著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作物の題号の商標権侵害性
「ゲームソフト『三國志武将争覇』事件」
平成60325日千葉地方裁判所(平成5()702 

【コメント】本件は、『三國志』との登録商標(「本件商標」:「指定商品」…「コンピューター用プログラムを記録した磁気テープ、コンピューター用プログラムを記憶した磁気ディスク、その他本類に属する商品」)の商標権者である債権者が、『三國志武将争覇』との「債務者標章」の付されたコンピューター用ゲームソフト(「本件商品」)を販売している債務者に対して、債務者による債務者標章の使用行為は、本件商標権を侵害すると主張して、債務者標章の使用の禁止等を求めた仮処分事件です。 

 債務者は、債務者標章は、本件商品中に内蔵されたゲーム用プログラムの題号として、本件商品に表示されているものであるから、本件商品に関して商標として用いられているものではない旨の主張をしているので、以下、この点について検討を加える。
 
商標の本質は、自己の営業にかかる商品を他人の営業にかかる商品と識別するための標識として機能することにあると考えられるが、右のような商標の本質に加えて同法1条に所定の同法の目的、同3条の商標登録の要件に関する各規定を総合すると、同法における商標の保護は、商標が自他商品の識別標識としての機能を果たすのを妨げる行為を排除し、その本来の機能を発揮できるよう確保することにあるとすべきである。従って、商標権者等の差止請求権を規定する商標法361項、及び、右差止の前提として商標権に対するいわゆる擬制侵害について規定する商標法37条については、商標法211号が、商標の定義として、「文字、図形若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品に使用をするもの」は全て商標とする旨を規定しているところではあるが、前記商標保護の趣旨に従って限定的に解釈すべきなのであって、商標権者が、登録商標と同一ないし類似する商標を使用する第三者に対し、その使用の差止等を請求し得るためには、右第三者の使用する商標が単に形式的に商品等に表示されているだけでは足らず、それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることを要するものと解すべきである。
 
そこで、右の解釈を前提として本件についてさらに検討すると、…によれば、「三国志」の語句は、晋の陳寿撰による中国の後漢末代の魏・呉・蜀の三国の史書の題名、ないしは、羅貫中作にかかる、右史書を題材に、劉備・関羽・張飛らの武将を中心的登場人物として、前記三国の興亡を描いた長編小説「三国志演義」の題名を指称ないし略称するものとして普通に用いられているものであるところ、わが国においては、特に後者の文学を略称するものとして用いられ、右題号や内容の大筋は、わが国において既に広く周知され愛好されているものであること、本件商品は、コンピューター用ゲームを記憶させたプログラムを内蔵するコンピューター用磁気ディスクであるが、同ゲームの内容は、その主人公である「関羽」と命名された武将他四名の武将らを画面上で操作し、それぞれの有する必殺技を駆使して、相手方の「曹操」と命名された武将他六名の武将らと戦わせ、これを倒して天下統一を達成することを内容とするいわゆるアクションゲームであるところ、その登場人物や舞台背景、筋立て等は、概ね前記「三国志演義」に題材を取り、これを模したものであること、債務者の本件商品に対する債務者標章の表示の方法は、そのパッケージの表側に、右ゲームに登場する前記武将らの半身像を画面一杯に大きく描いた上で、その下部に標章一を「三國志」の部分は特徴ある黒の筆書体で、「武将争覇」の部分はこれに並べて相対的に小さく赤の筆書体で横書きにして表示し、同パッケージの裏側には、遊戯方法等を図入りで説明しながら、その中央上部に標章二を同一と同様の色と書体で、「三國志」と「武将争覇」の語句の上下を入れ換えて表示し、同パッケージの背部には標章三を、前記標章と同様の色と書体で、「三國志」の部分を「武将争覇」の部分の上部に相対的に小さく縦書きにして表示するというものであること、「三国志」なる文学の題号は、前記のとおり相当に周知のものとなっているところ、右のような著明な文学を題材とするコンピューター用ゲームが一般に生産されていることもまた、既にその取引需要者には相当に広く知られているものであるから、右語句が前記のような態様でコンピューター用ゲームソフトのパッケージに付されていることを右取引需要者らが視認する場合には、右語句が同ゲームの題材や出典を表示するものと認識することは可能であると見られることがそれぞれ一応認められる。
 
ところで、書籍である前記「三国志演義」が、現行の著作権法上、著作物とされることは明らかであるが(同法1011号)、今日においては、コンビューター用ゲームについても、そのプログラム自体やそのアウトプットである影像は、思想又は感情の創作的な表現としての面を有することに鑑みて、いずれも著作物性を承認されているものである(同法1019号、7号)ところ、一般に著作物の題号は、専らその創作物としての内容を表示するための名称として、普通に用いられる方法で著作物を含む商品に表示されている場合には、仮に右題号が、その指定商品について登録された商標と同一ないし類似している場合であっても、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられている標章ではないものとして、当該登録商標の禁止権は及ばないものと解すべきである。蓋し、著作物の題号は、右の趣旨で用いられている場合においては、商品を識別しその出所を明らかにするという、前記商標本来の機能を有しない上、著作物の製作者や出版者においても、著作権法に違反しない限り、その創作物自体を出版したり、これを引用する際などにおいて、その自由な使用を確保すべき公益的な要請が高いものだからである。そして、右のような著作物の題号に対する法的保護は、コンピューター用ゲームを記憶させた著作物であるプログラムについて、創作者がその創作物としての内容を表示する名称として題号ないし名称を付した場合においても、書籍等の題号の場合と異なるところはないものと考えられる。
 
そこで、前記認定にかかる「三国志」の語句の意味や、債務者のゲームの内容、債務者による債務者標章の使用態様、取引需要者の理解能力等の諸事情を総合し、また、これを書籍や映画を収録したビデオ等における通例の題号の使用の態様の場合と対比してみるならば、債務者標章は、いずれも、本件商品に内蔵された著作物であるコンピューター用ゲームプログラムの創作物としての内容を表示する題号としてそのパッケージに表示されているものであり、さらに、その「三國志」の部分は、同プログラムのアウトプットである影像の内容である同ゲームが、創作物としての前記「三国志演義」の題号を有する書籍に題材を取ったものであることを記述する趣旨で、同書籍の内容を引用表示するために表示されているものと言うことができるものであるから、いずれの点からも、自他商品の識別機能としての機能を果たす態様で使用されているとは認められない
 
(略)
 
以上のとおり、債務者標章は、いずれも自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているものとは言えないから、前記で判示したところに従うと、本件商標を侵害するものとみなすことはできない結果、債権者は債務者に対して、債務者標章の使用を差し止めることができないものと言わなくてはならない。
 
そうすると、債務者標章の使用が本件商標権に対する侵害となることを前提とする本件各申請は、その前提を欠くから、その余の点について判断するまでもなく、いずれも失当というべきである。











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