著作者人格権の侵害
>> 著作権法18条1項
>> 著作権法19条1項
>> 著作権法20条1項
>> 著作権法60条
著作者人格権の侵害には、次の形態のものがあります。
(1) 公表権(18条)の侵害
(2) 氏名表示権(19条)の侵害
(3) 同一性保持権(20条)の侵害
(4) 侵害とみなされる行為(113条)
(5) 著作者死亡後の人格的利益の侵害(60条)
以下、順に解説していきます。
(1) 公表権(18条)の侵害
著作者は、自己の未公表著作物を公衆に提供・提示する権利を有しています(18条1項前段)。従って、著作者の同意を得ずに無断で当該著作物を公表してしまう行為はもちろん、著作者による著作物の公表を無権限で妨害する行為なども公表権の侵害となります。
【留意点】
@ 公表権の対象となる「未公表著作物」には著作者の「同意を得ないで公表された著作物」を含むため(18条1項カッコ書)、外見上ないし法律上「公表」(4条参照)されていても、それが著作者の「同意を得ずに」公表されてしまったものであれば、公表権との関係では「未公表」として扱われ、よって、そのような著作物をさらに著作者に無断で公衆に提供・提示する行為は、なお公表権の侵害となります。
A 原著作物が未公表である「未公表の二次的著作物」を公衆に提供・提示する場合には、当該二次的著作物の著作者の同意を取り付けることはもちろんですが、そのもとになっている原著作物の著作者の公表権も働きます(18条1項後段)。従って、そのような二次的著作物を、その原著作物の著作者の同意を得ずに公表する行為は、当該原著作物の著作者の公表権を侵害することになります。
B 以下の行為には法律上著作者の公表の同意が「推定」されるため(18条2項各号)、当該行為を著作者の同意を得ずに行ったとしても、通常は、つまり同意の「推定」が覆る事情がない限り、公表権を侵害することには当たりません。
<1> 未公表著作物にかかる著作権を他人に譲渡した場合に、当該著作物をその著作権の行使によって公衆に提供・提示する行為(1号)。
<2> 未公表の美術著作物又は写真著作物にかかる原作品を他人に譲渡した場合に、当該著作物をその原作品の展示の方法によって公衆に提示する行為(2号)。
<3> 映画著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合(29条)に、当該著作物をその著作権の行使によって公衆に提供・提示する行為(3号)。
(2) 氏名表示権(19条)の侵害
著作者は、その著作物の原作品に、又はその複製物の公衆への提供・提示に際し、その実名・変名を著作者名として表示することとする権利、又は著作者名を表示しないこととする権利を有します(19条1項前段)。従って、著作者の同意を得ずに無断で、著作者の実名・変名を代えて表示する行為、実名・変名を削除する行為、無名・変名の著作物に著作者の実名を加えて表示する等の行為はいずれも氏名表示権の侵害となります。
なお、他人の著作物の全部又は一部をあたかも自己の著作物であるかのように装う「盗作」・「剽窃」は、著作権の侵害であることはもちろん、氏名表示権の侵害ともなりえます。
【留意点】
@ 二次的著作物の公衆への提供・提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、氏名表示権が働きます(19条1項後段)。
A 著作物を利用する者は、その著作物について「すでに著作者が表示しているところに従って」著作者名を表示していれば、後に当該著作物の著作者が別段の積極的な意思表示(例えば、それまで用いていたペンネームを変更したり、実名に代えたりすること)をしない限り、氏名表示権の侵害を問題にされることはありません(19条2項)。
B 著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められる場合で、さらに公正な慣行に反しないものであれば(例えば、音楽著作物をBGMとして利用する場合)、著作者名の表示を「省略」することができ、かかる省略行為は氏名表示権の侵害とはなりません(19条3項)。
なお、ここで「著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」とは、著作者名を省略しても、他の者が著作者であるとか、無名の著作物であるとか、といった誤解・錯覚等を公衆に生じさせないような場合をいいます。また、本条による著作者名の表示の省略が認められるためには、すでに当該省略行為を容認しうる「公正な慣行」が確立している必要もあります。
(3) 同一性保持権(20条)の侵害
著作者は、その著作物又は題号に、その意に反して改変(変更・切除等)を受けない権利を有します(20条1項)。従って、著作者の同意を得ずに無断で、著作物又はその題号を変更したり、削除したり、その他の改変を行う行為は、同一性保持権の侵害となります。
「同一性保持権」を侵害する行為とは、「他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為」をいう、とする最高裁の判例があり、そうすると、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、同一性保持権を侵害しない、ということになります。
なお、いわゆる「パロディー」は、著作者の同意を得ない限り(自分の著作物のパロディーに同意を与える著作者はあまりいないと思いますが…)、一般的に同一性保持権を侵害するものと解されます。
【留意点】
@ 以下に掲げる行為は、同一性保持権の侵害には当たりません(20条2項各号)。
<1> 法33条1項、33条の2・1項、34条1項の規定によって著作物を自由に利用できる場合における用字・用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められる行為(1号)。
例えば、常用漢字以外の漢字をひらがなに改めること、旧仮名遣いを現代仮名遣いに改めることなど。
<2> 建築物の増改築、修繕、模様替えによる改変(2号)。
建築物の取り壊し自体は、同一性保持権侵害の問題とはなり得ないと解されます。
<3> 特定のコンピュータで利用できないプログラム著作物を当該コンピュータで利用できるようにするために必要な改変等(3号)。
例えば、プログラムにバグ(誤り)があるため利用できない場合に、そのバグを取り除くこと、プログラムの処理速度を上げるための改変など。
<4> その他、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変(4号)。
例えば、明らかの誤字脱字を修正すること、絵画の出版にあたり印刷技術上の制約により原画の微妙な色彩が忠実に再現できないことなど。劇場用映画をテレビ放送する際に行われる短縮・再編集(トリミング)は、一般的には、「やむを得ないと認められる改変」には該当しません。
なお、本号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するといえるためには、「利用の目的及び態様において、著作者の同意を得ない改変を必要とする要請がこれらの法定された例外的場合と同程度に存在することが必要であると解する」とする裁判例があります。このような判例の考え方に従うと、著作権法20条2項各号は、真に止むを得ない場合において必要最小限度で許容される改変を規定したもので、これらは厳格に解釈・適用されるべきである、ということになりそうです。
(4) 侵害とみなされる行為(113条)
以下に掲げる@〜Dの行為は、形式的には上述しました著作者人格権固有の権利を侵害する行為とはなりませんが、著作者の人格的利益を実質的に保護して、保護の強化を図る観点から、法によって、特に侵害行為と「みなされて」います(113条)。
@ 日本国内で頒布する目的をもって、輸入時において国内で作成したとしたならば著作者人格権の侵害となるべき行為によって作成された物を輸入する行為(113条1項1号)。
この場合の侵害者は、当該物を輸入した者であって、輸出者ではありません。
A 著作者人格権を侵害する行為によって作成された物(上記@の輸入物を含む。)を情を知って、つまり権利を侵害する行為によって作成された物であることを知りながら頒布する行為、又は頒布の目的をもって所持する行為(113条1項2号前段)。
B 著作者人格権の侵害行為によって作成された物(上記@の輸入物を含む。)を情を知って業として「輸出」する行為、又はこれを情を知って業としての「輸出の目的をもって所持」する行為(113条1項2号後段)
平成18年の著作権法改正により追加された条項です。
C 権利管理情報(2条1項21号)を故意に改変等する行為(113条3項各号)。
D 著作者の名誉又は声望を害する方法によってその著作物を利用する行為(113条6項)。
公表権、氏名表示権、同一性保持権のいずれも侵害しない場合であっても、著作者の社会的評価を低下させる方法によって、あるいは、著作物の芸術的価値を著しく損なうような形で著作物を利用する行為などがこれに該当します。例えば、荘厳な楽曲を卑猥な踊りに合わせて演奏する行為や芸術的な絵画を性風俗店の看板に使う行為などがおそらくこれに該当するでしょう。
(5) 著作者死亡後の人格的利益の侵害(60条)
著作物を公衆に提供・提示する者は、その著作物の著作者が死亡した後であっても、当該著作者が生存しているとしたならば「著作者人格権の侵害となるべき行為」−公表権(18条1項)、氏名表示権(19条1項)、同一性保持権(20条1項)を侵害する行為、及び113条に該当して侵害とみなされる行為−を、その行為が当該著作者の意を害しないと認められる特別な場合を除いて、してはなりません(60条)。
著作者人格権は著作者の死亡と同時に消滅するのですが、本条及び116条の規定によって、著作者の死後におけるその人格的利益の保護は、著作者死亡後も相当長期にわたって続くことになりますので注意してください。
>> 著作者人格権
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