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ホーム リスト << 重要判例要旨 最終更新 '08/6/2

「映画製作者」の意義

「『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』ビデオ・DVD事件(2)

平成180913日知的財産高等裁判所(平成17()10076著作物利用差止等請求控訴事件)


【ポイント・論点】

・「映画製作者」の意義。


【シラバス(裁判要旨)】

「映画製作者」とは,映画の著作物を製作する意思を有し,著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。


【判決文】

(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。


2 争点(1)(著作者及び著作権者)について

(1) 本件作品の著作者

ア 著作権法16条は,「映画の著作物の著作者は,・・・(中略)・・・制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定している。

上記1の事実によれば,本件作品は,確かに多数の者が明確な取決めもなく複雑に関与し合う状況の中で製作されるに至っており,錯綜した様相を呈しているが,1審原告Xは,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の監督を務め,クールズを撮影することやファンのインタビューを入れることなど作品の創作性の高い内容を決定し,自ら撮影,編集作業の全般にわたって指示を行っていることを総合して考えると,1審原告Xが本件作品の「全体的形成に創作的に寄与した」唯一の者であると認めるのが相当である。

イ 1審被告及び1審被告補助参加人は,E又はバウハウスが本件作品の著作者であると主張する。

しかしながら,上記1(1)のとおり,バウハウスは,会場の選択,ポスターやチラシの製作,保険契約の締結,会場及び機材の費用の負担,キャロルメンバーやコンサートスタッフの報酬の支払いなど,解散コンサートの運営に関する一切の業務を行い,これに要する費用一式を負担し,また,Eは,ステージをどのように構成するかを考え,解散コンサート全体のプロデュースを行ったものであって,いずれも解散コンサート自体の企画,運営に係るにすぎないところ,本件作品は,解散コンサートの模様をただ単に撮影したというにとどまらないのであるから,上記アのとおり,本件作品の「全体的形成に創作的に寄与した者」は1審原告Xであり,かつ,1審原告Xとバウハウスとの共同著作ではないと認めるのが相当である。

ウ したがって,本件作品の著作者は,1審原告Xである。


(2) 著作権法15条(職務著作)の主張について

ア 著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第216号同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁)。

イ 日本フォノグラムと1審原告Xとの間に雇用関係があることを認めるに足りる証拠はない。

また,上記(1)のとおり,1審原告Xが,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与して,作品の内容を決定し,自ら撮影,編集作業の全般にわたる指示を行っているのであって,日本フォノグラムは,本件作品の製作に全く関与していないから,本件作品の製作に関して,1審原告Xが日本フォノグラムの指揮監督下にあって,日本フォノグラムの手足として撮影だけを担当したということはできない。そして,本件作品の製作に関して,日本フォノグラムから1審原告Xに対して支払った金銭があることを認めるに足りる証拠はない(なお,日本フォノグラムから1審原告会社に対して約400万円が支払われているが,これは,パビックの技術料やパビックに対する賠償額等であって,労務提供の対価ではない。)。そうであれば,1審原告Xが日本フォノグラムの指揮監督下において労務を提供するという実態にあったということも,日本フォノグラムが1審原告Xに対して労務提供の対価として支払う金銭があったということもできない。

ウ したがって,1審原告Xは,日本フォノグラムの「業務に従事する者」に該当しないから,本件作品が日本フォノグラムの職務著作であるということはできない。


(3)
本件作品の著作権の帰属

ア 著作権法29条1項は,「映画の著作物・・・(中略)・・・の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と規定している。そして,同法2条10号は,映画製作者とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と規定している。

著作権法29条が設けられたのは,@従来から,映画の著作物の利用については,映画製作者と著作者との間の契約によって,映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと,A映画の著作物は,映画製作者が巨額の製作費を投入し,企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること,B映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し,それらすべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると,映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属するとするのが相当であると考えられたためである

著作権法2条10号の文言と上記の趣旨からみて,「映画製作者」とは,映画の著作物を製作する意思を有し,著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。

イ 上記(1)のとおり,1審原告Xは,本件作品の企画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与して,作品の内容を決定し,自ら撮影,編集作業の全般にわたる指示を行っているところ,上記1の事実によれば,解散コンサートを主催し,開催費用を負担したのはバウハウスのEであるが,本件作品に係るパビックへの支払い,機材調達等の撮影に関する事項は,対外的手続も含め,すべて1審原告会社が行っていること,本件作品の撮影方針等には,日本フォノグラム及びバウハウスは全く関与していないこと,1審原告会社は,自らTBSと交渉し,本件作品を放送させて,テレビ放送権料150万円の支払いを受けていることが認められる。

これらの事実に照らすと,1審原告会社は,@パビックに対しては,撮影を発注する主体として契約を締結し,かつ,撮影費用等に関する経済的な支出の主体であり,A特にTBSとの関係においては,本件作品に関する権利が帰属する主体として契約を締結し,放送権料に関する経済的な収入の主体であったということができる。そうすると,本件において,映画の著作物を製作する意思を有し,著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者は1審原告会社であると認められ,日本フォノグラムやバウハウスであるとは認められない。
ウ したがって,本件作品の映画製作者は,1審原告会社である。
―以下、略