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ホーム リスト << 重要判例要旨 最終更新 '08/06/27

万国著作権条約上の内国民待遇の原則

Tシャツの図案原画複製事件

昭和560420日東京地方裁判所(昭和51()10039


【ポイント・論点】

・ある創作物が万国著作権条約によりわが国が保護の義務を負う著作物に該当するための要件:ある創作物が万国著作権条約第2条(内国民待遇の原則)第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは、その創作物の本国の法令で判断するべきか、それとも、保護が要求されている締約国の法令により判断すべきか。


【シラバス(裁判要旨)】

ある創作物が万国著作権条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは、その創作物の本国の法令ではなく、保護が要求されている締約国の法令により判断すべきである。

ある創作物が万国著作権条約によりわが国が保護の義務を負う著作物に該当するための要件は、第一に、当該創作物がわが国の著作権法上客観的に著作物性を有するものであり(万国著作権条約第2条第1項)、第二に、当該創作物が本国の法令上保護される著作物の種類に属すること(特例法第3条第2項、万国著作権条約第4条第4項前段)ということである。


【判決文】

(注) 下線がある場合、それは筆者によるものです。


一 証人【A】(以下、「【A】」という。)の証言及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件原画は、アメリカ合衆国カリフオルニア州法により設立され、同州コスタ メサの肩書地に本店を有し、本件原画のような図案を模様として印刷したテイーシヤツの卸、小売を業とする法人である原告のパートナーたる【A】が、1971年(昭和46年)、原告の販売するテイーシヤツに模様として印刷することを目的として職務上制作したものであり、現に原告は本件原画を模様として印刷したテイーシヤツをそのころアメリカ合衆国内で販売したことが認められるところ、本件原画がわが国の著作権法による保護を受ける著作物といえるかどうかにつき争いがあるので、この点について判断する。

  わが国の著作権法は、第6条柱書において、「著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。」と規定し、第1号から第3号まで掲げるが、そのうち、まず、第1、第2号の適用があるか否かを検討するるに、本件原画は、前記のとおり原告のパートナーたる【A】がその職務上制作したものであり、証人【A】の証言及び本件口頭弁論の全趣旨により原本の存在が認められ、その原本が方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第八号証及び証人【A】の証言によれば、本件原画につき原告を著作者、著作権者としてアメリカ合衆国において著作権登録がなされていることが認められ、本件全証拠によるも外に格別の事由も認められないから、本件原画はアメリカ合衆国において著作物として保護され、原告がその著作者であり、著作権者であると認められるところ、前記のように原告はアメリカ合衆国カリフオルニア州法により設立され、同州コスタ メサの肩書地に本店を有する法人であるから、本件原画は右第1号の「日本国民」の著作物とはいえず、したがつて、同号の適用がないこと明らかであり、また、原告が本件原画を模様として印刷したテイーシヤツを1971年(昭和46年)ころ、アメリカ合衆国内で販売したという前記事実によれば、本件原画は、最初にアメリカ合衆国において発行されたものというべく、そして、その発行の日から30日以内にわが国内において発行されたことを認めるに足る証拠はないから、右第2号の適用もないこと明らかである。


二 次に、本件原画が著作権法第6条第3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に該当するか否かを検討する。
1 わが国が加盟している著作権に関する条約で本件で問題になるのは、「文学的及び美術的著作物に関するベルヌ条約」(同条約の各改正条約のうち、本件においては、1975年(昭和50年)424日からわが国について効力を生じたパリ改正条約が適用される(同パリ改正条約第18条)。アメリカ合衆国は、各改正条約も含めベルヌ条約には一切加盟していない(筆者注:アメリカは、本件の後の1989年にベルヌ条約に加盟している)。以下、右パリ改正条約によって改正されたベルヌ条約を、単に「ベルヌ条約」という。)と、万国著作権条約(1956年(昭和31年)428日からわが国について、1955年(昭和30年)916日からアメリカ合衆国についてそれぞれ効力を生じた万国著作権条約、及び1977年(昭和52年)1021日からわが国について、1974年(昭和49年)710日からアメリカ合衆国についてそれぞれ効力を生じた「1971724日にパリで改正された万国著作権条約」のうち、本件においては、前者が適用される。)であるが、まず、本件原画がベルヌ条約によりわが国が保護の義務を負う著作物に該当するか否かを検討するに、同条約によりわが国が保護の義務を負うのは、(a) いずれかの同盟国の国民である著作者(いずれの同盟国の国民でもない著作者でいずれかの同盟国に常居所を有するものは、同条約の適用上、その同盟国の国民である著作者とみなされる。)の著作物(発行されているかどうかを問わない。)及び(b) いずれの同盟国の国民でもない著作者の著作物のうち、いずれかの同盟国において最初に発行されたもの並びに同盟に属しない国及びいずれかの同盟国において同時に発行されたもの(最初の発行の国を含む二以上の国において最初の発行の日から30日以内に発行された著作物は、それらの国において同時に発行されたものとみなされる。)である(第3条。なお、第4条は本件に関係がない。)ところ、前示のとおり、本件原画の著作者はベルヌ条約同盟国ではないアメリカ合衆国の国民(法人)である原告であり、また、本件原画は、ベルヌ条約同盟国ではないアメリカ合衆国において最初に発行されたものであり、そして、その発行の日から30日以内にベルヌ条約同盟国において発行されたことを認めるに足る証拠はないから、本件原画は、ベルヌ条約によりわが国が保護の義務を負う著作物には該当しない。


2 そこで、次に、本件原画が万国著作権条約によりわが国が保護の義務を負う著作物に該当するか否かを検討することになるが、同条約第2条第1は、「いずれかの締約国の国民の発行された著作物及びいずれかの締約国で最初に発行された著作物は、他のいずれの締約国においても、その締約国が自国で最初に発行された自国民の著作物に与えている保護と同一の保護を受けるものとする。」と規定しており(なお、傍点は当裁判所が附したものである。)、前記のように、本件原画は万国著作権条約の締約国であるアメリカ合衆国の国民(法人)により制作され、同国で最初に「発行」(同条約第6条参照)されたものであるから、本件原画が右第2条第1項の規定にいう「著作物」(前記傍点を附したものをいう。以下同じ。)に当たるとすれば、「いずれかの締約国の国民の発行された著作物」及び「いずれかの締約国で最初に発行された著作物」に該当し、わが国においても「自国で最初に発行された自国民の著作物に与えている保護と同一の保護」を受けることになる(いわゆる内国民待遇の原則)ところ、各締約国の法令により保護を受ける著作物の範囲は各締約国ごとに異なりうるから、ある創作物が右第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは、その創作物の本国(同条同項にいう「いずれかの締約国」すなわち、その創作者がその国民である締約国及びそれが最初に発行された締約国。以下同じ。本件ではアメリカ合衆国。)の法令により判断するのか、保護が要求されている締約国(同条同項にいう「他のいずれの締約国」。本件ではわが国。)の法令により判断するのか、が問題になるので、この点につきまず検討する。「万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律」(以下、「特例法」という。)は、万国著作権条約の実施に伴い、著作権法の特例を定めることを目的として(第1条参照)、昭和31428日から施行されたものであるが、その3条第2は「万国条約の締約国の国民の発行されていない著作物又は万国条約の締約国で最初に発行された著作物で、その締約国の法令により保護を受ける著作物の種類に属しないものは、万国条約第2条の規定に基く著作権法による保護を受けないものとする。」と規定(右に「万国条約」とは「万国著作権条約」をいう。特例法第2条第1項)している。この規定は、著作物の保護期間についての相互主義を定める万国著作権条約第4条第4項前段の規定(「締約国は、いずれの著作物についても、発行されていないものの場合にはその著作者が国籍を有する締約国の法令により、及び発行されたものの場合にはそれが最初に発行された締約国の法令により当該著作物の種類について定められている期間より長い期間保護を与える義務を負わない。」)の解釈上、わが国の著作権法により保護される著作物の種類に属するものであつても、例えばアメリカ合衆国の法令により著作物として保護されない種類のものは、アメリカ合衆国の法令上保護期間の全く存しない著作物とみて、結局、発行されていないアメリカ合衆国国民の、又はアメリカ合衆国で最初に発行されたかかる種類の著作物は、わが国においても保護する義務がないこととなるので、この事理を明らかにすべく明文化したものと解される(第24回国会参議院文教委員会会議録第5号昭和31228日参照。)。

  右特例法第3条第2項の規定は、内国民待遇の原則を定めた前記万国著作権条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは保護が要求されている締約国の法令により判断することを当然の前提としたうえで、同条約第4条第4項前段の定める保護期間についての相互主義の適用の一場面を明文化したものということができる。けだし、同条約第2条第1項にいう「著作物」に該当するか否かを本国の法令により判断するのであれば、同条約第4条第4項前段の規定についての前記のような解釈の下に特例法第3条第2項の規定を創設する必要はないからである。また、もし同条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かを本国の法令により判断するとすれば、保護が要求されている締約国の法令により著作物として保護されていないものも、本国で著作物として保護されている限り、保護が要求されている締約国においても著作物として保護されることになるが、同条約第2条第1項の定める内国民待遇の原則とは、まさに、自国で最初に発行された自国民の著作物に与えていると同一の保護を、他の締約国の国民の発行された著作物及び他の締約国で最初に発行された著作物に与えるというものであつて、自国民に与えている以上の保護を与えるというものではないから、保護が要求されている締約国(自国)においてすら著作物として保護されていない種類のものを保護するというような結果を招来する解釈は採りえない。

  してみれば、ある創作物が万国著作権条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かは、その創作物の本国の法令ではなく、保護が要求されている締約国の法令により判断すべきものといわなければならない(本国において著作物として保護されていない種類の創作物は、たとえ保護が要求されている締約国の自国民が制作したならば著作物として保護されるものであつても、結局、保護が要求されている国においても保護されない結果となるのは、同条約第2条第1項の規定にいう「著作物」に該当するか否かを本国の法令により判断するからではなく、保護期間についての相互主義を定める同条約第4条第4項前段の規定の解釈のためである。)。

  以上によれば、本件原画が万国著作権条約によりわが国が保護の義務を負う著作物に該当するための要件は、第一に、本件原画がわが国の著作権法上客観的に著作物性を有するものであり(万国著作権条約第2条第1項)、第二に、本件原画が本国であるアメリカ合衆国の法令上保護される著作物の種類に属すること(特例法第3条第2項、万国著作権条約第4条第4項前段)ということになる。
  したがつて、次に、本件原画がわが国の著作権法上客観的に著作物性を有するものであるか否か(すなわち右第一の要件)について、項を改めて検討することとする。
―以下、略