出版権者の義務等


解説

 出版権が設定されると、法律上、出版権者には一定の義務が、著作者・複製権者には一定の権利が発生します。
 以下、「出版権者の義務」と「著作者・複製権者の権利」を分けて解説します。

1.出版権者の義務

(1) 6月以内出版の義務

 出版権者は、設定行為に別段の定めがある場合を除いて、出版権の目的である著作物について、複製権者からその著作物を複製するために必要な「原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から6月以内」に当該著作物を「出版」する義務を負います(81条1号)。
 この義務は、第1回目の出版行為が原稿等の引渡しを受けた日から6ヶ月以内に開始されることを要求するものです。予定されている出版行為のすべてが当該6ヶ月以内に完了することまで要求するものではありません。
 「原稿その他の原品」とは、出版権の目的となっている著作物が最初に表現された有体物をいい、例えば、原稿のほか、写真や音譜、美術著作物であればその原作品などがこれに該当します。
 「これに相当する物」とは、例えば、原品である原稿のコピーなどを指します。
 「6月」としたのは、出版業界の慣例・実情を考慮したものですが、当事者間でこれと異なる契約をすることは差し支えありません(例えば、第1回目の出版の開始を3ヵ月後にする、若しくは8ヵ月後にする)。ただし、出版権者が出版義務を全く負うものではないとする特約を設けることは認められないと解されます。
 「出版」とは、著作物の複製を完了させ、かつ、その複製物を発売頒布の状態に置くことをいいます。従って、印刷(複製)を完了したというだけでは未だ出版義務を履行したとはいえず、少なくとも複製の完了した著作物を販売店に対して発送することが必要であると解されます。

(2) 継続出版の義務

 出版権者は、設定行為に別段の定めがある場合を除いて、出版権の目的である著作物について、当該著作物を「慣行に従い継続して出版」する義務を負います(81条2号)。
 「継続して」とは、通常の流通過程において需要者が常に当該出版物を入手できる状態に置くこと(「品切れ状態」にさせないこと)をいいます。必ずしも常に出版物が店頭に存在することを要求するものではありませんが、少なくとも出版物がストックされており需要者の注文等に応じて需要者が入手できる状態に置かれている必要はあります。
 なお、契約で、出版権者は継続出版の義務を全く負うものではないとする特約を設けることはできないと解されます。

(3) 再販発行の通知義務

 出版権者は、出版権の目的である著作物を「あらためて複製しようとするとき」は、その都度、あらかじめ著作者にその旨を通知しなければなりません(82条2項)。
 ここで「あらためて複製しようとするとき」とは、「増刷」や「再版」等の表示上の区別にかかわらず、一度終了した出版物の複製行為(印刷頒布行為)を再び行うとき、という意味です。
 出版権者が負うこの通知義務は、以下に解説します著作者に認められている著作物修正増減権(82条1項)に対応するものです。著作者が死亡した後は、この通知義務は消滅します。

(4) その他

 なお、出版権設定契約が締結されるときは、通常、出版権者は複製権者に対してその設定の対価を支払う義務が生じますが、以上述べてきた義務に別段の定めを設ける場合の特約や対価の支払方法その他の重要事項は書面で明確に定めておくことが望まれます。

2.著作者・複製権者の権利

(1) 著作者の著作物修正増減権

 「著作者」―‘複製権者’ではありません。注意してください―は、その著作物を出版権者が「あらためて複製する場合」には、「正当な範囲内」において、その著作物に「修正又は増減」を加えることができます(82条1項)。
 本権利は、著作者の有する同一性保持権(20条)に関連した、著作者の人格的利益保護を担保する観点から認められている権利です。従って、本権利を行使できる者は「著作者」に限られます。その著作者が複製権を現に有しているか否かは問題とされません。また、著作者が死亡した後に、その遺族等が本条によって修正増減を求めることはできません。
 「あらためて複製する場合」とは、「増刷」や「再版」等の表示上の区別にかかわらず、一度終了した出版物の複製行為(印刷頒布行為)を再び行う場合、という意味です。
 「正当な範囲内」とは、社会通念上正当と認められる範囲内のことで、例えば、出版権者に大きなコスト的負担を強いるような全面的修正や、予定されていた出版時期を大幅に遅らせるような修正増減要求は、「正当な範囲内」にあるとはいえないでしょう。
 出版権者が著作者からの正当な範囲内における修正増減の要求に従わなかった場合にはどうなるか。この場合、著作者はそれによって生じた精神的損害について損害賠償を請求することができるものと解されます。また、修正増減要求を無視して出版を行う行為は、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」(113条6項)に該当することも考えられ、その場合、当該行為は著作者人格権の侵害とみなされます。
 なお、上述しましたように、本権利の行使を確保するため、出版権者には、あらためて複製する場合の著作者に対する通知義務が課せられています(82条1項)。著作者が修正増減要求をする場合には、そのあらためて行われる複製の完了時までに要求するべきでしょう。

(2) 出版権の消滅請求権

 以下に述べます「出版権の消滅請求権」は、複製権者(Aの場合は、複製権者である著作者)の一方的な意思表示によっていったん設定した出版権を消滅させる権利です。その意思を伝える通知が出版権者に到達した時点(民法97条)で、当該出版権は消滅することになります。また、本権利は、設定行為で特約を設けて排除することはできないと解されます。

@ 出版権者の法定義務違反に基づく出版権消滅請求権(84条1項・2項)

 出版権者が「6月以内出版の義務」(81条1号)に違反したときは、「複製権者」は、当該出版権者に通知してその出版権を消滅させることができます(84条1項)。また、出版権者が「継続出版の義務」(81条2号)に違反した場合において、複製権者が「3月以上の期間を定めてその履行を催告」したにもかかわらず、その期間内にその履行がされないときは、「複製権者」は、同様に、当該出版権者に通知してその出版権を消滅させることができます(84条2項)。指定した3ヶ月以上の期間内に出版権者が継続出版の義務を履行した場合には、もはや出版権を一方的に消滅させることはできません(もっとも、この場合でも、出版が継続されなかったことによる損害については、複製権者はよって生じた損害の賠償を請求できるものと解されます)。

A 出版廃絶のための出版権消滅請求権(84条3項)

 「複製権者である著作者」は、その「著作物の内容が自己の確信に適合しなくなったとき」は、廃絶により出版権者に「通常生ずべき損害をあらかじめ賠償すること」を要件として、その著作物の出版を「廃絶するため」に、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができます(84条3項)。
 まず、本権利を行使できるのは「複製権者である著作者」(著作者でもあり複製権者でもある者)である点に注意してください。「著作者でない複製権者」(複製権者であっても著作者でない者)及び「複製権者でない著作者」(著作者であっても複製権を現に有していない者)は、いずれも本権利に基づき出版権を消滅させることはできません。
 事前の損害賠償が権利行使の要件となっているため、事前に賠償を行わない消滅請求は無効です。「通常生ずべき損害」には、例えば、まだ発売頒布していないその出版物の作成にかかったコストや在庫品の廃棄に伴う費用などのほか、出版権者が当該出版物を販売していたら得られたであろう利益の喪失分も含まれると解されます。
 なお、本権利は、著作者の人格的利益保護の観点から、出版を「廃絶するため」に認められる権利ですので、他の出版者にあらためて自己に有利な条件で出版権を設定し直すとか、第三者に現に出版権の対象となっている著作物の出版許諾(ライセンス供与)を与えるとか、さらには、一時的に出版を停止するためといった目的で本権利を行使することはできないと解されます。


関連項目

>> キーワード:出版権の設定と登録

>> キーワード:出版権

>> 重要判例:出版権関係