著作権重要判例要旨[トップに戻る]







ゲームソフト委託制作契約が二重に締結された事例における各種問題
「パチンコゲームソフト制作二重契約事件」
平成140725日東京地方裁判所(平成11()18934 


 [事案の概要]
1 紛争の背景
 
本件は,甲事件被告(乙事件被告)株式会社ジー・エー・エム(以下「ジー・エー・エム」という。)が,甲事件被告(乙事件原告)サン電子株式会社(以下「サン電子」という。)との間でゲームソフト「必殺パチンココンストラクション(仮称)」のプログラムの制作委託を,他方,甲事件原告株式会社プリズム(以下「プリズム」という。)との間でゲームソフト「実践パチンココンストラクション」のプログラムの制作委託をそれぞれ受けて,同時期に,同種のゲームソフトの委託制作契約をいわば二重に締結したことに端を発する紛争である
 
プリズムは,ジー・エー・エムから上記プログラムの納入を受け,同プログラムに基づくゲームソフトを製造し,自らが発売元,訴外東芝イーエムアイ株式会社(以下「東芝イーエムアイ」という。)が販売元となって,同ソフトを販売することを予定していた。ところが,サン電子は,ジー・エー・エムがプリズムともプログラム委託制作契約を締結した事実を知って,東芝イーエムアイに対し,東芝イーエムアイが販売を予定している上記ソフトはサン電子が有する知的財産権を侵害すると思われる旨文書で通知した(以下,同文書を「本件通知書」といい,同文書に基づくこの通知を「本件通知」という。)。すると,販売に関する実質的な決定権を有する東芝イーエムアイは,同ソフトの販売を中止した。
2 訴えの要旨
 
(甲事件)
 
前記1記載の基本的な事実関係を前提に,プリズムは,サン電子に対し,本件通知をした行為は不正競争防止法上の不正競争行為ないし一般不法行為に該当すると主張して,販売中止により被った損害の賠償を求めている。また,ジー・エー・エムに対しては,ジー・エー・エムは,プリズムに提供する資料に関し,第三者から著作権侵害等の異議が出ないこと等を保証する契約上の義務を負っているところ,これに違反したなどと主張して,債務不履行を理由に販売中止により被った損害の賠償を求めている。
 
プリズムの上記訴えに対し,サン電子は,本件通知をした行為は,権利侵害の疑いのあることをプリズムに知らせ,紛争を穏当に解決するための正当な行為であり,何ら違法性は認められないとして,不正競争行為及び不法行為の成立を否認している。また,ジー・エー・エムは,実践パチンココンストラクションは必殺パチンココンストラクションに関するサン電子の著作権等を侵害するものではないから,本件通知は,サン電子の誤った判断に基づくものにすぎず,ジー・エー・エムには何の責任もないとして,契約上の義務違反の事実を否認している。
 
(乙事件)
 
他方,サン電子は,ジー・エー・エムに対し,ジー・エー・エムは,結局,制作を委託したソフトの完成バージョンを納入していないから,これは債務不履行にあたると主張して,ジー・エー・エムに支払った金銭及び契約を履行した場合の得べかりし利益等を損害として,その賠償を求めている。
 
これに対し,ジー・エー・エムは,サン電子がジー・エー・エムに事実関係を確認することなく,著作権侵害等の事実があると一方的に判断し,東芝イーエムアイに本件通知書を送付したことにより,本件紛争が生じたのであり,このような事実関係の下では契約関係を継続しがたいとして,信頼関係破壊ないし事情変更による契約の解除を主張している。
 
(略)
4 争点
 
(甲事件)
(1) サン電子が本件通知をした行為が,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」(不正競争防止法2114号)に該当するか(争点(1))。
 
(略)
(3) ジー・エー・エムが本件契約Aに違反した事実が認められるか(争点(3))。
 
(略)
 (乙事件)
(5) サン電子は,ジー・エー・エムに対して,債務不履行を根拠に損害賠償を請求しているところ,現在に至るまでプログラム@が納入されておらず,ジー・エー・エムが,本件契約@から発生した契約上の義務を履行していないことについては,当事者間に争いがない。しかるに,ジー・エー・エムは,信頼関係破壊又は事情変更による本件契約@の解除を主張している。ジー・エー・エムによる上記契約解除の抗弁の主張に理由があるか(争点(5))。
 
(略)
 
[争点(1)について]
 
(略)
 上記によれば,本件通知書の内容は,実践パチンココンストラクションが必殺パチンココンストラクションα版の著作権を侵害する旨及び「パチンココンストラクション」を商標登録している旨において,虚偽の記載というべきであるから,サン電子が本件通知書を東芝イーエムアイに送付した行為は,虚偽の事実を告知する行為(不正競争防止法2114号)に該当するものであり,かつ,サン電子には,このような虚偽の告知をしたことにつき過失が認められる。よって,サン電子は,上記不正競争行為に基づく損害を賠償すべき責任を負うものである。
 
(略)
 
[争点(3)について]
 
この点に関してプリズムの主張する内容は必ずしも明確ではないが,前記に摘示したとおり,(1)ジー・エー・エムは,本件契約Aに基づき,第三者から著作権侵害等の異議が申し立てられることはない旨プリズムに保証したにもかかわらず,契約上の守秘義務に反して発売前にプリズム製品をサン電子に開示し,この結果,プリズム,スタジオぴえろ及び東芝イーエムアイは,サン電子から,プリズム製品の販売はサン電子の知的所有権を侵害する旨の通知を受け,同製品の発売を中止せざるを得なくなった,(2)また,仮に,サン電子が主張するように,著作権侵害の事実があるならば,やはり上記保証義務に違反する,という点を主張しているものと解される。
 
ところで,プリズムとジー・エー・エムが本件契約Aの締結に際し,取り交わした制作委嘱契約書においては,ジー・エー・エムは,プログラムマスター制作に関与した者に対する権利処理を自己の名義と責任において行うものとし,万が一当該者から何らかの異議申立てがなされた場合は,ジー・エー・エムの責任と負担において解決し,プリズムに一切迷惑をかけないものとされ(第23項),また,ジー・エー・エムは,プログラムA(「実践パチンココンストラクション」に係るプログラムマスター)をソフトウェアとして複製し,頒布に利用するについて十分な資料をプリズムに対して提供するだけでなく,提供した資料のうち,著作権者などの権利者が存するものについては,その利用について当該権利者の許諾をジー・エー・エムが得ていること,従ってプリズムがこれを利用するについていかなる第三者からも何ら異議がなされないことをプリズムに保証するものとされている(第32項)。
 
これらの条項を文言どおり解する限りでは,ジー・エー・エムがプリズムに対して明示的に保証していたのは,プログラムマスター制作に関わった者から,何らかの権利主張が出たりすることのないこと,及び,ジー・エー・エムからプリズムに提供する資料につき,著作権者などが存在する場合には,その使用につき予め許諾を得ておくことにより,後に異議が出たりすることのないことである。本件において,サン電子は,厳密には,上記のプログラムマスター制作に関わった者ではなく,また,ジー・エー・エムがプリズムに提供した資料につき著作権等を有する者でもないが,プログラムAと並行して制作されていた必殺パチンココンストラクションにつき著作権を取得することとなる者であり,また,必殺パチンココンストラクションの制作に際して資料を提供した者でもある。制作委嘱契約書の前記条項が,ジー・エー・エムにおいて権利主張をする可能性のある者として知り得る範囲の者については,プログラムAについて権利主張をすることのないように予め対処すべき点にあることに照らせば,このような意味においては,サン電子も同様の立場にある者というべきである。本件においては,サン電子から権利主張を内容とする本件通知書が発送され,ジー・エー・エム代表者においては,これを未然に回避することを怠ったばかりか,そもそも,本件通知書の発送自体,ジー・エー・エムの専務取締役であるIがプリズム製品を発売前にサン電子側に渡したことに起因したものであって,これが到達した後においても,ジー・エー・エム代表者は事態の収拾のための行動を全く行わず,その結果,プリズム製品の発売中止が余儀なくされたのであるから,ジー・エー・エムは,プリズムに対して,上記契約の不履行に基づく責任を負担するものと解するのが相当である。
 (略)
 
[争点(5)について]
 
ジー・エー・エムは,実践パチンココンストラクションの存在を知ったサン電子が,当の制作委託先であるジー・エー・エムに事情を確認することなく,ジー・エー・エムによる著作権等の権利侵害があると一方的に判断した上で,本件通知書を東芝イーエムアイに送付し,実践パチンココンストラクションを発売中止に至らしめたので,このような状況下では,契約関係を継続しがたいほどに信頼関係が破壊されたか,あるいは,契約締結時の事情が変更されたとして,契約解除の抗弁を主張する。
 しかしながら,…によれば,ジー・エー・エムは,平成9918日に,先にサン電子と本件契約@を締結し,数次にわたる協議を経て,平成1079日に,必殺パチンココンストラクションの完成バージョンの最終納期を同年109日とする旨の覚書を取り交わしたこと,それにもかかわらず,ジー・エー・エムは,資金難などからプログラマーを確保できず,そのため最終納期を過ぎても上記完成バージョンを納入できずにいたこと,その一方で,上記覚書を交わした直後の同年720日には,プリズムとの間で,必殺パチンココンストラクションと同種の,ユーザー自らがパチンコ台を自由に構成した上でパチンコプレイのできるゲームソフトであり,完全に必殺パチンココンストラクションと競合する商品である実践パチンココンストラクションを開発する旨の本件契約Aを締結したこと,同契約に基づきプリズムに納入した実践パチンココンストラクションは,前記において判示したとおり,著作権侵害の問題こそ生じないものの,必殺パチンココンストラクションと類似する点を少なからず含んだものであったこと,ジー・エー・エムは,サン電子及びプリズムに対しては,それぞれ別個のゲームソフトを並行して制作している事情を隠してそれぞれのプログラムの制作を行っていたところ,サン電子はその事実を知るに至ったが,その経緯は,ジー・エー・エムの専務取締役である前記Iが,サン電子への必殺パチンココンストラクションの納入が遅れている一方で,競合商品である同種のゲームソフトの実践パチンココンストラクションの納入・発売が間近に迫っていることなどから不安になり,自らの判断で,ジー・エー・エムの代表者であるBに無断でサン電子に事情を知らせたという異常なものであったこと,以上の各事実が認められる。
 
これらの事情に照らせば,ジー・エー・エムは,納入先であるサン電子及びプリズムの両者に秘した上で,完全な競合商品である同種のゲームソフトについてその制作を行う契約を二重に締結し,それぞれのプログラムを並行して制作するという商業道徳上問題のある行為を行ったものであり,このような事情がサン電子ないしプリズムの知るところとなった場合に,双方の商品の発売をめぐって紛争となることはジー・エー・エムにおいて容易に予想されるところであったというべきである。そうであれば,ジー・エー・エムにおいて,サン電子が本件通知書を発送した行為を信頼関係を破壊する行為として非難することは許されないというべきである。したがって,信頼関係破壊ないし事情変更を理由とするジー・エー・エムの契約解除の抗弁は,理由がない
 
(略)
 
[結論]
 
以上によれば,サン電子は,プリズムに対し,不正競争行為に基づく損害賠償として,6652500円及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金を支払うべきものであり,他方,ジー・エー・エムは,いずれも債務不履行に基づく損害賠償として,プリズムに対し6652500円,サン電子に対し金1500万円及びこれらに対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべきものである。











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