著作権重要判例要旨[トップに戻る]







漫画キャラクターの著作物性
「ポパイのキャラクター著作権侵害事件」平成90717日最高裁判所第一小法廷判決平成4()1443 

 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法211号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。したがって、一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない

 参考:「ポパイのキャラクター著作権侵害事件」(H9-最判)全文

【コメント】参考までに、本件における下級審の判示部分(キャラクターの著作物性に関する部分)も掲載します。 

【控訴審:平成40514日東京高等裁判所(平成2()734

 
まず、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターの著作権に基づく請求について検討するに、附帯控訴人が主張する右ポパイのキャラクターとは、「水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にマドロスパイプをくわえ、腕には錨を描き、ほうれん草を食べると超人的な強さを発揮する船乗りであって、ポパイ又はPOPEYEの名称を有するもの」というものであって、このキャラクターは、本件漫画が長期間連載される間に描かれた多数の絵を通じて一貫性をもって描かれているポパイの姿態、容貌、性格等をいうものであるというのであるから、個々の具体的な漫画それ自体とは異なる別個のものであることは、その主張自体に照らして明らかである。
 
そこで、右主張について判断するに、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターに著作権が発生するというためには、当然のことながら、右主張に係るキャラクターが著作権法211号の要件を充足し、著作物に該当することが必要であるから、まず、この点について検討してみる。
 右法条は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」としているところ、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターは、本件漫画の主人公であるポパイに作者が一貫して付与し、また、作者の創作意図が個々の具体的な漫画を通して読者に与えるところのポパイの個々具体的な漫画を超えたいわばポパイ像とでもいうべきものをいうものと解される。したがって、かかる意味でのポパイ像それ自体が、一定の「思想又は感情」を内容とするものであることは、前記の主張自体に照らして肯認することができるものというべきである。しかしながら、著作物というためには、「思想又は感情」が単なる内心に止まるものでは足りず、外面的な表現形式をとっていることが必要であるから、更にこの点について検討するに、前述したように、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターなるものは、個々の具体的なポパイ漫画それ自体ではなく、これらの個々の漫画を通じて主人公ポパイに著作者が付与しようとした特定の観念それ自体であるというべきであるから、これが個々具体的な漫画とは別個の外面的な表現形式を取っているものということはできない。
 
この点につき、…によれば、【D】は1919年からニューヨーク・イブニング・ジャーナル紙上に漫画シンブル・シアターの連載を開始したが、その1929117日掲載の漫画にポパイを脇役的存在として初めて登場させたが、1932年になって初めて、ポパイを、基本的に正直で、忠実で善悪の区別を絶対的に信じ、人間に対する真の愛情を有するという特質を備えた人物として明確に描き、以来、かかる特質を有する人物としてのポパイがシンブル・シアターの主人公として登場することとなり、かくして、ここにポパイ像が確立されたとの事実が認められるところ、かかるポパイの人物像成立の経緯をみても、附帯控訴人指摘のポパイの人物像は、個々の具体的な漫画を通して次第に確立されたものであって、これが個々の具体的な漫画を離れ、これとは別個の創作性を有する表現形式として存在するものではないことは明らかである。
 
したがって、附帯控訴人主張に係るポパイのキャラクターなるものは、ポパイの個々具体的な漫画を離れて、これとは別個の創作性を有する外部的表現形式として存在するということはできないから、著作権法211号の要件を充足していないといわざるを得ないものというべきであり、この点に関する附帯控訴人の主張は採用できない。また、ポパイの名称も前記キャラクターの一態様として著作権法上保護されるべきであるとする附帯控訴人の主張は、その前提において既に失当であるから、これが採用できないことは明らかである。

【原審:平成20219日東京地方裁判所(昭和59()10103

 原告キングフィーチャーズは、(1)被告図柄(一)ないし(六)は、本件漫画の主人公であるポパイのキャラクター著作物を複製したものである、(2)仮に、キャラクターそのものを著作物として認めえないとしても、被告図柄(一)、(二)、(四)及び(六)の絵は、本件漫画におけるポパイの絵を複製したものである旨主張するので、審案するに、(1)著作権法211号は、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定しているところ、…によれば、本件漫画は、特定のストーリーが登場人物の特定の言葉、表情及び体の動きなどによって具体的に表現されたものであることが認められ、右認定の事実によれば、原告キングフィーチャーズが主張するポパイのキャラクター(水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にマドロスパイプをくわえ、腕には錨を描き、ほうれん草を食べると超人的な強さを発揮する船乗りであって、ポパイ又はPOPEYEの名称を有するもの)というのは、本件漫画の主人公であるポパイに一貫性を持って付与されている姿態、容貌、性格、特徴等であって、右定義規定にいう思想又は感情を構成する重要な要素ではあるが、本件漫画の表現自体ではなく、それから抽出された思想又は感情にとどまるものであるから、思想又は感情を「表現したもの」ということはできず、したがって、右規定にいう著作物と認めることはできない。換言すれば、右キャラクターを著作物であるとすることは、著作物の要素の一つである思想又は感情自体を著作物として保護するということを意味し、右規定に反する結果を招来するものといわざるをえない。また、これを別の側面からみるに、若しも、ポパイのキャラクターが本件漫画の著作物とは別個の著作物として成立するとするならば、ポパイのキャラクターは、本件漫画の創作的な表現とは別個の創作的な表現として存在しなければならないことになるが、原告キングフィーチャーズのいうポパイのキャラクターというのは、本件漫画の主人公であるポパイがどのような人物であるかを説明したものにすぎず、それ自体、創作的な表現として存在するものではないから、本件漫画と離れて別個の著作物を構成するものとみることはできないものというべきである。したがって、ポパイのキャラクターが本件漫画とは別個の著作物であることを前提とする原告キングフィーチャーズの主張は、その前提を欠き、採用することができない。この点に関して、原告キングフィーチャーズは、本件漫画は、長期間連載され、その間に多数の絵が描かれているのであるが、多数の絵が関連性なく描かれるのではなく、その登場人物の姿態、容貌、性格等が一貫性を持って描かれるのであるから、本件漫画には、その登場人物についてキャラクターが表現されており、したがって、キャラクターは著作物たりうるものである旨主張するが、本件漫画は、その登場人物の姿態、容貌、性格、特徴等が一貫性を持って描かれ、本件漫画から、その登場人物についてキャラクターが抽出されるとしても、ポパイのキャラクターをもって本件漫画の著作物とは別個の著作物を構成するものと認めえないことは、前説示のとおりであるから、原告キングフィーチャーズの右主張は、採用の限りでない。また、原告キングフィーチャーズは、ポパイの名称もキャラクターの一態様として保護されるべきであると主張するが、ポパイのキャラクターをもって本件漫画とは別個の著作物を構成するものと認めえない以上、原告キングフィーチャーズの右主張も、採用しえないものといわざるをえない。












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