精神的損害と訴訟物の個数
「パロディ・モンタージュ写真事件A」
昭和61年05月30日最高裁判所第二小法廷
(昭和58(オ)516損害賠償/結果:破棄差戻し)
【ポイント・論点】
・一個の行為によって同一の著作物についての著作財産権と著作者人格権とが侵害された場合、そのことを理由とする著作財産権に基づく慰藉料請求と著作者人格権に基づく慰藉料請求とは両立しうるか。
【シラバス(裁判要旨)】
・一個の行為により同一著作物についての著作財産権と著作者人格権とが侵害されたことを理由とする著作財産権に基づく慰藉料請求と著作者人格権に基づく慰藉料請求とは、訴訟物を異にする別個の請求であり、両者の賠償を訴訟上併せて請求するときは、訴訟物を異にする二個の請求が併合されているものであるから、被侵害利益の相違に従い著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額とをそれぞれ特定して請求すべきである。
【判決文】
(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。
1 複製権を内容とする著作財産権と公表権、氏名表示権及び同一性保持権を内容とする著作者人格権とは、それぞれ保護法益を異にし、また、著作財産権には譲渡性及び相続性が認められ、保護期間が定められているが(旧著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの。以下「法」という。)2条ないし10条、23条等)、著作者人格権には譲渡性及び相続性がなく、保護期間の定めがないなど、両者は、法的保護の態様を異にしている。したがつて、当該著作物に対する同一の行為により著作財産権と著作者人格権とが侵害された場合であっても、著作財産権侵害による精神的損害と著作者人格権侵害による精神的損害とは両立しうるものであつて、両者の賠償を訴訟上併せて請求するときは、訴訟物を異にする二個の請求が併合されているものであるから、被侵害利益の相違に従い著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額とをそれぞれ特定して請求すべきである。
2 右の点を前提とすると、被上告人の上告人に対する慰謝料請求に関する本件訴訟の経緯は、次のとおりであると認められる。
(一) 第一審において、被上告人は、上告人による本件モンタージユ写真の作成、発表により被上告人の著作者人格権及び著作財産権が侵害され、その慰謝料は数百万円に達すると主張し、上告人に対し、その一部である50万円及びこれに対する昭和46年10月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し、第一審は、被上告人の右請求を全部認容した。
(二) 差戻し前の第二審において、被上告人は、著作財産権侵害に基づく慰謝料請求を適法に取り下げ、著作者人格権侵害に基づく慰謝料請求として、50万円及びこれに対する昭和46年10月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払を求める旨申し立てた。
(三) 原審において、被上告人は、再び著作財産権に基づく慰謝料請求をする旨の申立をし、著作者人格権侵害に基づく慰謝料請求及び著作財産権侵害に基づく慰謝料請求として合計50万円及びこれに対する昭和46年10月7日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員の支払請求をした。そして、原審は、著作財産権侵害に基づく慰謝料請求を理由がないとして排斥し、著作者人格権侵害に基づく慰謝料請求については、50万円及びこれに対する昭和46年10月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払請求を理由があるものとして控訴棄却の判決をした。
そうすると、原審は、結局、著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額との合計額及びこれに対する遅延損害金のみを示し、その内訳を特定していない被上告人の請求について、控訴棄却の判決をしたものであり、右控訴棄却の判決により維持された第一審判決も著作財産権侵害に基づく慰謝料額と著作者人格権侵害に基づく慰謝料額との合計額及びこれに対する遅延損害金のみが示され、その内訳が特定されていない請求を全部認容したものである(ただし、著作財産権侵害に基づく慰謝料請求に係る部分については、差戻し前の第二審における訴えの取下げにより失効している。)。
3 したがつて、原審としては、被上告人に対し、その請求に係る慰謝料額及びこれに対する遅延損害金の内訳について釈明を求め、その額を確定したうえ審理判断すべきであつたといわなければならない。しかるに、原審は、右の点につき何ら釈明を求めることなく、前記のとおり判決しているが、右は、釈明権の行使を怠り、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきであり、この違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決中慰謝料請求に係る部分は破棄を免れない。そして、右部分については、更に求釈明して審理を尽くさせる必要がある。
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