実名登録
>> 著作権法75条
「実名登録」とは、無名又は変名で公表された著作物について、その著作物の著作者の実名(本名)を文化庁に登録する制度です。
本登録制度は、後述しますように、無名又は変名で公表された(つまり、実名で公表されていない)著作物の著作者が、公表の際にその実名を表示していなくても、実名で公表された著作物の著作者と同等の保護を享受できるようにするために設けられた制度です。
著作権法は、この実名登録について、次のように規定しています(75条1項):「無名又は変名で公表された著作物の著作者は、現にその著作権を有するかどうかにかかわらず、その著作物についてその実名の登録を受けることができる。」
著作者には、著作者人格権の1つとして、「氏名表示権」(19条1項)が認められており、自己の著作物を「無名」(著作者名を表示しない)とするか、又は自己の著作物に著作者名として「変名」(雅号やペンネームなど実名に代えて用いられるもの)を表示するかを自由に決定することができます(19条1項)。従って、公表の際に自己の著作物に「無名」又は「変名」表示をすることは、著作者としての正当な権利行使に当たります。
しかしながら、このような正当な権利行使にもかかわらず、公表の際に実名が表示されていない場合には、著作権法上、著作者の推定を受けることができず(14条)、また、保護期間の適用において不利な取扱いを受ける(52条1項)ことになります。
そこで、無名又は変名の著作物の著作者に対して、実名著作物の著作者と同程度の保護を確保するために設けられた制度が、この実名登録制度です。このような趣旨から、実名登録を受けることによって以下のような法律上の効果が発生することになります。
実名登録の効果・利点
@ 保護期間の延長
「無名又は変名の著作物の保護期間」は、原則として当該著作物の公表後50年です(52条1項本文)。ところが、一定の要件の下で実名登録を受けておきますと、この「公表後50年」の保護期間が、「著作者の死後50年」とされます(52条2項2号、51条2項)。この結果、著作者の生存期間中に無名又は変名の著作物が公表され、かつ、その公表後50年以内に実名登録が行われた場合には、保護期間の終期を当該著作者の死亡時点から起算することになるため、当該著作物の公表時点から50年を起算するよりも、当該公表時点から当該死亡時点までの期間分だけ、当該著作物の保護期間が長くなることになります。
ここで注意していただきたいのは、無名又は変名の著作物がその著作者の「死後に公表」された場合です。この場合、その公表後50年以内に実名登録がなされても、その著作者の死後50年を経過したときには、その時点で当該著作物の保護期間は消滅すると解されます(52条1項但書参照)。従って、実名登録によって保護期間が延長されるという効果は、無名・変名著作物の著作者が自身の生存中にその著作物を公表した場合に限られることになります。
A 著作者の推定
実名登録を受けた者は、著作物の原作品に、又はその複製物の公衆への提供・提示の際に、無名又は周知でない変名が著作者名として表示されているときであっても、当該登録にかかる著作物の著作者と推定されます(75条3項、14条参照)。この結果、訴訟等の場面で、実名登録を受けた者は真の著作者ではない、と主張する者がある場合には、その者は反証を挙げてこの「推定」を覆さなければなりません。これは、実名登録を受けている者にとって有利です。
B その他
以上のほかに、実名登録が行われた場合には、その旨が官報に告示される(78条2項)ほか、無名・変名著作物の発行者による権利保全が認められなくなる(118条1項但書参照)といった効果も発生します。
登録を受けるに当たっての留意点
@ 実名登録は著作者の有する氏名表示権とも関連するため、実名登録を受けることができる者は「著作者」に限られます。そして、著作者であれば、「現に著作権を有するかどうかにかかわらず」実名登録を受けることができます。従って、自己の著作権を譲渡した後であっても実名登録が可能です。この場合も、申請人は、著作者本人であって、著作権者(譲受人)ではありません。
A 実名登録は、「無名又は変名で公表された」著作物を対象としています。従って、すでに「実名」で公表されている著作物の著作者は、実名登録を受けることができません。一方、「周知の変名」で公表された著作物については、実名登録が可能です。変名の周知性に疑義がある場合に実名登録を受けておく実益があるといえるでしょう。なお、実名登録は「公表」(4条参照)された著作物に関して受けることができるもので、未だ「公表」されていない著作物について実名登録を受けることはできません。
B 上述のように、実名登録を受けることができる者は原則として著作者本人に限られますが、著作者が「遺言で指定する者」がある場合には、その著作者の死後にその遺言で指定された者によってのみ実名登録の申請が認められます(75条2項)。著作者の遺族であれば当然に実名登録の申請をすることができるわけではありません。なお、著作者が死亡すると、遺言がない限り(その遺言の中で指定する者がいない限り)、もはや実名登録を受けることはできません。
C 実名登録を受けた場合でも、以後、当然のことながら、自己の著作物に実名の表示を行う必要はありません(無名又は変名のままで構いません)。
【参考:「フジサンケイグループシンボルマーク実名登録抹消事件」(東京高裁平成9年8/28判決)】
「実名の登録の制度は、著作者に無名、変名で著作物を公表する人格的利益を確保しつつ、当該著作物について法律上実名の著作物と同様に取り扱うためのものであり、実名の登録をすることができるのは、無名又は変名で公表された著作物の著作者であるから、無名又は変名で公表された著作物について著作者でない者のために実名の登録がされている場合、真の著作者は、その著作者としての人格権に基づき、真実に反する実名の登録の抹消を請求することができるものである。
そして、無名又は変名で公表された著作物の著作権者も、不実の実名登録の抹消登録手続を求めることができると解される。すなわち、実名登録がされると、著作権法118条1項本文の規定により無名又は変名の著作物の発行者に認められる著作者又は著作権者のために自己の名をもってその権利を行使することが、同項ただし書の規定により許されなくなり、著作権法75条3項の規定により、実名登録がされている者が著作者と推定されるから、当該著作物の著作権者は、実名登録の存在により、発行者名義による差止め等の権利行使に当たり、それが許されるかどうかの点が問題とされ、自己名義による実名登録者及び第三者に対する権利行使並びに実名登録者からの権利行使においても、自己に著作権が帰属すること又は実名登録者に著作権が帰属しないことの立証につきより重い負担を負うことになるなど、円満な著作権行使を法律上、事実上制約されることになる。したがって、著作権者は、その有する著作物について、真実の著作者以外の第三者がその者を著作者とする実名登録をした場合には、その第三者に対して、当該実名登録の抹消登録手続を求めることができ、この理は、実名登録された著作物が真実の著作権者の著作物とすべて同一ではないが、その複製権(著作権法21条)を侵害する関係にある場合においても、同様であるというべきである。」
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