び2)。そして,原告は,昭和42年2月28日,被告に対し,甲曲及びその歌詞の著作権を信託する旨の作品届を提出した(争いのない事実)。

  法61条2項は,「著作権を譲渡する契約において,法27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は,譲渡した者に留保されたものと推定する。」旨規定している。原告が被告に甲曲の著作権を信託譲渡した昭和40年当時の旧著作権法(明治32年法律第39号)においては,2条に「著作権ハ其ノ全部又ハ一部ヲ譲渡スルコトヲ得」と規定されているだけであったが,現行著作権法(昭和45年法律第48号)が施行される際,附則9条によって,旧法の著作権の譲渡その他の処分は,附則15条1項の規定に該当する場合を除き,これに相当する新法の著作権の譲渡その他の処分とみなす旨定められたため,法61条2項の推定規定は,旧法時代に行われた著作権譲渡契約にも適用される

  法61条2項は,通常著作権を譲渡する場合,著作物を原作のままの形態において利用することは予定されていても,どのような付加価値を生み出すか予想のつかない二次的著作物の創作及び利用は,譲渡時に予定されていない利用態様であって,著作権者に明白な譲渡意思があったとはいい難いために規定されたものである。そうすると,単に「将来取得スルコトアルベキ総テノ著作権」という文言によって,法27条の権利や二次的著作物に関する法28条の権利が譲渡の目的として特掲されているものと解することはできない。この点につき,法28条の権利が結果的には法21条ないし法27条の権利を内容とするものであるとして,単なる「著作権」という文言に含まれると解釈することは,法61条2項が法28条の権利についても法27条の権利と同様に「特掲」を求めている趣旨に反する。

  また,現行の著作権信託契約約款(甲5,乙3。平成13年10月2日届出)によれば,委託者は,その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を信託財産として受託者に移転する旨の条項(3条)のほか,委託者が別表に掲げる支分権又は利用形態の区分に従い,一部の著作権を管理委託の範囲から除外することができ,この場合,除外された区分に係る著作権は,受託者に移転しないものとする旨の条項がある(4条)。そして,この「別表に掲げる支分権及び利用形態」とは,@ 演奏権,上演権,上映権,公衆送信権,伝達権及び口述権,A 録音権,頒布権及び録音物に係る譲渡権,B 貸与権,C 出版権及び出版物に係る譲渡権,D 映画への録音,E ビデオグラム等への録音,F ゲームソフトへの録音,G コマーシャル放送用録音,H 放送・有線放送,I インタラクティブ配信,J 業務用通信カラオケであり,二次的著作物に関する法28条の権利については明記されていない

  他方,被告は,法28条の権利をも譲渡の対象とするのであれば,著作権信託契約約款に,例えば,社団法人日本文藝家協会の管理委託契約約款のように,「委託者は,その有する著作権及び将来取得する著作権に係る次に定める利用方法で管理委託契約申込書において指定したものに関する管理を委任し,受託者はこれを引き受けるものとする。(1) 著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の出版,録音,録画その他の複製並びに当該複製物の頒布,貸与及び譲渡 (2) 著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆送信,伝達,上映,上演及び口述 (3) 著作物の翻訳及び映画化等の翻案」という条項によって,明確に「特掲」することが可能である(弁論の全趣旨)。

  以上によれば,原告の法28条の権利が明示の合意により,被告に譲渡されたことを認めるに足りない

イ また,原告が,編曲を許諾していない二次的著作物の自由な利用までも被告に容認していたと認めるに足りる証拠はなく,他に原告の有する法28条の権利が黙示の合意により被告に譲渡されたことをうかがわせる事実はない

ウ かえって,@ 被告において,編曲著作物の届出方法が定められ,原著作物の著作権がある作品については,原著作物の著作権者の承認を証明する文書が必要とされ,被告において,編曲審査委員会及び理事会に諮って,当該編曲著作物が被告の管理する二次的著作物として妥当なものであるかどうかを決定すること(甲6,34,40,59,乙2),A 被告発行の「日本音楽著作権協会の組織と業務」と題する説明書において,「編曲や翻訳等を認める権利はJASRACに譲渡されていないので,著作権法第61条により,これらの権利は当然著作者なり,著作権者なりに留保されていることに気を付ける必要がある。」と記載されていること(甲34)等の事実によれば,少なくとも原著作物の著作権者の許諾なくして編曲され編曲著作物として届出されていない二次的著作物に関する権利についてまで信託契約の対象とする意思は,原告のみならず,被告にもなかったものと認められる。

  逆に,原著作物の著作権者の許諾なくして編曲された二次的著作物に関する権利が信託契約の対象となり,被告に譲渡されたものであるとすると,編曲権を侵害する二次的著作物が放送等により利用された場合に,被告が編曲権を侵害する二次的著作物に当たらないと判断したときには,これと異なる見解を有する原著作物の著作権者が何らの権利も行使することができないこととなる。現に,本件において,被告は,フジテレビやポニーキャニオン等の利用者に対し,乙曲について利用許諾を与えて使用料を徴収していたのであるから,被告が利用者に対し法28条の権利を行使して利用差止めや損害賠償等の請求をすることは期待し難く,原著作物の著作権者の保護に欠ける不当な結果となりかねない。

エ したがって,少なくとも法27条の権利(編曲権)を侵害して創作された乙曲を二次的著作物とする法28条の権利は,被告に譲渡されることなく原告に留保されているということができる。

オ 被告の主張について

―略―

カ したがって,原告は,編曲権を侵害して創作された乙曲を二次的著作物とする法28条の権利を有し,乙曲を利用する権利を専有するから,原告の許諾を得ることなく乙曲を利用した者は,原告の有する法28条の権利を侵害したものであり,上記利用者に乙曲の利用を許諾した被告は,上記権利侵害を惹起したものというべきである