著作権重要判例要旨[トップに戻る]







商標権侵害の主張が権利濫用に当たると認定された事例
「『
POPEYE/ポパイ』商標権侵害事件」平成20720日最高裁判所第二小法廷判決昭和60()1576 

【コメント】本件は、「乙標章」及び「丙標章」を付した、「本件商標」の指定商品に当たるマフラー(「被告商品」)を販売していた上告人に対し、「本件商標」の商標権者である被上告人側が、本件商標権に基づいて、被告商品の販売の差止と損害賠償を求めた事案です。少し複雑な事案なので、ここで主要な事実関係をまとめておきます。

「本件商標」は、「POPEYE」の文字を上部に、「ポパイ」の文字を下部にそれぞれ横書し、その中間に、水兵帽をかぶって水兵服を着用し顔をやや左向きにした人物がマドロスパイプをくわえ、錨を描いた左腕を胸に、手を上に掲げた右腕に力こぶを作り、両足を開き伸ばして立った状態に表された、文字と図形の結合から成る。

被告商品の「乙標章」は、マフラーの一方隅部分に「POPEYE」の文字を横書にして成る。

被告商品の「丙標章」は、マフラーにつけられた吊り札に、帽子をかぶって水兵服を着用し、顔をやや左向きにして口を閉じた人物が、口にマドロスパイプをくわえ、手を上げた右腕に力こぶを作って得意顔で描かれ、その下部に右上り斜めに「POPEYE」の文字が横書された、図形と文字とから成る。

アメリカ合衆国の法人である甲は、漫画「THE THIMBLE THEATER」(漫画「ポパイ」は、もともと1929年に新聞「ニューヨーク・ジャーナル」に掲載された漫画「THE THIMBLE THEATER」に登場した。)の著作権者であるが、1981年、親会社の乙に対して当該著作権の独占的利用権を許諾し、同社の一部門が(株)丙に対し、マフラーを含むスポーツ用品に「ポパイ漫画のキャラクター」を複製することを許諾していた。上告人は、(株)丙が当該許諾に基づいて製造した被告商品を仕入れて小売店に販売していた。つまり、上告人は、「ポパイ」の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章・丙標章を付した商品を販売している者である

 以上のような事実関係のもとで、原審は、次のように判示し、被上告人側の請求を一部認容しました。

[参考:商標法29条(他人の特許権等との関係)]

商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。 


 丙標章が吊り札に使用されていて、専ら商標として使用されていることは明らかであるし、乙標章も、いわゆるワンポイントマークとして用いられていて、商品出所表示機能、品質保証機能を有するので、商標としての機能を備えて使用されていることは明らかである。
 乙標章及び丙標章は、「ポパイ」という称呼を生じさせる点で本件商標と一致し、また、「ポパイ」なる人物を想起させるから、観念でも本件商標と一致する。したがって、乙標章及び丙標章は本件商標に類似する。
 商標法29条は、商標権がその商標登録出願日前に成立した著作権と抵触する場合、商標権者はその限りで商標としての使用ができないのみならず、当該著作物の複製物を商標に使用する行為が自己の商標権と抵触してもその差止等を求めることができない旨を規定していると解すべきである。丙標章は、「ポパイ」の人物像を視覚的に表出した図形と、これに付随し一体となって説明的に結合した名称から成るので、原著作物である「THE THIMBLE THEATER」の漫画における想像上の人物である「ポパイ」の複製に当たる。したがって、丙標章は全体として、本件商標権に対する侵害とはならない。
 他方、乙標章は「POPEYE」の文字だけから成るが、このような著作物の題名や登場人物の名前は、たとえそれが直ちにキャラクターの姿態を思い浮かべるようなものであっても、著作物から独立した著作物性を持ち得ず、乙標章は著作物の複製とはいえない。したがって、乙標章に関しては、商標法29条によって本件商標権に基づく損害賠償請求を排除することはできない。

【コメント】以上の原審の判断に対し、最高裁は、「しかしながら、上記判断中、被上告人の本件商標権に基づく乙標章に対する権利行使が権利の濫用に当たらないものとした部分は首肯することができない。」と述べ、その理由として次のように判示しました。 

 被上告人は、乙標章は、商標としての機能を備えて使用されていて、かつ本件商標に類似しており、しかも、単に「ポパイ」の漫画の主人公の名称を英文で表したものであるから、「ポパイ」の漫画から独立した著作物性がなく、著作物の複製とはいえないことを理由に、乙標章につき本件商標権に基づいてその侵害を理由に損害賠償を求めることが、本件商標権の行使に当たるとして、本訴請求をしている。
 
しかしながら、前記事実関係からすると、本件商標登録出願当時既に、連載漫画の主人公「ポパイ」は、一貫した性格を持つ架空の人物像として、広く大衆の人気を得て世界に知られており、「ポパイ」の人物像は、日本国内を含む全世界に定着していたものということができる。そして、漫画の主人公「ポパイ」が想像上の人物であって、「POPEYE」ないし「ポパイ」なる語は、右主人公以外の何ものをも意味しない点を併せ考えると、「ポパイ」の名称は、漫画に描かれた主人公として想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれてきたものというべきである。したがって、乙標章がそれのみで成り立っている「POPEYE」の文字からは、「ポパイ」の人物像を直ちに連想するというのが、現在においてはもちろん、本件商標登録出願当時においても一般の理解であったのであり、本件商標も、「ポパイ」の漫画の主人公の人物像の観念、称呼を生じさせる以外の何ものでもないといわなければならない。以上によれば、本件商標は右人物像の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきであり、客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと、被上告人が、「ポパイ」の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章を付した商品を販売している者に対して本件商標権の侵害を主張するのは、客観的に公正な競業秩序を乱すものとして、正に権利の濫用というほかない











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