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ホーム リスト << 重要判例要旨 最終更新 '08/6/16

著作権譲渡の対抗要件


「ダリ展覧会事件(2)」

平成150528日東京高等裁判所(平成12()4759


【ポイント・論点】

・著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法はいずれの法か。

・二重譲渡の一方当事者が相手方の対抗要件の欠如を主張し得ない背信的悪意者には該当しないとされた事例。


【判決文】

(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。

(注)下記判決中、「法例10条(1項・2項)」は、「法の適用に関する通則法(以下、通則法という。)13条(1項・2項)」を、「法例71項」については、「通則法7条」を、参照してください。


 2 争点(2)(著作権譲渡の対抗要件)について
 (控訴人の主張)

  (1) 法律上の利益

    ダリは,1982年(昭和57年)9月20日付けの遺言(以下「本件遺言」という。)により,全財産の包括承継人をスペイン国と指定したから,1989年(平成元年)1月23日のダリの死亡及び同年2月10日に公布された勅令(1989年勅令第185号,以下「89年勅令」という。)による上記包括承継の承認により,スペイン国はダリの全財産を包括承継した。

    1995年(平成7年)6月1日に公布された勅令(1995年勅令第799号,以下「95年勅令」という。)により,スペイン国は文化省に対し,ダリ作品に係る著作権について,スペイン法上の管理権及び利用権(以下,単に「管理権」及び「利用権」ともいう。)を付与した。文化省は,同年8月2日に公布された同年7月25日付け文化省令(以下,単に「文化省令」という。)により,補助参加人に対し,ダリ作品に係る著作権の管理権及び利用権を譲渡することとし,これを実施するものとして,同年8月4日,補助参加人との間で,ダリ作品に係る著作権の管理権及び利用権を補助参加人に譲渡する契約を締結した。補助参加人は,本件巨匠展に先立って,控訴人に対し,我が国における本件著作権の利用を許諾した。

  (2) 対抗要件の欠如

    したがって,控訴人は,被控訴人にとって,本件著作権の譲渡について対抗関係に立つ第三者であるから,被控訴人が本件著作権を取得したとしても,その取得について対抗要件である登録を了していない以上,控訴人に対し,本件著作権を対抗することができない。

 (被控訴人の主張)

  (1) 法律上の利益

    文化省と補助参加人との譲渡契約は無効である。すなわち,ダリは,本件契約により,被控訴人に対し,ダリ作品に係る著作権を2004年(平成16年)5月11日まで譲渡したから,ダリの地位を包括承継したスペイン国は,上記譲渡契約当時,著作権者ではなかった。上記譲渡契約は,無権利者によってされた無効なものである。したがって,被控訴人と控訴人の間に対抗関係は生じない。

  (2) 背信的悪意者

    補助参加人は,本件契約が著作権の有効な譲渡契約であり,被控訴人が本件著作権の著作権者であることを知っていたにもかかわらず,スペイン国と結託して,本件契約が委任契約でありダリの死亡により終了したという見解を採ることとして,上記契約を締結した。したがって,補助参加人は,本件契約による本件著作権の譲渡の登録がされていないことを主張する正当な利益を有しない。また,控訴人は,補助参加人から許諾を受けた者にすぎず,補助参加人が無権利者であるとの被控訴人の警告を無視して本件著作物の無断複製頒布行為に及んだものであり,控訴人は,上記登録がないことを主張する正当な利益を有しない。


―略―


 2 争点(2)(著作権譲渡の対抗要件)について

   以上のとおり,本件契約は,スペイン法上の信託譲渡契約であって,ダリ作品に係る被控訴人の権利は,1989年(平成元年)1月23日のダリの死亡により,又は遅くとも1994年(平成6年)9月13日付け書面による文化省の通知をもって,確定的に失われたものというべきであるが,被控訴人の主張にかんがみ,念のため,本件契約の法的性質をその主張のとおりの趣旨に解した場合の,本件著作権の帰すうについて判断する。

  (1) 準拠法

 ア 著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,譲渡の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。著作権の譲渡の原因である債権行為に適用されるべき準拠法については,法例7条1項により,当事者の意思に従って定められるべきものであり,本件契約は,準拠法をスペイン法とする合意がされたから(本件契約第10条第1項),これに従うべきことは当然である。また,ダリの死亡による財産の相続は,法例26条により,被相続人の本国法であるスペイン法による。

 イ これに対し,本件著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は,スペイン法ではなく,我が国の法令であると解される。すなわち,一般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ,法例10条は,その趣旨に基づくものであるが,その理由は,物権が物の直接的利用に関する権利であり,第三者に対する排他的効力を有することから,そのような権利関係については,目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり,権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。著作権は,その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という。)の法令によって定められ,また,著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により,著作権という物権類似の支配関係の変動については,保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である(東京高裁平成13年5月30日判決・判例時報1797号111頁参照)。

 ウ スペイン国及び我が国は,いずれも文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約の同盟国であるから,同条約3条(1)()及び我が国著作権法6条3号により,スペイン国民であったダリの本件著作物に係る本件著作権は,我が国においても保護される。我が国において保護される本件著作権の物権類似の支配関係の変動については,保護国である我が国の法令が準拠法となることは上記のとおりであるところ,我が国の法令は,著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとしているから,ダリと被控訴人が本件契約を締結したことにより,第三者に対する対外的関係において,ダリ作品に係る本件著作権は,ダリから被控訴人に移転したものというべきである。

(2) 法律上の利益

    ダリは,1982年(昭和57年)9月20日付けの本件遺言(戊5)により,全財産の包括承継人をスペイン国と指定したから,1989年(平成元年)1月23日のダリの死亡及び89年勅令(戊12中の記載)による上記包括承継の承認により,スペイン国はダリの全財産を包括承継した。そして,上記のとおり,スペイン国は,95年勅令(戊12)により,文化省に対し,全世界のダリ作品に係る著作権について管理権及び利用権を付与し,文化省は,1995年(平成7年)7月25日付け文化省令(戊13)により,ダリ作品に係る権利の管理権及び利用権を補助参加人に譲渡することとし,同年8月4日,文化省令を実施するために締結された補助参加人との間の契約(戊14)により,全世界のダリ作品に係る著作権の管理権及び利用権を補助参加人に譲渡した。

    ところで,スペイン知的所有権法(甲28)17条は,「著作者は,自己の著作物を利用する権利を排他的に行使することができ(その方法のいかんを問わない),特に複製権,頒布権,公の伝達権及び変形権を排他的に行使することができる。これらの利用は,この法律に定める場合を除き,著作者の許諾を取得することなく行うことができない。」と規定し,利用権(derecho de explotaci n)を排他的な権利として定めており,我が国著作権法上これに相当する権利は著作権であるから,文化省が上記譲渡契約を締結して補助参加人に対し全世界の上記利用権を譲渡したことにより,我が国におけるダリ作品に係る著作権は,スペイン国ないし文化省から補助参加人に移転したというべきである。補助参加人が,本件巨匠展に先立って,控訴人に対し本件著作権の利用を許諾した事実は,被控訴人において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。そうすると,控訴人は,ダリから被控訴人に対する本件著作権の移転について法律上の利害関係を有する第三者である

  (3) 対抗要件の欠如

    本件著作権の移転の対抗要件についても,保護国である我が国の法令が準拠法となるから,著作権法77条1号,78条1項により,被控訴人は,本件著作権の取得について対抗要件である著作権の移転登録を了しない限り,控訴人に対し,本件著作権に基づく請求をすることはできないところ,被控訴人は,この登録を了していないので(戊24),控訴人に対し,本件著作権を対抗し,これに基づく請求をすることができない

  (4) 被控訴人は,ダリが被控訴人に対し,本件契約によりダリ作品に係る著作権を2004年(平成16年)5月11日まで譲渡したことから,文化省がダリ作品に係る著作権の利用権を補助参加人に譲渡した当時,スペイン国は無権利者であったと主張する。しかしながら,スペイン国は,本件遺言によりその法律上の地位を包括承継し,文化省が勅令によりその利用権を付与されたのであるから,ダリが本件契約により被控訴人に対してした本件著作権の譲渡と,ダリの包括承継人であるスペイン国から補助参加人への本件著作権の譲渡とは,対抗関係に立つのであって,いずれかの譲渡について登録がされるなど,一方が確定的に有効となるまでの間は,いずれの譲渡も権利者による譲渡というべきであるから,スペイン国からの譲渡を無権利者によるものということはできない。

  (5) 被控訴人は,補助参加人について,本件契約が著作権の有効な譲渡契約であり被控訴人がその著作権者であることを知っており,スペイン国と結託して上記契約を締結したと主張する。しかしながら,スペイン国から補助参加人に本件著作権が譲渡された1995年(平成7年)当時,スペイン法人であり全世界のダリ作品に係る権利を扱うことが予定されていた補助参加人が,我が国において本件契約に係る著作権の譲渡が登録されていないことを知っていたなどということは,およそ考えられず,他に,補助参加人が本件著作権の移転登録が未了であることを奇貨として,あえて上記契約を締結したなど,対抗要件の欠如を主張し得ない第三者に当たることをうかがわせる証拠はない。

    また,被控訴人は,補助参加人に対し警告したと主張するところ,我が国の法令の下で,第三者が上記背信的悪意者に該当するかどうかは,当該第三者が法律上の利害関係を有するに至った時点における認識を問題とするから,この点においても,被控訴人の主張は採用することができない。

    さらに,被控訴人は,控訴人について,被控訴人の警告を無視して本件著作物の無断複製頒布に及んだと主張するが,補助参加人が背信的悪意者でない以上,補助参加人から本件著作権の利用許諾を受けた控訴人も,また,背信的悪意者であるとは認め難く,他に,控訴人が背信的悪意者に当たると認めるに足りる証拠はない。

3 以上のとおり,被控訴人の控訴人に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,原判決中,これと異なる控訴人敗訴の部分を取り消し,被控訴人の控訴人に対する請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。