二次的著作物との類否判断の手法A
「キューピー事件A(2)」
平成13年05月30日東京高等裁判所(平成12(ネ)7)
【ポイント・論点】
・二次的著作物との類否を判断するに当たっては、どの部分に着目し、どのように検討するべきか。
・我が国において原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、かつ、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者である場合、当該二次的著作物の著作権の効力は、原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみならず、当該二次的著作物全体に及ぶか。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
第2 事案の概要
本件は、控訴人が、別紙著作物目録記載の人形(以下「本件人形」という。)に係る著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者であり、被控訴人による別紙物件目録一記載のイラスト(以下「被控訴人イラスト」という。)及び同目録二記載の人形(以下「被控訴人人形」という。)の複製等が控訴人の本件人形に係る我が国における著作権(以下「本件著作権」という。)の侵害に当たるとして、被控訴人に対し、これらの複製の差止め等を求めるとともに、当審において請求を追加し、被控訴人に対し、控訴人が本件著作権の著作権者であることの確認を求める事案である。
―略―
11 複製又は翻案について
(1) 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。これを本件についてみると、上記のとおり、本件著作物は、本件イラスト著作物中に描かれたキューピーイラストを原著作物とする二次的著作物であり、また、原著作物であるキューピーイラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有するから、立体的に表現したという点を除く部分については、キューピーイラストと共通しその実質を同じくするものとして、本件著作権の効力は及ばないというべきである。
(2) そこで、この見地から控訴人主張の複製又は翻案の成否について判断するに、本件著作物それ自体が証拠として提出されていない本件においては、その複製物である本件人形と被控訴人イラスト等を対比検討するのが相当である。
ア まず、被控訴人人形を本件人形と対比すると、両者とも、・・・(筆者注:略)という点で共通する。
これに対し、本件人形と被控訴人人形とは、相違点として、・・・(筆者注:略)という点がある。
イ 次に、被控訴人イラストは、平面的な著作物であるから、立体的な本件著作物の創作的な表現が再生されているというためには、被控訴人イラストから立体的な表現を看取することができ、かつ、看取された立体的表現が本件人形の内容及び形式を覚知させるか又は本件人形の本質的な特徴を直接感得させるものであることを要するというべきである。
―以下、略
(3) そうすると、本件著作物が原著作物であるキューピーイラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有し、その余の部分に本件著作権は及ばず、他方、被控訴人イラスト等が上記の諸点において本件人形と相違し、全体的に考察しても受ける印象が本件人形と異なることに照らすと、本件著作物において先行著作物に新たに付加された創作的部分は、被控訴人イラスト等において感得されないから、被控訴人イラスト等は、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものでもなく、また、本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものでもないから、本件著作物の複製物又は翻案物に当たらないというべきである。
なお、被控訴人イラスト等の中には、被控訴人人形、被控訴人イラストの図面(一)ないし(四)等、本件著作物の本質的な特徴を相当程度感得させるかのように見られるものもあるが、本件著作物は、本件イラスト著作物を原著作物とし、これを立体的に表現したという点においてのみ創作性を付加された二次的著作物であるから、被控訴人イラスト等に本件著作権の効力が及ぶというためには、本件著作物において新たに付加された創作的部分が感得されることを要するのであって、本件人形と被控訴人イラスト等との間に上記の程度の相違点があれば、被控訴人イラスト等に本件著作権の効力は及ばないといわざるを得ない。
(4) 控訴人は、本件著作物の原著作物であるキューピーイラストについて我が国における保護期間が満了していないことを理由として、本件著作権の効力が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみならず本件著作物全体に及んでいると主張する。
しかしながら、二次的著作物の著作権が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみ生ずることは、二次的著作物の著作権者が原著作物について著作権を有していることによって影響を受けないと解するのが相当である。なぜならば、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付加されているためであって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないところ(上記最高裁判決)、我が国において原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、かつ、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者であるからといって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分について別個の著作物として保護すべき理由がないという点では、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者でない場合と何ら異なるところはないからである。
したがって、キューピーイラストの著作権について我が国における保護期間が満了しておらず、かつ、控訴人がその著作権者であるということは、本件著作権の権利範囲に影響を及ぼさないというべきであり、控訴人の主張は、採用することができない。
(5) また、控訴人は、原審第4回口頭弁論期日において、本件イラスト著作物について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはないと述べているとおり、本件において、上記原著作権に基づく請求をしていない以上、原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、控訴人が原著作権の著作権者であるということは、本件訴訟の結論に影響を及ぼさない。
12 したがって、被控訴人イラスト等が本件著作物の複製物又は翻案物であるということはできないから、控訴人の本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
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